第29話 細工は流々・・・

 魔王との協力関係構築から四か月が経った。短くも長くもないその期間で、俺は魔王の側近兼参謀としてのポジションに収まっていた。


 俺が重視したのは、一に戦力増強。二に戦術戦略の基礎を各指揮官に叩きこむこと。三に軍の再編だ。





 戦力増強については、小難しいことはほとんどしていない。戦線を大きく下げただけだ。


 敵の都市近くに戦力を駐留させると、斥候との遭遇などで被害がどんどん嵩んでくる。そこで、軍隊の駐留地点を前線から離れた数か所にまとめ、防戦に徹することにした。


 時折、冒険者のパーティが訪れたり、動きが沈静化したのを不審に思った軍が出した、威力偵察を企図した遠征部隊と遭遇することはあったものの、これらは戦力を集中させたことによる数の暴力で押しつぶした。当然、被害も軽微だ。情報を敵に与えないため、一人も生かして返さないことも厳命した。また、幾人かを捕虜にして、人間側の情報も収集している。


 そして、稼いだ時間を使って魔族の総数を確実に増やしていった。





 また、部隊運用の合間に、指揮官を代わる代わる魔王城へと帰参させて、戦略と戦術についての講義を行った。といっても、俺は戦略家でも戦術家でもないので、高尚なものではない。元の世界で実際に使われた戦略や戦術について話したり、解説したに過ぎない。


 それでも、数で押すことや夜襲といった策しか持たなかった彼らにとっては、参考程度になるだろうと考えたのだ。


 また、敵がとりえる戦略や戦術についても伝えた。本質的な対策がないものもあるが、それでも事前に知識があるに越したことはないだろう。





 軍の部隊編成についても、大きくメスを入れた。以前は、どの部隊も戦力が均等になるように戦力が配備されているだけの代物だった。これでは部隊というよりも集団だということで、各部隊の構成を見直し、より個性と役割を強調した部隊編成を行った。


 例えば、遊弋種を筆頭に飛行や浮遊が可能なものを集めて空戦部隊を作ったり、同種でも使う武器毎に隊を分けて、槍隊や鉄砲隊の真似事をさせてみたり。





 後方支援に徹している魔族についても、注文を付けてみた。かつて人が使っていた炉を使い、武器を作っている上級魔族の職人には、武器の規格の統一を求めて、運用面を改善したりなどだ。





 最初は、魔王の側近として仕えているとはいえ、人間である自分の指示にどこまで従ってくれるか不安だったが、そのあたりは魔王が裏でフォローしていてくれたらしい。おかげで改革は滞りなく進んだ。





 そんなことを続けているうちに、俺自身の名声も少しずつ高まり、気がついたら参謀だの軍師だのと呼ばれるようになったわけだ。正直、面映ゆい。


 ・・・実は、決戦に向けて他にも布石を打っておいたのだが、どの程度機能するかは未知数だ。








 また、自身の鍛錬の方だが、影術の扱いについては完全に体得していた。その訓練の過程の思わぬ副産物として、自身の保有魔力も大きく上昇したため、以前よりも高威力の魔術をより使えるようになった。


 転移などの、以前なら魔力を練る必要があった術式も、かなり短時間で行使できるようになっている。


 教師役を務めてくれたペソリカには、感謝してもし足りない思いだ。・・・とはいえ、夜這いを受け入れるつもりはないが。それとこれとは別である。





 そうして内政に努めていた矢先、一つの無視しえない情報が飛び込んできた。ギルドに所属する冒険者の有志達が集まり、大規模な威力偵察を行うというのだ。こちらが戦線を大きく下げた上、生還者がおらず情報が入らないのに業を煮やしたらしい。


 俺が直接リュベに赴いて得た情報であるため、信憑性はかなり高い。


 保有魔力が増えたことで長距離の転移も行えるようになったため、それを利用して、空いた時間で各地を訪ねて情報収集を行っている。ハスィンは顔がばれているので無理だが、他の前線都市や近隣の街においては怪しまれることなく行動できる。自分が人間の協力者であることを生かした立ち回りというわけだ。





 それはともかくとして、これは大きなチャンスといえる。のこのこやってきた冒険者共を、計略に嵌めて一網打尽にできれば、リュベの防衛戦力に大きな損失を与えることができる。


 そう考えた俺は、リュベ方面を担当している部隊長達を集め、魔王の御前で作戦会議を開催。


 休憩を挟んだとはいえ、半日をかけた長い議論の末に、撃滅のためのプランを策定したのだった。








 ・・・そして、情報を得てから五日が経ち、ついに冒険者の群れが迎撃予定の地点に姿を現したのだった。

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