第14話 低次元
2年E組のカメラ映像をダウンロードしたとの連絡が届いた。この動画は公開したところでどうなるというものでもないし、逆にカメラの位置がバレて他の教室で同じことができなくなるから公開はしない予定。カメラの用は済んだので、今日の放課後に僕が回収することにした。
1時間目が終わるとすぐに教室を出て廊下の窓際にもたれ、野島くんがアップロードした動画を見る。音も取れてはいるが、カメラ自体は廊下側にあるので声が聞き取れるかどうか。イヤホンをつけてボリュームを大きめにセット。
ホームルームの30分前から撮っているので、最初の部分はスキップする。登校時に教室前のドアから入る生徒はおらず、教卓の落書きを見つける生徒はいないようだ。教卓のすぐ前の席のやつも気づいていない。騒がしい音は聞こえるが、殆どは廊下の音のような感じだ。廊下が静かになれば教室内の音が聞こえるだろうか。教科書とかを捨てた2人の机も写っている。落書きにはすぐには気づいていないようだ。そんなに大きな字では書いていないのかな。一人が机を傾けて中を覗き込んでいる。教科書がないことに気づいたようだ。周りのやつになにか言ってるように見える。もうひとりのやつはまだ机の中を見てないのか特に反応はない。ゴミ箱には蓋があるわけではないので、なにか捨てようとしたら気づくと思うんだ。ホームルーム前には何か食ってるやつが必ずいるから、そいつらがゴミを捨てる際に見つけてほしいところだ。
お、教室の何人かが一斉に後ろを向いた。ゴミ箱に気づいたか。教科書捨てられたやつが後ろに向かう。見つけたな。もうひとりの方もすぐに気づくだろう。
担任が来るところまでちょっと早送りする。上山が来た。さて、どうなるか。
早速気づいたようだ。まあそうだよな。教卓を凝視している。どう出るか。ざわめきがなくなってきたので、声は聞こえるかな。なにか話してるようだが、昼休みで廊下が騒がしくて聞き取れない。静かなところでなら聞こえるかも。家に帰ったら再度確認してみよう。
上山が何か言って、生徒が周りを見回しているような感じだ。多分、落書きがどうこう言って、生徒はわけが分からず周りの生徒になんの事か聞いているような感じだろうか。お、上山が教室を出るようだ。早々に切り上げたところを見るとムカついてくれたのかな。前の席の生徒が教卓を見に行った。
『何これ、はは、おもしれえ』
『誰だよこれ書いたの』
大勢集まってきた。騒がしくなってきたのでよく聞き取れないが、清水平くんの名前が聞こえる。笑ってるやつが多い。誰のことを書いたのかはすぐに分かるようだな。写真撮ってるやつもいる。これはいい。落書きが広まればそれはそれでおもしろい。油性ペンで書いてるからすぐには消せないし、1時間目の教師の目にも入るだろう。早送りすると、1時間目の教師が来るところまで撮れている。この教師も落書きにすぐに気づき、なんか喋ってるようだがよく聞こえない。この落書きを教師の間でも話題にしてほしいところだ。
2年E組の1時間目は何の授業だったんだろう。この教師が熱血タイプだったらいいんだけど。1時間目の授業を調べてから落書きする日を決めればよかったかも。ただ、話題になりすぎると清水平くんが学校に来にくくなるんじゃないかという気もしてきた。
その日の夜。野島くんが前後の特に動きのない部分を削除し、声も聞き取りやすくなるような処理をした動画をアップロードし直した。教室が騒がしくなってからは聞き取りにくいが、不登校っては清水平のことかとか、いじめられてたのかよ、とか言ってるやつもいるな。彼がいじめられてたことを知らないやつもいるのか。そういうものなのかな。僕がいじめられてるのに気づいてないやつもいるんだろうか。単にクソ谷中とかが悪ふざけしてるだけって思ってるとか。
1時間目の教師が喋ってることもかろうじて聞き取れる。誰が書いたんだ、って聞いてる。もちろん、彼らは知らないって答えてるが、その後、この不登校って清水平のことか、イジメが原因で休んでるのかとも聞いてるな。不登校とかイジメって、職員会議とかで報告したりしないのか。不登校扱いにするにはまだ日が浅いとかか。でも、2年の生徒の間で知られてるし、3週間目ってことじゃなかったかな。この教師が知らないってことは報告されてないのか、あるいは、担任と教頭や校長とかの一部の教師にだけ報告されるものなのか。まあ、何にしても解決してないんだし、上山が清水平くんに対して何も行動してないことは確かなので、そういったことが他の教師に知られるのはいいことだ。
動画と落書きの写真を清水平くんに送ったところ1時間後に返事があった。
『上山ざまあって感じだよ。古文でふざけるってのはおもしろいね。上山にはかなり不愉快なことだったと思うよ。色々ありがとう。僕も何か協力できるといいんだけど』
気に入ってもらえたようだ。学校に来れるようになったら、協力を依頼することがあると思うのでよろしく、と伝えておいた。
さて、今後の計画。
まずは露崎さんのクラス。これは今調べているロッカーの鍵の件と文化祭でなにかやること。
ロッカーの鍵については、その後2つ開けることに成功。これで4つ開けられたことになる。4つ開けたら何かやろうとしていたが、意外と開けられるので解錠の試みはしばらく続けることにした。体操着になにかやるのは、文化祭の前、クラス全員で一致団結しようってところで信頼関係にヒビを入れるのに使おうということになった。なかなか陰湿な感じだな。まあ、文化祭では他にも何かやるつもりだが、具体的に何をやるかは露崎さんのクラスが文化祭で何をやるのか決まってから検討する。それから、例の削除した写真の子を見つけることもあったな。野島くん任せになってるけど、状況を聞いてみるか。
