第19話 新米勇者達への洗礼

 たった一つの退路を走り続けて3分ほど経ったあたり。


 ようやくツバサを見つけた。





 ・・・ただし、その姿は変わってしまっていたが。


 首に噛みつかれた跡があり、頭はかろうじて胴とくっついているという有様。おそらく、これが致命傷だろう。


 腕や足にも切り傷や噛み跡が見られた。敵は複数いたようだ。


 想像していた通り、状況は悪いらしい。





 他の二人の死体はなかった為、ツバサの目を閉じてやって、再び駆け出す。


 天井落としが上手くいったのか、後ろから足音や咆哮はまだ聞こえない。


 代わりに、そう遠くない位置から銃声がなり始めた。


 まだ生き延びている仲間がいるらしい。


 さらに足を速める。


 すぐに、小さな背中が見えた。ミキヤだ!


 しかし、無事ではない。右腕の肘から先がなくなっている。切り落とされたのか、食いちぎられたのか。


 その隣では、ミノリが剣を振り回していた。


 彼らの目前には、ワニに似た頭が二つある四足歩行のバケモノが二体に、短刀を持ったゴブリンが三匹。


 既に息絶えたゴブリンの体が、いくつか転がっている。





「待たせた!」


 後ろからそう声をかけて、放物線を描くように炎弾を三つ放る。


 放物線上に飛んだそれは、生き残りのゴブリンたちを全て灰へと変える。


「ツボミさん!」


 脂汗をかきながらも、ミキヤが振り向いて笑みを浮かべていた。


「とりあえず、目の前に集中しろ。突破するぞ」


 ピストルをリュックから出し、バケモノの片方へ向けて引き金を引く。


 装填されている六発全て撃ちつくす、狙いは当てやすく大きなダメージを見込める腹部。


 四発が命中し、片方が怯む。もう一方は、俺に狙いを変えると、突進してきた。


 両腕には、オークのものと同じ鉈。接近戦は不利だろう。ピストルはリロードが必要、魔術は時間が足りない。


 なら、自然術を使う。敵の踏み出す足の先へ、固めた土の壁を作る。


 高さは、相手の足首程度。その代わり、とことん硬さを追求する。


 狙い通り、足を躓かせて前のめりに倒れるワニ頭。


 その二つの頭両方に、氷の魔術で作り出した槍衾を突き刺す。


 幸い、ちゃんと致命傷になったようで、持ち上ろうとしていた腕が、力なく地へ落ちる。





「ラスト!!」


 残った片割れが、腹を押さえて片膝を着いているところに、紫電で追撃をかける。


 うまく意識を飛ばせたようで、こちらも地に崩れ落ちた。


「走るぞ!ミキヤも足は動くよな!?」


「は、はいっす!」


「・・・」


「ミノリ!呆けるなら街に帰ってからにしろ!」


「!は、はいぃっ!」


 二人を叱咤し、三度駆け出す。





 行く手を阻む敵はそれ以降現れず、このまま出られるかと淡い期待を抱いたが、そうは問屋が卸さなかった。





 ようやく見えた出口では、多数のバケモノ共が整然と待ち構えていた。


 数は概算で二十ほど。突破するのは難しい。


 さらに悪いことに、向こうのオークがこちらに気付いた様子を見せた。死角にいたにもかかわらずだ。


 どうやら、視覚以外・・・おそらくは嗅覚で発見されたらしい。


 ゴブリンを四匹が、周囲を警戒しながらゆっくりと歩を進め始める。その後ろからは、オークが三匹。


 そのくらいの分隊であれば、奇襲でなんとか勝ちを拾えるかもしれない。しかし、後方に控える本体まで相手取るのは、どう考えても厳しい。


 冷汗が頬を伝う。ともかく、一度洞窟の奥へと戻り、策を練る時間を作ろうと指示を出そうとしたところで


「うぁああああああああっ!!」


 叫び声を上げて、ミノリが岩陰から飛び出し、握りしめたピストルを連射し始めた。


 恐怖と緊張のあまり半狂乱になっているようで、弾倉が空になっても引き金を引き続けている。


 しかも、一発たりとも命中していない。


「くそ、最悪だ!」


 そう毒づいて、ミキヤの手を引っ張って再び洞窟の奥へと引き返す。


 背後で、ミノリの悲鳴とオークの咆哮が木霊し、ミキヤはミノリの名を叫び続けていた・・・。

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