天秤たる者~転移から始める異種族共存~
月天下の旅人
争いの連鎖の中で
イケメン……かどうかは意見が分かれる容姿だが少なくとも不細工ではないため、知名度のおかげてモテていた。
無論力が弱いわけではなく、お人好しそうだからと舐めてかかった不良は返り討ちになったという。
そんな彼がいつものように家への帰路を急いでいた時のことである。
曲がり角を曲がった瞬間、彼は見知らぬ景色を見たのだ。
「勇者様!」
そう声をかけてくる女性は明らかに日本人ではなかった。
「俺は勇者様じゃない。秤野双天だ」
「名前が分からないから仕方ないじゃないですか、ソーテン様」
美人……というよりは美少女というべき感じの女性はそう返した。
「君は誰で、ここは何処なんだ……もしかしたらラノベとかでよくある『異世界』なのか?」
「ラノベ……?良く分かりませんが、ここはあなたがいう『異世界』になります。俗に『ラグナロク』と呼ばれる世界です」
名乗らない女性に、双天は突っ込んだ。
「世界の説明が先なのかよ」
「失礼しました。私はマリオン・ルシファー、マリオンとお呼びしてください」
マリオンと名乗る女性に双天はこう問いかける。
「で、どういう要件で俺は呼ばれたんだ?」
「聖剣『エクスカリバー』に選ばれし者……それがあなたなんです」
そんなマリオンに双天は思わず驚く。
「『エクスカリバー』だって……!何かどっかで聞いたような?」
「それは魔剣『グリモワール』を持つ『ゲーティア』に対抗する力です」
マリオンの説明に、双天は突っ込んだ。
「『エクスカリバー』に『ゲーティア』……パクリといわれても仕方ないぞこれ」
「大丈夫ですよ。エクスカリバーは元々そちらの世界で『アーサー王』が持っていたとされる聖剣ですから」
そんなマリオンに双天は問いかけた。
「それはいい。件の『エクスカリバー』はどこにある?」
「はい。『アマノミハシラ』に『ゲーティア』共々封じられています」
双天は思わずこういわずにはいられなかった。
「まるで神話のチャンポンだな……」
「元々私達『純人族』……といっても他の異種族と比べて際立った特色がないため『純人』という呼称が使われているのですが」
マリオンのいわんとしていることを双天は理解した。
「つまり、神様に頼りたいくらい『特色がない』のか」
「そうなります。さあ、こちらへ」
『アマノミハシラ』にたどり着くと、女魔王らしき石像に剣が握られていた。
「これが『エクスカリバー』なのか?」
「はい。あなたにはその聖剣を抜けるはずです」
マリオンの言葉を受け、双天は『エクスカリバー』を手に取った。
すると『エクスカリバー』から声が聞こえてくる。
「お前は、純人族のためだけに戦うつもりか?」
「いや、状況が分からない。マリオンって子は俺を勇者と呼んでいたから、純人族のために闘って欲しいんだろうけど」
そんな双天の態度に、『エクスカリバー』は彼が冷静な対応を行える人間であることを理解した。
「『純人族』は異種族に対して苛烈な態度を取っている……」
「じゃあ、『純人族』が悪なのか?」
そんな双天の疑問に、『エクスカリバー』はこう答えた。
「だがかつて『純人族』は『優れたところがない』という理由で『異種族共存』の名の下に冷遇されていた」
「つまり『純人族』は尊厳を取り戻すために戦っている、と?」
『エクスカリバー』は双天の返答にこう返した。
「だが今の『純人族』は『異種族』とあれば女子供であっても殺害している」
「尊敬のための戦いであるなら、女子供にまで手を出す必要はない。だから『純人族』は正義じゃないと?」
そんな双天に『エクスカリバー』は頷くようにいった。
「そうだ。だが『異種族』もまた『純人族は何者にも代える力がない』と蔑んでいる者が多い……よって『純人族』が悪というわけでもない」
「確かに、戦争ってのはそういうものだからな」
双天の言葉と共に、光が溢れ出す。
「我こそは『ゲーティア』!『純人族』の子よ、お前は我の命を取る気か?」
「いや。俺は『純人族』を含めた全ての種族が真に共存できる世界を作りたい」
双天の真っ直ぐな言葉に、角と羽根の生えた美人といえる女性……
彼女に生えてる角と羽根は色魔的な物ではなく凛々しい物だが、その凛々しさが彼女の美しさを引き立てていた。
ともかく『ゲーティア』と名乗る女性に双天はこう返される。
「私は『純人族』の姿をつぶさに見てきた……お前はその中でも真っ直ぐな瞳をしている」
「手伝ってくれるのか?」
双天の問いに、『ゲーティア』はこう返す。
「私は『異種族共存』……そのために戦うだけだ。『純人族』の不満を取り除くことができるなら、この身を捧げても良い」
「俺は『ゲーティア』の……その言葉が嘘じゃないって信じる。だから、一緒に戦おう!」
天秤たる者~転移から始める異種族共存~ 月天下の旅人 @gettenka
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