第13話 不登校

次の日の昼休み、岡村くんから返事が届いた。

2年E組の不登校になってる子の名前がわかった。清水平翔太くんというらしい。


『見覚えのある名前だな。パソコン部の名簿で見たような気がする』野島君の書き込みだ。

野島くんはパソコン部なんだ。知らなかったな。ちょっと変わった名字だから印象に残っていたのかな。

『やっぱりそうだ。2年E組だし。携帯のメアドがわかる』

身近なところにいたもんだな。

『たぶん1年の時に入ってその後幽霊部員かな』

『メール送ってみますか。スマホは毎日見てるでしょうから連絡できますよ』と露崎さん。

『パソコン部関係者からのメールってばれないかな』これは沖田さん。

確かに。パソコン部の連絡先以外、誰にも教えてないかもしれない。

『クラスの連絡網とかで同じメアドを伝えてないかな』

メアドとか簡単に取れるし、クラス向けには別のアドレスを教えてる可能性もあるよな。これは岡村くんでも調べるのは難しいかな。聞きまわっていることが知られるのも問題かもしれないし。


岡村くんから更にメールが届いた。

彼がどういった状況で不登校になったのか聞いたらしい。

彼へのいじめは数人の奴らが主だったらしい。岡村くんの知り合いは、席も離れてるし話したこともないし、いじられてることは知ってるが詳しくは知らないそうだ。

で、清水平くんは担任に相談したらしいのだが、担任がいじめてるやつらに注意したことでチクったことがバレていじめがエスカレートしたらしい。その後しばらくして学校に来なくなったそうだ。彼が学校に来なくなって三週間目じゃないかとのことだ。担任がなにかしている様子はなく、ターゲットがいなくなっていじめがなくなったとでも思ってるんじゃないかとのこと。事なかれ主義の適当な教師だというのが彼の評価だそうだ。いじめは気づかないとかあり得るけど、不登校は担任以外の教師にもわかるよな。職員会議で問題になったりしないのかな。

岡村くんは更に彼に友達がいるか聞いてみたらしい。パソコン部のやつと時々話ししてたらしいやつはいるらしいけど、よく知らないとのこと。パソコン部か。野島くんなら知ってるかな。


『名簿みたら、確かに同じクラスのやつがいるな。こいつも知らないから、幽霊部員だろう』

『メール送ってみるしかないんじゃないかな』と提案する。

『そうするか。内容としては、彼がいじめられてることを知ってること、いじめた奴らを教えてくれたら反撃してやる、って感じかな。いきなり過ぎるかな』

誰ともわからないやつから届いたメールとしては怪しい内容だけど、いいんじゃないかな。

『単刀直入でいいんじゃないでしょうか』と露崎さん。

『反応を見るにはいいんじゃないかな』沖田さんが同意する。

『じゃあ、早速送るよ』

さてどうくるかな。不登校ってことは多分一日中スマホかパソコン見てるだろうから、メールにはすぐに気づくだろう。


『パソコン部の人?』

早速返信が届いた。まだ5分も経ってないよな。

やはりあのメールアドレスはパソコン部にだけ知らせていたのかも。さすがにパソコン部の人間だと言う訳にはいかないよな。

『どう返したものかな。パソコン部とは言いたくないし、パソコン部のやつから聞いたとも言えない。個人情報管理の点からもね』と野島くん。

『正体は秘密で、早速本題に入ればいいんじゃない?』沖田さんがすかさず書き込み。

なるほど。まあ、パソコン部のやつだと思われるかもしれないけど、名乗らなければ問題ないか。

『そうだね。早速本題に入るよ。伝える内容としては、まず、いじめられているやつは孤立していること、で、僕らは直接会うことなくお互い協力し、いじめる連中への反撃をしているグループだ、って感じかな。後、正体は秘密だけど同じ学校の生徒くらいは伝えてもいいか』

いいね。こんな返事が来たらなんか期待するよな。


返事が来た。

『これまでどんなことやったの?』

興味を持ってくれたようだ。

『タバコのやつかな。全校で知られてるだろうし。スマホ没収頻発とかカツアゲのもあるけど。後、自転車の空気抜きもあるね』と野島くん。

『全部紹介しなくてもいいんじゃないかな。彼がどんな人物なのかわかっていないんだし』沖田さん

確かに。今のところ彼が信用できるかわからない。いじめられているという共通点はあるけど、いじめられてるやつがまともなやつとは限らない。

『タバコのとスマホ没収、他にも色々って感じで伝えるのはどうでしょう』これは露崎さん。

そのあたりかな。

『まずはそのあたりを紹介して反応を見るのがいいんじゃないかな』と書いてみる。

『最初はそれでいいと思います』露崎さん

『了解。タバコとスマホと他にも色々って感じで』


『タバコのやつがそうなんだ。それって、そいつのスマホに何か仕込まないとできないよね? どうやってインストールしたのか見当もつかないけど、それができてるなら色々できそうだね』

返事が来た。やはりタバコの件は有名なんだな。

『いい感じなので、次は反撃したいやつの名前とか彼のクラスに関する情報を教えてもらおうか』と書いてみる。

『ターゲットと、彼のクラスの時間割とか座席表とかを聞いてみるよ』


今度は返事が届くまで30分かかった。

ターゲットは3人だが、優先順位がつけられていて、最も復讐したいやつはなんと担任の教師とのこと。教師は初めてだな。教師以外の2人からいじめを受けていて、前から担任に相談していたらしいが悪ふざけだろうってことで取り合ってもらなかったそうだ。それからもいじめは続き、教科書をめちゃくちゃにされたところでその教科書を持って再度担任に訴えたそうだ。その際、担任がめんどくさそうな態度だったので嫌な予感がしたそうなのだが、案の定、その2人からチクったってことでいじめがエスカレートし、暴力を振るわれるようになったそうだ。どんな注意したんだろうな。


