16.アから始まって、オで終わるお兄ちゃん。その人は当て馬。(2)

 

 現在脳内でベートーヴェンが運命を超ノリノリで演奏している中。


 「わーい。アオ兄ちゃ~ん」

 「ルル、急に抱き付いたら危ないよ」

 「アオ兄ちゃん!次はおれをだっこして!」


 アオ兄ちゃんとルルちゃんとソラが仲良く戯れていた。

 はいはい、2人とも今は昼ご飯の時間だよ~。とリディアちゃんはお姉さんぶる一方で、私たちの席でご飯を食べるのは明日のはずなのに!?アオ兄ちゃんお主、どうしてここに!?と脳内でヘドバンしまくり。


 そんな私の心の声を読んだのか(読んだのか!?)、アオ兄ちゃんはにこりと私に笑いかける。

 

 「実は今日のグループの子たち、体が冷えたとかで体調不良を訴えてね。みんないなくなっちゃったんだ。だから明日お邪魔するこの席に、ちょこっとお邪魔させてもらおうと思って。いいかな?」


 はい。原因は、アルトでした~。

 コノヤロー。夏が近づくこの季節に寒くて体調不良とか、アルト意外に原因考え付かないから。絶対にさっきの怒りの冷気のせいだ。


 「いいよー。入れてあげる~」


 ルルちゃんはうふふ~とアオ兄ちゃんの腕に抱き付く。

 ルルちゃーん、入れてあげるとか言ってるけど、そもそも君私たちの班じゃないよねー。というツッコミは置いといて!

 アオ兄ちゃんがルルちゃんに気を取られているうちに、ひとまず逃げよう!

 私はこっそりと席を立つ。が、


 「なんでリディアと兄様はアオ兄ちゃんから逃げるんだ?」


 ソラに止められた。コ、コノヤロー。ヴェルトレイア兄弟、今日はほんとうに私の妨害しかしてこないな!?

 でも彼は周りには聞こえないようにこそっと耳打ちしてきたので怒るに怒れない。気遣いのできる子は、好きなんだよぅ。でも答えられないよー。

 みんなの命ある未来のために逃げているんですとか言われても、ソラだって困るでしょ!?悟ってくれ!

 

 「え。急に変顔してきてどうした?」

 「悟れよーッ!」

 「うわっ。急に叫ぶなよ」


 私はソラにブチギレた。またの名を八つ当たりとも言う。

 そんなときに、


 「俺、リディアちゃんとアルト君に、嫌われるようなことしたかな?」


 割と近くで聞こえたテノールの声。

 嫌な予感をひしひしと感じつつもグググと首を動かし声のしたほうを見れば、アオ兄ちゃんが眉を下げながら悲しそうに笑っていた。リディアちゃん号泣~。


 やっちまったー。叫んだばかりに、アオ兄ちゃんにロックオンされてしまったー。

 ていうか、嫌われるようなことしたかな?ってドストライクで質問してきたね。私とソラの会話聞こえていた感じですか!?

 

 「俺から逃げてる、よね?」

 「え、えぇっと。そのぅ…」

 

 あ、ハイ!これは完璧聞かれてましたね。困ったリディアちゃん、もごもご唸るだけで全然誤魔化せません!

 だ、誰か助けてー!

 頼れるのは自分だけだと言うのに(笑)、私は心の中で叫んだ。

 そのときだった。


 私は背後から、ぎゅっと誰かに抱きしめられた。


 「え?」


 不安な気持ちをゆるりと抱き留めてくれるように、その手はやさしく私を抱きしめる。

 それはアルトだった。

 ジーンと熱いものが胸に広がる。

 ア、アルトぉ。あんたもしかして、混乱して困り果てる私を守ろうと…

 

 「おれたちがどうしてあなたを避けるか、教えてあげましょうか?」


 訂正します。

 不安な気持ちを抱き留めるではなく、彼は私の不安を倍増させました。守るどころか、突き落とされました。

 ほんと、マジ、ヴェルトレイア兄弟ぃ!!!


 アルトが変なこと口走る前に止めようッ。私はアルトの口元に手を伸ばすが、遅かった!くっそぉ!