それと、僕のクラスのクソ谷中と高山への反撃。
清水平くんのクラスの地学の授業が、僕のクラスの一つ前なので、地学教室でなにかできるかも知れない。とはいえ、椅子隠しはもういい。となると、机への落書きくらいしか思い浮かばない。落書きの嫌がらせを続けるのも、こいつをムカつかせる点では悪くはないんだが物足りない。カツアゲが親バレすれば返ってくるだろうから、やはり現場を押さえて暴露を目指すべきか。後は、ロッカーの鍵を僕らの教室でもなんとか解読して、体育の授業中とかに財布の中身をいただくとか。こうなると完全な窃盗だな。まあ、連中のカツアゲも犯罪なんだが。なんとか金を取り返せないものか。
『フィッシング詐欺とかでお金とられる人がいるけど、同じようなやり方でカツアゲ連中からお金を取り戻せないかな』と思いついたことを書いてみる。
『それができるといいですね』露崎さん
『偽メールと偽サイトで色々入力させることはできるけど、そこから換金が難しいね』と野島くん。
なるほどなあ。
『プリペイドカードの番号を入力させて見た目は残高0にして、手に入れた番号を使うことはできるかな。ただ、使うと色々と履歴が残るから工夫は必要だね』
できなくはないんだな。まあでも自分のスマホでゲーム課金には使えないってことか。
『そのお金を取り返すために更にカツアゲしかねないよね』沖田さん
確かに。それは十分ありえるな。めんどくさい連中だ。
『お金を取り返せるといいけど、窃盗とか詐欺にまで手を出すのはやめておいたほうがいいかも。言い出しておいてなんだけど』と正論を書いてみる。
『そうかもな。まあいい手がないか調べてはみるけど』野島くん
僕も考えてみるか。
『そもそもカツアゲって犯罪なんだから、証拠があろうがなかろうが先生とか警察に通報じゃダメなの?』と沖田さん。
もっともな意見で確かにその通りなんだが、なんで通報できないんだろうな。多分、先生にチクった場合の仕返しが怖いってのがあるな。転校なんて簡単にできないから卒業まではそいつらと同じ学校だし、取り巻き連中も含めると何人もの奴らにやられる可能性がある。学校での居心地が更に悪くなることは間違いなさそうだ。警察への通報は詳しくはわからないけど、両方の親とか担任、校長とか呼ばれて面倒なことになりそうだし仕返しもされるだろう。とにかくめんどくさいことになりそうなんだよな。
『仕返しもされるだろうし、通報するとなると表に立って色々とやることになりそうなのが嫌なんだよね』野島くん
まあその通りだし僕もそう思うんだが、こうして改めて言葉にされるとなんか情けない感じがしてくるな。
『第三者が匿名で通報とかはどうかな。学校側としては確かめると思うんだけど』と沖田さん。
僕らが知ってるカツアゲしてる奴ら全員の名前を書いて、学校に匿名で手紙を書くとかかな。
『連中は否定するに決まってるし、チクったってことでよけいにひどい目に合わされそうだね』野島くんがいう。
そうなんだよな。となると、やはり証拠がいる。この前のも証拠があったから成功したんだと思うし。
『学校の外だと当たり前のことが、学校内だとできないというのは変な感じはするけど』と沖田さん。やはり沖田さんはイジメられる側にいたことがないんだな。言ってることは正しいんだけど。
『正攻法だと通報ですけど、私達はこいつらと同じレベルで攻撃するんです』これは露崎さん。
同じレベルか。ドラマとかだと、虐げられてる方が復讐しようとした際に、それだとあいつらと同じになる、とかいって正攻法で立ち向かうんだけど、僕らはあいつらと同じレベルで反撃してるってことか。まあ確かに低次元な行動かもしれないけど、別にこれはこれでいいと思うんだ。
『目には目をって感じの活動をしてるのが僕らってところかな』と書いてみる。
『なるほどね。そもそも私が言い出したことだし、今後も攻撃でいきますか』
攻撃といえば、僕が最も対象にしたい谷中に対しては、その後学校に来るようになった清水平くんの協力で地学教室の谷中の席への罵倒語の落書きは何度か行ったものの、その程度しかできていない。そんなこんなでいまいち反撃ができないまま、文化祭に向けて各クラスでの準備が始まる時期になってきた。文化祭では、露崎さんのクラスでの攻撃がメインだが、谷中への攻撃もこのタイミングで何かできないか検討する。
僕のクラスの文化祭の出し物は、なんとダンスに決まった。
高山が好きなアイドルの曲が流行っていて、バックダンサーが男女それぞれ5人の10人で踊っているのだが、それをやろうってことらしい。2つか3つグループを作って、どれが一番うまいか観客に投票してもらうとかってことになってる。僕はもちろん裏方だ。高山が積極的に関わっているのでぜひ妨害したいところだが、露崎さんのクラスもあるので、両方の対応できるかどうかが課題だ。
沖田さんもクラスでは裏方だが、英会話クラブの方をメインにするそうだ。クラブの方は、イギリス英語とアメリカ英語とか、国による英語の違いの展示を行うとのこと。その内容なら沖田さんの役割も大きいだろう。
文化祭、また文化祭に向けてやりたいことをまとめてみよう。
まずは、露崎さんのクラスメート全員をターゲットになにかやる。これは最優先。
僕のクラスでは、高山と谷中に何かやりたい。
そして、例の写真を削除した子を見つけたい。
結構あるな。
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