1+1=0

それからしばらくして深山事務所を訪れたのは山田太郎と浩二の二人だった。

「どうかしましたか?」と深山が聞くが太郎は話を切り出せない。

「おい、兄貴」と口を切ったのが次男の浩二だった。

「深山さんは親父と仲が良かったときいてまして・・・」

「はい?」


「あの親父はあの家をどうしたかったのか?聞いたことがありますか?」

「さあ?私も弁護士ではないので遺産整理などはできませんので詳しくは。。。」


「そうですか?」

「しかしどうしたんですか?」

太郎は話し始めた。


「実はあの店を大手の建設会社が買い取りたいって話が私にありましてね。

。。三千万で。。」

「三千万ですか?」

「ええ。店の周辺を買い取ってショッピングセンターにするって噂があったんですが私たち兄弟東京にいるもので父とは疎遠で。。あの。。今更なんですが。。親父の意思を確認したいと思いまして」


「意思?そうはいっても生きてる人間は死んでしまった人とは違い食べていかねばいきませんから、遺言書が見つからない以上ご遺族が判断されるのが適切ですよ」

深山はそういった。

事実友蔵からはそういった具体的な話がなかったためだ。


「それにしても。。。三千万とは結構な額ですね。地価も下がっているこのご時世に」

「ええだから少し気持ち悪くて」太郎は言った。

「気持ちが悪い?」


浩二は身を乗り出した。

「深山さんも知っての通り富せいは暖簾は長いが店自体はちっぽけなんですよ。坪でいっても30しかない。たった30坪なのに三千万って。東京でもありえないでしょ?」

「まあ。しかし土地は隣接する土地をくっつけることで1+1=100の価値にもなるといいますからね」

「それがおかしいんですよ。うちの両隣はとっくに商売をやめて二世帯住宅ですよ。」浩二の言葉に深山は首を傾げた。

「浩二さん。その二世帯住宅は何年前にできました?」

「え?たしか五年前くらいかな?」

「五年前?」

「子供が結婚した時に実家に息子の嫁を連れて帰ったときだったから確かだよ」


「そうですか。で、買取を希望しているのはどこの会社でしょうか?」

「高浜建設って会社です」太郎はそういってお茶を飲んだ。



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偉大なる遺産 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya

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