第27話 エゴまみれの協力関係

その後一睡もできないまま夜が明けて・・・。


 朝食の席で、俺は魔王に昨日の提案の返事をした。ペソリカは、部隊運用の為に外している。


「昨日の件だが、条件付きで受けることにする」


「・・・その条件とやらを聞こう」


 どんな条件なのか興味深いと言いたそうな表情で、魔王が続きを急かす。





「一つは、側近としての正式な地位の要求だ。そして、そのことを全ての配下に知らしめてもらいたい」


「ふむ?地位や名誉にこだわるタイプではないと思っていたが」


「俺の後見人との契約なんだ。詳しくは言えない」


 昨夜、逃走してる最中に思いついたことだ。別に、信仰や名声を人間から集めろとは言われていない。要は、知性体であればいいのだ。なら、別に魔族でもいいじゃないと思ったわけだ。


「なるほど、そちらにも事情があるのは道理。こちらとしても、問題は生じないからその条件は受け入れよう。して、他の条件は?」


「もう一つはもっとシンプルだ。俺は、征服と人類駆逐の手伝いはする。だが、直接の戦闘については、自身の意思以外では行わない」


「理由を聞いても?」


「俺の最低限のけじめだ」


 自己満足といえばそれまでだが、一線は引いておかないと、自分がこのままどこまでも堕ちていく気がして怖い。


「いいだろう」


 表情から俺の心中を察したのか、とりあえずは納得してくれたらしい。


「最後の一つは完全に利己的な理由なんだが。・・・空いた時間に俺を鍛えてもらいたい」


 この提案は特に意外だったようで、魔王が目を丸くしていた。


「勇者のお前が、私たち魔族に教えを乞うと?」


「俺にとっては、別に矛盾することじゃない。手を組むのなら、使い古されたお約束に従う必要もないしな」


「なるほど、そうだな。しかし、力を手に入れて、それで何をするつもりだ?」


「一人・・・いや二人、俺の手で負かしてやりたい奴がいてな」


 キプキスとコロネの事だ。特に、コロネを討つことが、俺が魔王に協力する最大の理由だ。


 あいつは、俺やジュデンの目指していた勇者像とはかけ離れた存在だ。引導は俺の手で渡してやりたい。その為なら、俺は悪にもなろう。


 ・・・俺も勇者にあるまじきことをしようとしているわけだが、それについては以降の世界において罪滅ぼしをしていくということで、自分の中で折り合いをつけた・・・ことにしておく。


「・・・勇者殿は、意外とエゴイストらしいな」


 またも、表情から内心を読み取られたらしく、魔王はそう言ってクックッと笑った。


「そうらしい。俺も、勇者になって初めて実感したよ」


 俺も、芝居がかった仕草で返す。少しの間、俺たちは静かに笑っていた。





「・・・あいわかった。私は部隊の管理で手が空くことは少ないが、代わりにペソリカを指導役につけよう。気に入られているようだし、あれは、ああみえてなかなかの実力者だからな」


「そうらしいな。おかげで、昨夜はろくに眠れていない」


 特に、気配を消すことと探る能力については一級品だ。俺も、いくつか修羅場をくぐり抜けた経験から、そう言う方面の勘は養われているはずなのだが、あいつには全く及ばないだろう。勘などといったあやふやなものではなく、そういう技術か術式を会得しているに違いない。


 それに、目くらましとして使った炎弾を、どうやってか相殺してもいた。確かに、学べることは多そうだ。


「城内でのハイド&チェイスか。不寝番担当の兵が、溜息をついていたぞ?」


「そりゃ悪かった」


 そうして、また二人笑う。





「では、今日から私たちは同志だ。よろしく頼むぞ勇者」


「ああ。こちらこそだ、魔王」





 こうして、本来なら不倶戴天の敵同士である存在の、奇妙な協力関係が成立した。


 その知らせは、魔王の権能によってすぐさま全ての魔族に通達された。

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