第11話 悲喜交々
ほらな、思った通りだった。
試作品を作り上げた翌朝、ジュデンは五体満足で帰ってきた。
なんでも、自身の戦闘力を背景に、脅迫紛いのことをしてきたとか。
敵対する存在に対しては、割と容赦ないらしい。
ドワーフからも感謝の言葉を雨霰と受けていた。
この世界でもあまり出番はなかったが、助けを求めてきた存在が救われた姿を、ようやく見届ける事ができたので、負の感情はほぼなかった。
俺も感謝の言葉をもらうことができ、鉱石を数種類、土産として手渡された。暇な時に、活用方法でも研究してみることにしようか。
夜はジュデンと俺のために一席設けてくれるというので(というか、なんだかんだで毎夜宴会はしてるはずなんだが)、帰還するのはそれからにしようと、ジュデンと相談していた矢先、それは来た。
突如、ジュデンの目の焦点が明後日の方向へと逸れた。
先程までの明るい表情が、急速に暗くなり、さらに真剣実を帯びていく。
どうやら、何かあったらしいと様子を見守っていると、急にジュデンがこちらを向いて言った。
「街が飛竜に襲われているらしい!チュアナから伝・話・が来た!!」
電・話・と聞いて首をかしげたが、おそらくテレパシーのようなものかと納得する。
「オレは街を助けに行く」
「俺も行こう。手伝えることはあるはずだ」
「わかった、魔法陣に入れ!すぐ飛ぶぞ!!」
ジュデンの足元から広がった魔法陣の上へと立つ。前触れ無く景色が変わった。
かつて、食堂に来た時に見た街並みは、既になかった。
遊具が潰された公園に、燃えカスしか残っていない住居。
食堂があった場所に目を向けてみれば、そこは煤と灰が残るのみとなっていた。火炎放射で丸ごと焼かれたらしい。
「てめえらぁっ!!」
ジュデンが絶叫し、未だに破壊と炎を振りまく翼竜の群れへと単身で突っ込んでいく。
火球がジュデン目掛けて降り注ぐが、回避すらしていない。全て体を覆うように展開した魔術のシールドで防いでいるらしい。
そのまま、どういう原理かあるいは魔術か、まるで足場でもあるかのように跳躍を繰り返して空へと向かっていくジュデン。
あっという間に、飛竜が二頭両断される。
向こうは任せておいていいだろうと判断し、俺は倒壊した家屋などを回って生存者がいないかを確認していく。
とにかく駆け回る、時折うめき声がかすかに聞こえるのを聞き逃さず、柱の下敷きになった人や自分では動けない人々を救助していく。
必要であれば、自然術を使って水を生存者に与えたり、あるいは未だに火が燻っているのを消化したり、煤まみれの人の顔を洗ったり。
そして、地力で動けない人を安全な場所まで、土を固めて作った即席の担架で運んでは、次の生存者を探して疾駆する。
そうして、互いに自分の戦いをすること1時間ほど。
戦闘を終えたジュデンにも手を貸してもらい(主に回復系の術)、どうにか十数人を救うことに成功した。
そうしているうちに、近隣の街からも兵士らしい身なりの者や救護隊が駆けつけ、その場を引き受けてくれた。やってきた人々の中には、よく知った顔も紛れていた。
「チュアナ!無事だったか」
「ゆーしゃさま!」
ジュデンの足にしがみつくなり、涙を零すチュアナ。
「チュアナ、また、何も、宿の、おばちゃん、逃がして・・・」
嗚咽で途切れ途切れながら、説明してくれたところによると、宿の人たちが真っ先にチュアナを逃がすため、二階の窓からロープで逃がしてくれたらしい。
そのまま、他の宿の人を逃がすために主人たちは残ったが、すぐに宿は火に包まれたらしい。
チュアナは、魔法をも行使してどうにか隣街までの道を走り抜けて助力を依頼すると共に、ジュデンにも事態を伝えたらしい。
煤と傷に塗れた細い肢体を見て、ジュデンは膝立ちの体勢になって、チュアナを抱きしめた。ごめんな、よく頑張ったな、怖かっただろう・・・そんな言葉をかけ続けていた。
そんな二人を照らす夕日は、各所からの煙によって黒く染まっていた。
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