第8話 再会と疑惑
「勇者殿、奴らが来ました!」
「すぐいく」
昼下がり、鉱石を弄っていると、駆け寄ってきた自警団のメンバーが開口一番、そう叫んだ。
どうやら、伝令役として来てくれたらしい。
峡谷上部までリフトで上がると、既に敵は頭上を旋回していた。
数は三匹・・・いや、三頭か?。片翼だけでも、俺の身長を軽く超える大きさがある。
既に迎撃を開始しているようで、岩や矢が空へと飛んでいる。
と、一頭が自警団へ向けて火炎を放射する。すぐさまそちらへと手を翳し、自警団の側の風の粒子を使い、障壁を作る。幸いと、いつかの水流ほどの勢いはないようで、完全に防ぎきることができた。
もっとも、守りに回っていてもジリ貧なだけなので、今度は攻撃の術を練る。
翼竜の一頭の周囲、自らの翼で起こしている風を利用して、周囲に乱気流を作ってみる。
バランスを崩して堕ちるかと思いきや、翼を畳んだ錐揉み回転からの高速落下、続いての急上昇で立て直して見せた。第三者視点で眺めていれば、なかなか芸術点の高い動きだと見惚れたかもしれない。
ただ、上昇後に翼を広げて対空状態に入ったところを、矢で射られ、片翼を損傷して飛行能力を失ったことで落下していった。
それをきっかけに、一頭が急降下。翼の羽ばたきによる風圧で、射撃担当のドワーフたちを散らしている。
それに合わせてもう一方が火炎放射の前兆を見せる。連携が取れる程度には知性もあるらしい。
とりあえず、被害の大きそうな火炎放射待機中の方へ、魔術の紫電を放ってみる。
口から火の吐息を漏らして苦しんでいるところからすると、効いてはいるようだが墜落させるほどでもないらしい。
魔力の使用量を増やし、もう一撃放ってようやく地へと叩き落とすことに成功する。代償として、既に魔力が枯渇しつつある。雷に耐性があるのか、それとも単に体が大きいためか、完全に麻痺させるには相応の威力が必要らしい。
さて、最後の一頭を潰そうかと顔を向けてみると、そのターゲットは、丁度空中で細切れにされているところだった。
はて、ドワーフの新しい兵器だろうか?しかし、そんな話は聞いていないし、それほどのブツを作れるなら、勇者がいなくても自力で何とかできるのではないか?
そんな疑問は、一つの声で氷解した。
「よう、久しいな勇者ツボミ」
どうやら空中戦をしていたらしい、目の前へと落下してきたそいつは、忘れようもない憎たらしい顔をしていた。
「覚えてるか?ジュデンだよ」
第一世界で俺をけなし、パーティーメンバーを奪い去った勇者だった。
「何でこんな所に?」
声に不信と怒りが混ざるのは仕方ないだろう。今でも、第一世界で受けた仕打ちは忘れられない。
「もちろん仕事だよ。行商人たちに呼ばれたのさ、邪魔な飛竜どもを片付けてくれってな」
「そうか。てっきり、俺を笑いに来たのかと思ったぜ」
「そう食ってかかるなよ。あの時は確かに取るに足りない奴だと思ったが、さっきの戦闘を見て、少し評価が変わったんだ。以外に見どころある奴だってさ」
「その割に、相変わらず上からの物言いなんだな」
「そりゃそうだ。俺が相手を測る基準は実力のみ。自分より弱い奴には、謙ったりしない」
「自分より強い相手には?」
「もちろん挑戦する。負けたら、相応の敬意をもって接するし、次に勝つための策を考えて、手段を手に入れ、地力を磨く」
単純な奴だと思った。しかし、初対面で思った程には、悪い奴でもなさそうだ。前の世界で見た勇者がアレだったので、比較基準が緩くなっただけかもしれないが。
「そういえば、お前のパーティーメンバーは?前の世界から連れてきているのか?」
「ああ、あの三人官女な。確かに、戦力として連れていくには充分だったし、本人たちから希望もあったんだが、あえて断った」
「あえてというのは?」
「あいつら、あれでも元の世界では腕の立つ冒険者だろ?それを俺が引っこ抜いたら、また向こうの世界がトラブルに見舞われた時に、対処できる戦力が減るだろう」
当然のように、そう言ってのけた。
「というのは、建前の話でな」
続いて、悪戯っぽく笑う。
「戦士はともかくとして、残りの二人。俺は、媚びを売って男にすり寄ってくる女に興味はない。しかもあいつら、瞳の中にいろんな計算とか思惑とかが混ざっていて、油断ならなかったしな。俺はもっと、素直で純粋な子の方が好みだわ」
そう言い終えて、両手を肩の位置まで上げて見せる。いわゆる、お手上げのポーズだ。
「なら、今回も一人で来ているのか?」
「あー、まあ、一人ではないんだが」
どうも、歯切れが悪い。何かやましい事でもあるのかと考えていると、ジュデンの後ろからトテトテと小学生高学年くらいの少女が走ってくるのが見えた。すごく特徴的な髪色をしている。全体としては、天色あまいろをしているなのだが、中心付近から色が薄くなって水色のようになり、毛先付近に至っては緑青色ろくしょういろになっている。こんなグラデーションの髪は異世界でも珍しいのではないだろうか。
「ゆーしゃさま!」
ひらがなで表記したくなるような舌足らずな声で、そう呼びかけてしがみ付いたのは、ジュデンの足。
満面の笑みの少女と、困った顔ながら満更でもなさそうなジュデン。そして、先程の会話の好みのタイプと返事の歯切れが悪かった訳。全てを総合して、ようやく理解できたジュデンの本質。
「お前、ロリコンだったのか!?」
「よし、互いをよく知って誤解を無くすためにも、夜は呑みに行こう。うん、それがいい。もちろん、代金は俺が全額出そう!」
大慌てでそう提案するジュデンに、少し親近感がわいた。
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