第15話 物理と魔法

「このホットサンドはなかなかいけるな」


「でしょう?オレのお気に入りです」


 結局、俺は当初の予定通り一階で軽食をいただいていた。


 隣に、例のちびっこ勇者がいるのは予定外だが。





「あ、俺ミキヤ。13歳っす」


 訊いていない。


「勇者になってはじめて来たのがここっす」


 訊ねていない、


「ちなみに、今ここにはオレらの他にもう二人勇者がいるんすよ」


 聞いてないっ!?





「つまり、勇者が四人いると?」


「でっす!」


 返事が返ってきたのが嬉しかったのか、目をキラキラさせて元気な返事を返してくる。


 見た目は子供、頭脳も子供らしい。正直、俺には眩しすぎて、こういうタイプの相手は苦手だ。


「オレ以外に男の勇者がいなかったんで、正直居心地悪かったんですよ。みんな年上だし」


 口を尖らせて、ぶつくさ言っている。もしかしたら、”うっせーな!女子なんかと遊んでねーって!”なんて照れ隠ししてしまう年頃なのかもしれない。


「で?お兄さんの名前は?」


 誤魔化しても良かったが、向こうが名乗ったのに名乗らないというのは少し気が引ける。そして何より・・・向けてくる目が眩しすぎる。


「ツボミ」


「へー、女みたいな名前ですね」


 俺がZなMSに乗る主人公だったら、殴ってたかもしれない。こんな子供、修正してやる!・・・なんて。





「ともかくよろしくです。いろいろ教えてくれるとうれしいです」


「俺も半人前だ。教えられることなんてねえよ」


「でも、魔法とか使えたりするんでしょ?」


「あー、まあ、ほとんど基礎的なものばかりだがな。あと、魔法でなく魔術だ」


「やっぱり!いいなぁ~」


 目がさっきよりもキラキラしている。これはまさか・・・。


「俺にも教えてくださいっすよ、魔術ってやつ!こう、炎とか手からバシュって出したいんですよ!」


 それ、自分の手が焼けるんじゃないだろうか。


「この世界、銃とか大砲はあっても魔法はないんすよね」


 意外だ。いかにもなファンタジー系の雰囲気の世界観なのに、魔法の類たぐいがないとは。


 そして、銃や大砲があるということは、技術水準はそこそこ高いらしい。


 まあ、そうでなければあんな高い壁なんて造れはしないだろうけど。


「・・・ん?ということは、敵も魔法は使わないのか」


「ええ。敵の武装は、剣や槍や棍棒が主で、知性の高い奴は銃も使うと聞いてます。変な術とかは使わないらしいです」


 術の一つも使えない魔物や邪王・・・RPGならシュールかつ斬新な世界観かもしれない。





 とはいえ、現実的に考えれば、銃が相手というのも非常に怖い。


 術式の炎や氷なら防ぐのも難しくないが、銃相手なら難易度が上がる。


 風の障壁で弾道を逸らすのも、銃弾の速度次第ではあまり当てにできない。と言って、土などで壁を作ると、今度は貫通力が怖い。


 また、イメージを形にしたり、詠唱の時間が必要な魔術と魔法の類では、引き金を引くだけの銃の速さには勝てない。


 中距離以上の戦闘だと、現状の俺にとっては間違いなく脅威だ。


 自然術と魔術を並行使用という手もあるが、これはまだ練習中の技術。どちらかの制御を怠ると、致命の隙になりかねない。


 なら、こちらも銃を持つべきだろうか。とはいえ、例のポンコツでは本物には及ばないだろう。


 いっそ、銃を一丁貸してもらおうか・・・。





 そんな思考と共に、時間は過ぎていった。

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