第17話 勇者実地研修中
夜の食事会で一波乱があり、翌朝。いや、正確にはもう昼だが。
何の因果か、俺はひよっこ勇者たちを連れて都市から西の方へと移動していた。
いや、因果はともかく理由は明確なのだが。
発端は、昨夜の夕食会においてのキプキス少将からの依頼。
都市から西方にある、とある洞窟から希少鉱物を取ってきてほしいというものだった。
何故そんなことをわざわざ勇者に?と思ったが、依頼には続きがあった。
それが、このひよっこたちを連れてきている理由だ。
つまりは、その洞窟へとこのひよっこたちを連れていき、ついでに実戦経験を積ませてきてくれという物だった。
曰く、その洞窟には人間に牙をむく野生動物も生息しており、実戦訓練にはちょうどいいという。
正直気が進まなかったが、あまりにも少将がしつこいので、ライフル銃一丁とピストル二丁、それにマガジン数セット、それにこいつらへの武器一式を融通してもらうのを条件に、渋々承諾した。
そして、今朝の時間を丸々、自身とこいつらの射撃訓練に使い、どうにか扱いに慣れたところで、こうして現地へと出発したわけだった。
移動には馬車を使っている。御者は俺だ。最初の世界でも、移動には馬を使っていたため、そんなに苦労もなく乗りこなせている。といっても、ゆったりのんびりといったスピードだが。
それでも、一時間強もあれば到着する計算だ。
残りの三人はというと、ミキヤは荷台から後方の監視。・・・なのだが、何故か、銃のアイアンサイトを覗き、銃とともに視線を動かすように周囲を警戒している。いつ敵が来ても良いようにということだろうか。常在戦場の心構えはありがたいが、気合が空回りしている気がする。
(ちなみに、スコープはまだ発明されていないらしい。そのため、狙撃銃も存在しない)
ツバサは荷台で目を閉じたまま、正座で座っている。それだけ聞くと、精神集中の修行のように思える(実際、俺もそう思った)。ところが、実際には乗り物酔いが酷いためにそれを必死に我慢しているらしい。本人からそう聞いたときは、流石に脱力した。
最後の一人、ミノリはというと、まさかの熟睡中だった。ツバサの肩に頭を預け、幸せそうに眠りこけている。こいつはこいつで、緊張感がなさすぎではないだろうか。ミキヤと足して2で割ってやりたい。
ともあれ、道中は何事もなく、無事に目的地らしき洞窟の前へと到着した。
顔が若干青いツバサを先に下ろし、ミノリを叩き起こし、相変わらずピストル越しに周囲を警戒するミキヤの頭に、手加減した手刀を落とす。
ツバサの酔いが収まるまで少し時間を潰し、洞窟へと足を踏み入れる。
目的は、赤い色をした結晶体。用途はというと、照明弾の材料らしい。粉末状にして混ぜることで、光がより持続するという。
道中に散在した、小粒なそれをリュックへと詰めていく。アイテムリュックの説明をすると、全員が”おぉ!”と驚いていてくれて、ちょっとだけ優越感を感じたりした。
そのまま、回収を続けながら奥へと進む。一つ、妙なことがあった。
少将の言っていた、野生動物とやらが全く姿を見せない。
もっと奥の方だろうかと思いつつも足を進めると、ようやく奥の方で何かが蠢いている気配を感じた。
三人にジェスチャーで物音を立てないように指示を出し、手振りで奥に何かがいることを示す。
銃を構え、そろそろと歩を進めていく。幸いと、誰かが躓いたり、石を蹴飛ばしたり、あるいは落ちてきた水滴に悲鳴を上げるといった、ベタなアクシデントは発生しなかった。
代わりに、もっと大きなアクシデントが発生した。
蠢いていた気配の正体は、小柄で長く大きい鼻を持った醜いバケモノ。つまりは、ゴブリンだった。
俺たちは思いがけず、研修先の洞窟の中で魔物と出くわすことになった。
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