 「あなたがリディアを狙っているのはわかってます。あんたみたいなロリコンに、リディアは渡さない!」


 彼は声高々に叫ぶと、アオ兄ちゃんをギッとにらんだ。


 「……。」

 「……。」

 「……。」

 「……。」


 かっこいいよ。セリフも顔つきもかっこいいけどさ…。

 は?


 開いた口が塞がらない。

 私も、ソラも、ルルちゃんも、アオ兄ちゃんも、ぽかんと口を開けていた。ただ一人、アルトだけが真面目な顔でアオ兄ちゃんをにらみ続けている。

 先にポカン状態がとけたのは、アオ兄ちゃんだった。


 「えっと。つまり2人がおれから逃げていたのは、おれがリディアちゃんをその…恋愛的な意味で好きだと思ったから?」

 「そうです。ロリコンの変態にリディアを近づけさせたくありませんから」


 友達だからという理由で女子トイレまでついて来ようとした変態に、言われたくはないセリフだ。

 アオ兄ちゃんもきっとそう思っているはず。

 だがしかし、彼はなぜか、ほっとしたように笑っていた。

 

 「そっか。よかったぁ」


 なにもよくないと思うけど!?

 私と同じ考えだったらしいアルトは危機感を覚えたのか、私を抱きしめる手に力が入る。あの、苦しい。入ってます。ギブです。レフェリー?どこぉ?


 「…リディア、こいつ変態だよ。逃げよう」


 アルトは言うやいなや走り出してしまった。

 つまり、どいういうことか。


 「ぎゃぁあああ!ちょ、アルト。この状態で走るの無理!手を離せぇ!」


 こういうことだよ。

 アルトはアオ兄ちゃんによほどの危機感を感じたんでしょうね。気が動転していたらしい彼は、私を抱きしめた体勢のまま走り出した。

 そのため私はひっくりかえったゴキブリのような体勢で、体をホールドされながら走るはめになった。体勢ももそうだけど食後にこれはきついよ、アルト君!?


 とりあえず、

 レフェリー、ヘルプゥー!!!



//////☆


 「で、むすっとしていた割には機嫌いいね」

 「だってかわいいワンちゃんを見つけられたんだもん」


 楽しい?食事の最中にプロレス技を仕掛けられ、そのまま走らされ昇天しかけた私はさきほどまでだいぶ怒っていた。もう激おこだよ。今なら木を殴り倒せるってくらいに怒っていた。

 が、マグマのような怒りも、目の前でぷるぷると震える子犬を見つければおさまるというもの。


 「ワンちゃん、おいで~」


 私は子犬に手を伸ばす。

 アルトが私を連れて逃げた先はいつもの森だった。そこで木の隅で震えるこの子犬を見つけたのだ。


 ブチ模様のつぶらな瞳が愛らしい子犬ちゃん。

 安未果時代、ペットを飼うことを許されなかった私は、転生した今も昔も、とにかくかわいいふわふわの生き物を見るとなで繰り回したい衝動に駆られる。


 「ほぉら、おいで~」

 「やめなよ、噛まれたら大変だ。野良犬だし病気を持ってるかもしれないよ」


 犬に私をとられて嫉妬しているのかアルトは子犬に伸ばす私の手を掴む。

 頬まで膨らませて。やれやれだ。


 「じゃあ先にあんたの頭をなでてあげるから、機嫌治しなさいよね。ほーら、よしよし」

 「僕はそういうことを言ってるんじゃなくて~」


 そう言いながらも私に頭をなでられてアルトはまんざらでもなさそうな顔をしている。

 ふと私はさきほどのソラのお願いを思い出した。

 気分もいいし、タイミング的にもよさそうだから、今教えてあげるか。


 「ねぇ、アルト。さっき1番の友だちは誰かって話したじゃない?」

 「え、ああ。そうだね」

 「今のところ私の中での1番の友だちはアルトだよ」

 「……へ?」


 少しの間の後で、アルトの顔がカッと真っ赤になった。

 怒られもしないし、ドヤ顔もされない。

 あ、だからといってソラが懸念していた鼻血は出ていない。

 ただアルトは真っ赤な顔を隠すように抑えて、その場にうずくまっていた。


 「君って人は、ほんとうに前触れもなく爆弾落とすから…やだ」

 「え、いやなの!?」


 1番の友だちは君だよ~って言ったら、やだって言われた私はどうしたらいいんだ。泣いていい?

