第31話 腹黒勇者
冒険者一行の殲滅から十日が過ぎた。
こちらの死者は二十四名。重軽傷者ももちろんいたが、魔族は回復が早いらしく、一週間も経たずに負傷者は皆全快していた。
捕虜については、絞れるだけ情報を絞り出した後に、男性は淫魔の餌に。女性は、洗脳や暗示を利用した搦め手の駒として、地下牢に監禁している。
あの後、日を空けてリュベを訪れてみた。冒険者一行が予定された帰還日を過ぎても、誰一人として戻らないという異常事態に、ギルドだけでなく軍や市井の人間までもが混乱していた。
緊急で、軍とギルドの代表達が会議を行ったようだが、意見はまとまらないらしい。
さらに大規模な偵察隊を出す、魔軍の大攻勢があると予測して後方の各国に救援を求める、ギルドの冒険者を一時的に軍の指揮下に置いて指揮系統を一本化する、民間人の避難準備を進める・・・などなど。
議論が紛糾するばかりといった様子だ。
北方のリュガはしばらく、積極的には動けない。それを前提として、俺は次の一手を打つことにした。
次の標的は、南部のキレネントス。まともに攻略しようとすればトーチカの的になるだけなので、ここでも搦め手を使う。
先の戦いで捕らえた冒険者の女二人に上級悪魔による暗示を施して、南部の魔軍がトーチカを破壊するための大砲を、鉱石の良く取れる峡谷に陣地を築いて生産しようとしている。そのために、ここ数か月彼らの攻勢がなかった。他の仲間は敵に捕まって、自分たちのみが助かったという欺瞞情報を脳に刷り込ませる。
ついでに、俺に絶対服従という暗示もかけてもらう。(決して、個人的な欲求を満たすことが目的ではない。やましいことは考えていない!)
口だけでは信憑性が薄いと考えて、大砲の設計図をでっちあげて彼女たちに持たせ、キレネントスへと向かわせた。設計図は、ドワーフの谷で鉄砲作りに試行錯誤していた経験を生かして、俺が描いた。
その情報を元に会議が開かれ、話の信憑性を確かめるために、軍の斥候が噂の峡谷へと派遣される運びとなった。・・・と、暗示をかけた例の二人の女性から聞き出した。
俺はすぐさま峡谷へと取って返し、欺瞞工作の完成を急いだ。
そして、数日後に斥候が峡谷へと到着。そこで彼らが見たものは、オークにツルハシを振るわせて作ったいくつかの偽の坑道と、ねこ車などを使って忙しく働いている(ように演技させている)魔族達。聞いたものは、一際大きな洞窟から響く火薬石による炸裂音。(大砲の試射の音だと誤認させるため。アイテムリュックはペソリカが預かっていたらしく、今回の為に返却してもらった。)
これらの欺瞞に見事に引っかかった斥候達は、自分達がずっと監視されていたことにも気づかずに慌てて帰途についた。
後に暗示の二人から、軍が峡谷への攻勢をかけるつもりだという証言を入手。
ここまでは、完全に俺の描いた筋書き通りの展開だ。
そして、攻勢当日。軍が峡谷に姿を見せたタイミングで、採掘作業をしている(フリをした)魔族達を一斉に逃走させる。軍はこれを追わず、探索の為に隊を分けて洞窟内へと足を踏み入れていく。
あとは、洞窟の天井に仕掛けた時限式の爆薬(冒険者一行を殲滅した時の戦利品)の起爆に合わせて、峡谷の両側から伏せていた戦力を雪崩れ込ませる。
洞窟内にいた敵は、生き埋め。爆薬に気付いていち早く洞窟から脱出した者も、飛行種の空からの攻撃と地上からの挟み撃ちという三方向からの攻撃に晒され、外での見張りを担当していた兵士と共に圧殺されていった。
とはいえ、戦闘のスペシャリストである軍隊を相手にしたため、こちらにもそれなりの被害は出ている。
俺はしばらく南部に留まって、情報収集と各隊の再編成の指揮を執ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます