第28話 魔王軍の現状

 魔王への協力を確約したその夜。俺は、渡された資料の内容をまとめていた。





 まず、互いの勢力図について。


 魔王軍は、大陸の西半分ほどを制圧下に置いていて、滅ぼした街の他、天然の洞窟などを拠点としている。


 現在、魔王軍の進撃を阻んでいる街は三つ。


 北部のリュベ、南部のキレネントス、そして中央のハスィン。


 リュベは、城壁や砦といった防御陣地はないものの、代わりに冒険者ギルドの本部がある。腕利きの冒険者が多く滞在しており、彼らの個々の技量によって、こちらの攻勢を撃退している。


 キレネントスは、街へ続く一本道にトーチカが多数建設されていて、進軍中にハチの巣になること必至らしい。


 立地や防備を考えると、比較的攻めやすいのはリュベということになるのだが、数多の冒険者とは別に軍隊も駐留しているため、敵の頭数が飽和気味で攻めきれずにいるようだ。





 次に、魔族についてだが、一級から五級までの等級があるようで、上に行くほど知性が高いらしい。


 つまり、一級だから強いというわけではなく、むしろ肉体については下級の魔族の方が発達している者が多い。


 代わりにというべきか、上級の魔族は特殊な能力を持っているものがほとんどだという。戦闘員としては、下級が直接戦闘担当で、上級はそれを支援する搦め手担当となることが多い。


 また、知性がある魔族共通の術として、影術というものがある。これは、自然術の影バージョンとでもいうべきもので、影を実体化させて武器や鎧などに変化させるという術らしい。


 もっとも、これで鎧を作ったところで銃の弾丸には貫通される程度の強度しか得られない。武器についても、非常に重量が軽い点を除けば、鉄製のそれと変わらない程度の性能しか持たないという。


 上級の魔族達は、影術よりも自身の特殊能力をメインに使うため、使い勝手の悪い影術の方は、近接戦闘に持ち込まれたときの自衛用といった扱いらしい。





 話が逸れるが、ペソリカからはその影術をまず教えてもらえるように頼んである。上級魔族にとってはサブウェポンでも、俺にとってはメインウェポンになりうるからだ。影さえあれば近接武器や鎧、盾を作れるというのは、非常に使い勝手がいい。





 話を本筋に戻す。魔族は魔王の権能によって生み出され、基本的には親であり主人である魔王に絶対の忠誠を誓う。知性のあるなしに関わらずだ。ただし、上質な魔族を生み出すためには相応の力の消費がいる他、最下級であるゴブリンですら一日に生み出せるのは五体程度が限度らしい。


 人間とは違い、生み出したものを即時戦力として投入できること、数を増やしても資源が必要でないことは魔族のメリットだが、下級のゴブリン程度では人間相手にはさほど脅威にならない。かといって、質を重視すれば頭数が減り、数がものをいう戦においては不利に働く。





「ジレンマだなぁ」


 ここまでの内容を紙にまとめたところで、溜息を一つ。数と質が両立できないのもそうだが、さらなる問題として、現在の人間と魔族の絶対数の差がある。


 魔王軍の総数は、およそ五千体というところ。大して、人間側は総人口は百万を超える。


 消耗戦をした場合、回復力においてこちらにアドバンテージがあるとはいえ、人的資源で向こうが勝る。戦闘に耐えない女子供や老人の数を考慮しても、分が悪すぎる。


 ましてや、前線の三つの町は、攻めかかるだけでも多大な犠牲を伴う。現在、人間と魔族の戦線が膠着しているのは、このためだろう。むしろ、人間側が反撃に出れば、こちらがそのまま押しつぶされかねない。





 この状況を打開するための、戦術や戦略。そういった案を出すことが、案外側近として俺が最も貢献できる道かもしれないと頭の中で結論し、ペンを置いて寝床へ向かう。


 明日からは、側近の仕事とペソリカとの特訓が待っている。せめて今夜は早めに寝よう。














 ・・・しかし、昨夜に引き続いてペソリカが襲来したことで、俺の安眠はまたしても奪われることになった。


 まさに、悪魔的所業だと言わざるを得ない。

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