 傷心の私を癒してくれるのは小動物以外にはいない。私は子犬にかまうことにした。


 「わんちゃーん。おいで~」


 私は子犬に手招きするが、この子ぷるぷる震えるだけで私のところに全然来てくれない。傷に塩を塗られている気分。え、私かわいそうすぎない?

 それともあれか?草食系わんちゃんなのか?私が肉食系になるべきなの!?


 「おりゃ~、なでさせろ~!」


 私は肉食系を意識し、子犬にとびかかった。

 そのとき背後でアルトがハッとしたように叫ぶ。


 「リディア、思い出した!それ、ただの犬じゃない!突然変異危険生物A指定の、牙犬だ!触ったらだめ!」


 しかし、時すでに遅し。

 私は犬の頭にぴとっと、その手をのせていた。

 ア、アルトぉー!それ早く言ってぇええ!?つーかか突然変異ってなに!?


 心の中でツッコミしないで逃げればよかった。

 ぷるぷると震えていた子犬の顔が変形したのだ。オウ、ノー。

 耳まで口が裂けて鋭い牙がギーラギラな恐怖のビフォーアフターを見せた子犬さん。はっきりいって、超グロイ。

 

 そして子犬はそのままグロイお口をぐわっと開けて、ギラギラ光る牙で私の腕をガブリと噛……


 「危ない、リディアちゃん!」


 噛まれたと思った瞬間、私は誰かに突き飛ばされた。

 

 え?と思うまもなく、私の体は後方へ飛ばされる。首根っこをつかまれ、後ろに引く形で突き飛ばされたようだった。

 勢いよく飛ばされたんだね。私は背中に風圧を感じながら、スローモーションのようにゆっくりと進む、目の前の光景を見ていた。


 私の視界がとらえたのは焦った様子で私を見る紺色の髪の青年と、その青年の腕に噛みつく牙犬の姿。

 そして噛まれた腕から血が流れる…そんな光景。


 トンッ


 「リディア、大丈夫!?」

 「アルト…」


 突き飛ばされた体をアルトが受け止めてくれたところで、スローモーションは終わった。

 また通常の時間の動きに戻る。

 スローモーションのせいで頭が一瞬回らず、ぼうっとする。

 が、すぐに我に返った。私の馬鹿!ぼけっとなんかしていられない!


 「ア、アオ兄ちゃんっ」

 「リディアちゃん。ケガない?ごめんね、突き飛ばしちゃって」

 

 私の顔は青ざめる。アオ兄ちゃんは私を庇ったせいで腕から血を流していた。

 

 「ッなにバカなことしてんのよ!」


 私の叫び声に驚いたのか、牙犬はアオ兄ちゃんの腕から離れて逃げていった。だが私が怒ったのは牙犬に対してではない。アオ兄ちゃんに対してだ。

 アオ兄ちゃんは怒る私を見てか、目を丸くしていた。

 

 「アルト!救急箱持ってきて!」

 「わかった」


 アルトが救急箱を取ってくる間に、私はアオ兄ちゃんの腕の傷を見る。

 深く噛まれてしまったようで、血が止まらない。ポケットから取り出したハンカチで傷口を押さえ、止血する。


 「どうして私をかばったりしたのよ」


 言葉は勝手にこぼれてしまう。


 「私が一人でバカやったんだから、助けなければよかったのに…」


 アオ兄ちゃんを怒るのは間違っているとわかっていながらも、私は怒りを抑えられない。一番悪いのは私だけど、だからってふつう馬鹿なガキを庇って自分が怪我をする?

 ああ。でもきっと、お前が怒れる立場じゃないだろうと、アオ兄ちゃんに怒られるのだろうな。私はそう思っていた。

 そしたら、


 「よかった。嫌われてないみたいだ」

 「は?」


 腕から血を流しながら、へなへなっとアオ兄ちゃんは笑った。

 何言ってんだこの人?


