第10話 粗悪品一号
呑み会の日の翌朝。峡谷へとテレポートでジュデンが戻ってきた。
互いに寝不足の顔を笑い合った後、ジュデンは、翼竜の住処へ行って、退治もしくは交渉をしてくると言って、住処があるらしい北の山脈へと行ってしまった。ちなみに、チュアナは宿の夫婦に預けているらしい。
俺もついていこうかと提案したが、峡谷の防衛戦力も必要だし、何より足手纏いだと言われ、残ることになった。
多少成長したとはいえ、まだまだ根本的な所で役に立てないことを、少し悔しく思う。
まあ、昨日の話を聞いてしまった今では、あいつの強さに嫉妬する気は起きない。
代わりに、今できる努力を最大限していこうと、気合を入れる。
そんな精神論が意外に有効だったのか、昼食後には銃の試作品が完成していた。
ネックだったのは、火薬石(面倒なので、火薬の性質を持つ石を略すことにした)の温度だった。
簡単に言うと、火薬石は一定以上の温度になると、その温度に合わせて爆発を起こすのだが、その温度が一度違うだけでも爆発の大きさが変わるのだ。
そして、作ろうとしていた火縄式では、火薬石への熱の伝導がまちまちだという点が、技術的な問題だった。
温度が高すぎれば、内部からの爆破に機構が耐えきれずに銃自体がお釈迦になり、低すぎると飛距離も威力もでない。この世界の技術水準では滑空銃を作るのが限界なため、可能な限り威力と飛距離は重視したかった。
といって、機構部分まで頑丈に作ろうとすると、銃の重さや、射撃の反動が馬鹿にならない。
そのジレンマを、ごり押しで解決することに成功したのだ。
俺が目をつけたのは、竈で使われている保熱石という鉱石。
ざっくりと言えば、ステーキ屋で見る焼き石の強力版のようなもので、受けた熱を長時間保温できる上、かなりの高温でも劣化しないという代物だった。
これを少し分けてもらい、自身の炎魔術と組み合わせることで、誤差5℃の範囲で温度をコントロールすることに成功した。
これに、雷管部分に火薬石を仕込んだ弾丸を直接接触させることで、ある程度の威力と飛距離、安全性を確保したリボルバーが完成したのだった。
欠点は、魔術の発動自体を封じられると、ただのガラクタになり下がること。また、燃焼石を加熱するというステップが必要なため、使用可能になるまで10分程度時間がかかること。
魔術の代わりの飛び道具の役割を期待したのだが、欠陥品もいいところだった。
異世界モノのように、都合良くはいかないらしい。
ともあれ、何かの役には立つかもしれないので、次の世界にも持っていくことにする。
ドワーフからもらった皮のサックに、試作リボルバーと銃弾を数十発程度放り込む。
火薬石は、100度以上の高熱でなければ暴発しないので、雑に扱っても問題はない。
作業を一通り終えた時には、既に夕方だった。
未だに、ジュデンが帰ってくる気配はない。
何かあったのではとも考えたが、あいつに限ってそう簡単にはくたばらないだろう。
明日になれば、帰ってくるだろうと軽く考えて、俺はドワーフ達の食堂へと降りていった。
・・・のだが、そのまま宴会に付き合わされて、三日連続で酔いつぶれた。
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