第四世界

第13話 勇者、その生き様と死に様

 それから、いくつもの世界で勇者として振る舞ってきた。戦力外扱いされたり、勇者なら大丈夫だと捨て駒のように最前線に配置されることもあったが、それでもどうにか生き延びてこれた。


 それでも、救えなかったモノは数多く、その度に、いつかと同じ冷たい視線が俺に集中した。





 新しい術を覚えたりということはなかったが、身体能力や武器の技量だけは少しずつ高まっていった。





 そんなある日、次の世界からの呼び出しに備えて化身の空間で待機していると、突然チュアナが訪ねてきた。どうやら、





 久しぶりにジュデンに会えると思った。


 俺にとっての唯一の勇者の友人であり、心の在り方も実力も、勇者という肩書に恥じない男。





 しかし、チュアナの最初の一言はこれだった。





「ゆーしゃさま、いなくなっちゃったの」





 曰く、とある世界の王国の人々を守るため、また期待に応えるため、単独で千どころか万を超える敵に立ち向かっていったらしい。





 結果として、王国は救済されたものの、ジュデンは帰ってこなかったらしい。





「ゆーしゃさま、戦いに行く前に言ってたの。”もう二度と、オレを頼ってくれる奴らの期待を、裏切りはしない”って。だから、チュアナの期待も裏切らないの。きっと、いつか帰ってくるの」





 彼は、その誓いを命と引き換えに成し遂げたということだろうか。


 とてもじゃないが、今の俺にそんな真似はできない。出会って間もない人たちの為に、自身の命を大きな危険に晒したり、まして代償にしてまで戦ってやることなんて出来はしない。


 だからこそ、手向けの花の代わりに、その生き方に敬意と・・・たった一言を送る。


「カッコつけて無茶しやがって、あの馬鹿野郎が」という一言を。


 本当に、馬鹿野郎が。死んじまったら、もう誰も救えないじゃないか。





「街の人達、みんなゆーしゃさまに感謝していて、銅像まで建ててたの。街の記念碑にして、自分たちの心の拠り所にするんだって」


 どうやら、あいつは死んでからも尚、勇者としてみんなの希望であり続けるらしい。


 まさしく英雄的と言っていい生き様に、目頭が熱くなった。





 チュアナに、これからどうするのかと聞いた。


「ゆーしゃさまを見守ってきたカミサマって人の下で、魔法の勉強するの。でね、ゆーしゃさまが帰ってきたらお手伝いするの」


「・・・」


 それは、ジュデンの願いが叶った瞬間でもあり、しかし彼が望んでいなかっただろう結末でもあり。


 もし、彼が天国とやらからこの会話を聞いていたら、様々な感情の混ざりあった涙を流すに違いない。


「ここには、ワガママ言って、ゆーしゃさまのお友達に会いに来ただけなの。もし、オレが長期間戻らないことがあれば、あいつに渡してくれって頼まれてたものなの」


 そう言って手渡されたのは、一枚の便箋と、ボロボロの手帳だった。





 手帳の方は、転移の術式をはじめとした、各種魔術式についての詳細資料。この資料を基に研鑽すれば、記されている術式を習得できるかもしれない。





 便箋の方は、俺当ての手紙・・というより遺書だった。





 要約するとこんな内容だった。





 ”オレは、より多くの危機に瀕している人たちを救うために、ますます過酷な戦場へと身を投じる日々を送っている。


 正直、まだ命を繋いでいるのが奇跡と思える。それほどの激戦と激闘ばかりだ。


 それでもくたばるつもりは毛頭ないが、念のためにオレの手帳を残しておく。


 数見てきた勇者の中でも、唯一信頼できるお前になら託せそうだったからな。せいぜいうまく活用してくれ。


 オレが成人した後にまた会うことができたら、その時こそ本当に酒を酌み交わそう。来るその日を楽しみに、俺は何としても生き残ってみせる。お前との約束もあるしな。”





 あいつらしいなと思った。特に、最後の方は。深い意味のない別れ際の一言だったのに、それを勝手に自分の中で約束へと昇華し、あげくにそれを果たさずに勝手にくたばりやがったというのが特に。


 まったく、食えない男だった。





 オレが読み終えると、チュアナは魔法陣に包まれて行ってしまった。





 彼女もまた、血みどろの戦いの道へと進もうとしているのは、ジュデンの影響か、それとも背後にいる”闘争”の化身の筋書きなのか・・・。





 チュアナが去ってから少しして、俺はまた別の世界へと旅立った。





 召喚されたのは、城壁都市ハスィン。


 俺の運命を変える出来事が、そこには待っていた・・・。

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