 そんな私の怪訝な顔を見てか、アオ兄ちゃんは「怒られると思ったでしょ?俺も怒ろうと思ったんだけど、怒るよりも先に安心しちゃってさー」と、照れた。

 いや、今照れる場面と違いますから。


 「意味わかんない。なんで安心するのよ」

 「アルト君が俺を避ける理由は分かったけど、リディアちゃんが俺から逃げる理由はわからなかったからね」


 ポツリ、とアオ兄ちゃんは言った。


 「君は俺のことが嫌いで。だから俺から逃げるのかなって思っていたから、安心したんだ。心配してくれるってことは、嫌われてないってことだよね?」

 「っ!」

 

 上目遣いに、窺うように私を見るその顔を見て、罪悪感に体が押しつぶされそうになる。

 避けられたら、自分は嫌われるのではないかと思うのは、当然だ。

 私だったらそう思うし、ひどく悲しい気持ちになるだろう。私、アオ兄ちゃんをめっちゃ傷つけちゃってるじゃん。

 私はぶんぶんと首を横に振った。


 「嫌いじゃない!嫌いじゃないよっ!」

 「じゃあどうして俺から逃げてたか、教えてくれる?」

 「うっ…」


 困った。

 この状況で、答えられませんはさすがにダメだろう。となると私は理由を言わなければならない。だけどみんなが死なない未来を…云々は信じてもらえないというか頭がおかしい子って思われるだろうし。

 10年後あなたに惚れられるからです、とも言えない。言ったら最後、私は自意識過剰リディアちゃんの名を背負ってこの1年を過ごさなければいけなくなる。そんなの嫌だ。


 困って困って、困って。

 悩んだ私の頭に浮かんだのは、神父様の顔だった。

 うひょひょとバカな勘違いをして、笑う神父様の顔だ。

 ……致し方あるまい、あれでいこう。


 「うぇぇっと、アオ兄ちゃんがかっこよかったから…緊張しちゃって?」

 「はぁぁぁぁあ!?ちょっと、待って。君、こういうのがタイプなわけ?」

 

 アオ兄ちゃんの代わりに反応したのは、救急セットを持ってきたアルトだった。なんでお前が反応するんじゃい。まあ別にいいけどさ。

 そんなアルトに話をきいてついてきたのであろうソラは頭を抱えている。


 「随分早く戻ってきたわね。急いで取りに行ってくれたの?ありがとね~」

 「どういたしまして、とでも言うと思った!?ねぇ、リディアはこういうのがタイプなわけ!?まさか、好きなの!?」

 「はあ?あんたなに言ってんの?ちょっとソラ助けてー」

 「今のはお前が悪い」


 そんな私たちを見てか、キョトンとしていたアオ兄ちゃんはいつの間にか肩を震わせて笑っていた。

 待ってくれ。どこに笑う要素があった?ただただリディアちゃんが困ってるだけなんですけど。もしかして困ってる私を見て笑ってる!?

 私の視線に気が付いたのか、アオ兄ちゃんはごめんねーと笑いながら謝る。やっぱり私が困ってるの見て笑ってたんだな、この野郎性格悪いな!?

 

 「アルト君も、なんかごめんね?」


 私がぷんすかする一方で、なぜかアオ兄ちゃんはアルトにも謝っていた。

 アルトの笑顔にヒビが入った。

 

 「…殺す」

 「アハハ」

 「いやアオ兄ちゃん、笑い事じゃないから。よくわかんないけどアルト、マジだから」

 「兄様落ち着いて~!」


 ソラが止めてくれているおかげでアルトはまだアオ兄ちゃんを殺していない。が、そんなの時間の問題だ。


 「アオ兄ちゃん、とりあえず笑うのやめて。アルト、怒ったら手付けられないからっ!」

 「え~。どうしよっかなぁ。俺、君たち2人にはさんざん寂しい思いをさせられたから、ちょっといじめたい気分なんだけど?」

 「いじめたい気分じゃなくて、このままだったらあんたがいじめというより殺されるって言ってんだけど!?」

 

 私が怒ったことで、ようやくアオ兄ちゃんはわかったよとうなずいた。


 「笑うのはやめる。でもそのかわり、俺たち3人の中で誰がリディアのタイプなのか教えて?」

 「はい。アルトぉ、アオ兄ちゃん殺っちゃっていいよ~」


 助けてあげようと思ったけど、やめる。

 アルトよ、この男を殺せ。

 私はアルトを手招きするが、あれ?おかしい。アルトが来ない。

 不思議に思いアルトを見れば、彼はにこにこ私にほほえんでいた。はい?


 「いいね。この3人の中で誰がタイプか、僕知りたい」

 

 お前もか、ブルータス。

 アルトはアオ兄ちゃんの提案に機嫌をよくしたのか、アオ兄ちゃんの腕に包帯を巻きはじめた。

 一方でアルトの後ろに立つソラは、やめろやめろ好きなタイプなんて言うなと首を横にふっている。

 やめたらやめたで、あんたの兄貴、人殺しになるけどいいの?たぶんアルトがアオ兄ちゃんの腕に包帯巻き始めたの、すぐにでも殺せるように距離を詰めるためだと思うよ?

 眼でソラに問えば、ソラは十字を切ってうなずいた。言えってことですね、はい。


 「でも私、好きなタイプなんてないよ?」

 「しいていうならでいいんだよ」


 アオ兄ちゃんはそう言って私にウインクをする。

 しいていうなら、ねぇ。

 

 「じゃ、好きなタイプは、ソラで」

 「やめろぉぉぉ!」

 

 解答したら、ソラに叫ばれました。

 ねえソラ?君わかってる?私のガラスのハート、あんたの拒絶でこなっごなよ?


 「しいていうならって言ってんでしょ!叫ばないでよ!」

 「しいていうなら、だったらおれを選ぶなよ!?なんで選んだ!?」

 「え、理由?ソラが私の癒しで天使だからかな?アルトだってかわいい弟が私の好きなタイプでうれしいでしょ?」

 「う、うん。うれ…しい、ね……」

 「お前、ほんとうにやめろ!これ以上、おれと兄様の間に亀裂をつくるな!?」

 「リディアは罪な子だね。アオ兄ちゃん、一つ学びました。頑張れ、青少年」

 「はあ?」

 「あれ?アオ兄ちゃん。手、うっ血してるけど大丈夫?」


 アルトの包帯を巻く力が強すぎたみたいで、アオ兄ちゃんの手が青紫色になっているのだ。ソラが焦った様子で包帯をほどいているのを見るに、おそらくこれは誤った手当ての仕方だ。

 

 「みんなも気をつけてね☆」

 「いや、お前なに言ってんの!?ほら包帯巻きなおしたから、早くマリアさんのところに行くぞ!」

 


 

 ///////☆

 

 あのあと孤児院に戻り私たちはマリアさんにアオ兄ちゃんの腕の傷を見てもらった。

 結果、野良犬…ではなく、野良牙犬に噛まれたもののアオ兄ちゃんの身体に異常はなく5日ほどで完治した。


 ちなみに私はアオ兄ちゃんがマリアさんにぐるぐる包帯を巻かれているとき、たまたまマリアさんのところにいた神父様に野良牙犬で私がバカをやったことがばれ、ぐるぐると目が回るほど説教をされました。はい、自業自得です。

 あのあと野良の牙犬は、無事マリアさんに保護されて、マリアさんの実家で飼ってくれることになった。マリアさん、最強説再び。


 それでその後、私とアオ兄ちゃんの関係はどうなったかというと……


 「こら!アオ兄ちゃん、また子供たち庇ってケガしたでしょ!」

 「ゲッ。リディア…」

 「馬鹿なガキは一度痛い目見なけりゃわからないのよ。そういうやつはね、なんかやらかしてもまたアオ兄ちゃんが助けてくれると思って、同じバカをやらかすの!」

 「リディアは厳しいなぁ。わかったよー」

 「わかったよーと言いつつ、逃げるなぁ!」


 立場が逆転して逃げるアオ兄ちゃんを私が追いかけるようになった。


 ちなみに私にはもれなくアルトとソラもついてくるので、私たち3人でアオ兄ちゃんを追いかけている。ルルちゃんも最初は一緒に追いかけていたけど、体力がついていかなかったらしく途中離脱となった。


 もちろんアオ兄ちゃんを追いかけるだけではなく、一緒に遊んだりもするよ?

 まあだいたいは、遊ぶと言う名のアオ兄ちゃんへの怪我説教タイムなんだけど。

 …だってさぁ、アオ兄ちゃんってば子供たちを助けるために自分からケガをしに行くんだよ?自分も助けた子供も怪我をしないなら許すけど、これはダメ。心配。自分の体は大事にしてほしい。


 そのことを私はアオ兄ちゃんに言ったのよ。

 そしたら彼、なんて言ってきたと思う?

 「自分の体はどうでもいいんだよ。それよりも、みんながケガする方が嫌なんだ」ってさ。はい、阿呆か!もう一度言うよ、自分の体を大切にしろ!

 私が何度言ってもアオ兄ちゃんは子供を庇って怪我するから、見張りもかねて私はアオ兄ちゃんに張り付いてるってわけ。


 ん?未来のことを考えて、アオ兄ちゃんからは逃げなくてもいいのかって?

 やれやれと私は首を横に振る。実はね、逃げる必要なんてなかったのよ。


 アオ兄ちゃんが私を庇ってケガをしたあの日の夜、私は冷静に考えてみた。

 考えてみて、わかった。

 別にアオ兄ちゃんをどうこうしなくても大丈夫じゃん。って。


 私はこの孤児院時代に、攻略者から悪役までみんなのフラグを折るのだ。

 そうすると10年後、誰も私を迎えには来ない。つまり本編は始まらない。学園には入学しない。

 ということは、アオ兄ちゃんとも再会しないのだ。

 それなら今仲良くしたっていいよね?

 だってアオ兄ちゃんが私に惚れて当て馬キャラになる本編は、開始されないのだから!

 

 「まあ実際おれのことを心配してくれるのは、リディアだけだからね。いい子、いい子~」


 気が付けば私はアオ兄ちゃんになでられていた。なぜ?

 しばらく考えて思い出す。

 そうだ、アオ兄ちゃんが逃げたから叱るために追いかけて、今、やっと捕まえたのだった。そしたら、アオ兄ちゃんが心配してくれてありがとう、と、頭をなでてくれたのだ。

 

 人をなでることはあっても、なでられることは少ない私だ。照れる。

 自然と口角があがり、にやけてしまう。

 

 「うへへ…いったぁ~い!?」


 しかし撫でられていた感触は突如、痛みへと変わる。

 そう、それはまるで誰かに殴られたかのような…まさか!

 振り返れば、そこにはすまし顔のアルトが立っていた。


 「ちょっと、今絶対私の頭叩いたでしょ!?」

 「…叩いてないよ。虫がついてたから、ほろってあげただけだよ」

 「嘘つくな!?ソラ、あんたの兄貴が私をいじめるんだけど!」

 

 アルトの隣にいるソラに訴えかければ、彼は遠い目でどこかを見つめていた。ちょっとソラぁ!?

 もういいです。アルト、いじめっ子化問題はあきらめます。


 「アオ兄ちゃん肩車して!」


 私は肩を震わせているアオ兄ちゃんに、肩車を要求した。

 こういうむしゃくしゃしたときは、ストレス発散に限る。

 なのにアオ兄ちゃんは肩を震わせる一方で、全く肩車してくれない。


 「ちょっと、アオ兄ちゃん!」

 「リディア、にらまないで?今、肩車してあげるから。ぷふふ…アルト、なんかごめんね」

 「は?殺して…」

 「ちょっ、おれが現実逃避している間になんで兄様、アオ兄ちゃんを殺そうとしてるの!?アオ兄ちゃん、また余計なこと言ったんだろ!?兄様で遊ばないでくれない!?」

 「ねー、アオ兄ちゃん早く肩車ぁ」

 「お前は一回黙ってろぉ!」


 わーわーぎゃーぎゃ。こうして今日も1日が平和に過ぎていったのであった。

 でも平和ってさ、そう長くは続かないよね。

 それでもってさ、こういう発言って……フラグになるんだよ、ね。ハハハ。






おまけ



 ちなみにですが。今回、アルトは恐怖のトイレについていく発言をしました。

 ですがアルトはトイレについていくと言いつつも、女子トイレに来てもいいよ。と言われたら、絶対に赤面して困るタイプです。

 ソラはというと、彼はそもそもそんな発言しません。

 アオ兄ちゃんは大人の余裕があるので、そう言われたらトイレについていって逆に相手を困らせます。それで笑います。性格が悪いです。


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乙女ゲームのヒロインに転生していたので、とりあえず悪役を教育したいと思います。 味噌野 魚 @uoma

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