後、時間割と座席表が送られてきた。座席表は1/4くらいしか名前が埋まっていない。クラスに馴染んでないんだろう。それからクラスの連絡網はメールを使っているらしい。クラスのメーリングリストがあって、クラス全員のメールアドレスが登録されてるとのこと。なので、知ってるのはそのメーリングリストだけで各人のメールアドレスは知らないそうだ。

時間割を見てみると、地学の授業が僕のクラスの前か。彼との関係がうまくいけば、谷中への攻撃の協力を依頼できるかな。


『まずは、ターゲット3人に関して知ってることとは何でも教えてもらうことにするよ。教師については、通勤手段とかどこかのクラブの顧問やってるかとか色々』野島くん

教師がターゲットだと、不祥事暴露で首ってのが理想的かな。まあそう都合よく何かやらかしてるとかないとは思うけど。この担任の授業は僕のクラスにはないし、これまで授業を受けたことがない。そもそも何を担当しているかも知らないし。


早速清水平くんから返事が来た。

『ちょっと調べてまとめるよ。明日には返事できると思う』

明日が楽しみだ。

『この先生の授業は週に一回あります。古典です』と露崎さん。

『僕はこいつの授業はうけたことないな』野島くんがコメントする。

『どんな先生?』沖田さんが質問する。

『普通というか、サラリーマン教師って呼ばれてますね』

なるほど。ことなかれ主義は伊達じゃないね。

『ターゲットは決まったし、岡村くんも同じ学年なので、こいつらについて知ってることがないか聞いてみるよ』と野島くん。。

いいね。岡村くんからの返事も明日かな。


翌日。いつものように放課後は露崎さんの鍵確認の見張りを行う。

今日は3分程度かけて30パターン試したが開けられず。そう簡単にはいかない。明日体育の授業があるそうなので、どの位置の数字を変更しているかのぞき見を試みるとのこと。どの位置の番号を回しているか、どっちの方向に回しているかがわかるとかなり絞られるもんな。これは地道に行くしかない。


昼休みに岡村くんから返事が届いた。

この教師の授業は、露崎さん同様、彼のクラスでも週一回あるそうだ。また、この教師は学校に車で来ており、車種と色が書いてある。教職員の駐車場で見たことがあるな。残りの二人も知っているとのこと。一人は同じ中学で、もうひとりは1年の時に同じクラスだったそうだ。中学の同級生は住所氏名と自宅電話番号が書いてある。もうひとりは氏名とメールアドレスだ。それと、中学の同級生は自転車通学。もうひとりの通学方法は知らないとのこと。


清水平くんからは午後返事が届いた。授業中の時間帯に届いているので、今日も学校に来てないのだろう。

教師に関する情報で目新しいものとしては、書道部の顧問だということと職員室の机の位置、隣町に住んでるらしいということくらいか。教師への反撃は難しそうだなあ。世の中的に教師の不祥事というと、試験の解答用紙とか成績表を自動車に置き忘れて盗まれるとか援交が見つかるとかだけど、どれも僕らで暴露とか実行とか仕込むとかはかなり困難だ。


『とりあえず、メールアドレスが判明したやつにはフィッシングメールを送っておくよ』これは野島くん。

『担任はどうしたもんかな』と書く。

『彼に学校に来てもらって、教師と話すところを録音してもらうとかですかね』これは露崎さん。

『それだと彼が録音したってのがばれるね』沖田さんがコメント。

『何か不祥事の暴露とかできるといいんだけど、そう都合よく何かやらかさないよな』と書いてみる。

『自宅を突き止めてみる? GPS発振器を車につければできそうだけど』と野島くん。

情報収集は必要だよな。それにしても、そんなものまで持ってるのか、野島くんは。

『車でどこに行ったとかわかるし、もしかしたら何か情報が得られるかもね』野島くん

『知っておいて損はないかもですね』露崎さん

怪しげなところに行ってればいいんだけど。

『担任はサラリーマン教師ってことなんで、対応がだめだめなところを校長とかPTAとか熱血教師にチクるとかどうかな?』野島くん

2年では彼が不登校ってことは知られてるようだから、誰がチクったかなんてわからないだろうしこれはいいかもな。でも不登校の生徒がいれば既に職員会議とかで問題になってそうだけどな。どうなんだろ。

『よさそうですね。ただ反撃っぽくないところが残念ですが』これは露崎さん。彼女らしいな。

『反撃は実際にいじめてる連中を対象にするとか』と書いてみる。

『彼の第一のターゲットに攻撃できないのはちょっと残念だな』野島くん

『彼に、どんな攻撃がいいか聞いてみるのもいいんじゃな?』沖田さん

『聞いてみるよ。それと、この教師と話す際には必ず録音するよう言っておくね』


翌日から、車にGPS発信器を仕込むに当たり、放課後、駐車場の様子見からはじめた。どの時間帯の人通りが少ないかとか、どこに見張りを配置すれば大丈夫だとか、車のどこに取り付けるかとか。ただ、車に防犯装置とかついてる可能性があるので、あまり近づかないようにした。


それと住所がわかった奴、岡村くんの中学時代の同級生については土曜日に様子を見に行ってみた。住宅街だったので、動画撮影しながらこいつの家の前を自転車で通り過ぎた。表札に名前が書いてあるだろうからこれを撮影しようと思ったのだ。さすがに家の前で立ち止まってカメラを向けるのはあやしいし、どこで誰が見ているかわからないので危険は冒せない。スピードは落としたし、撮影しているように見えないようスマホを手に持ち、家のすぐ前を通り過ぎる際、移動に合わせてスマホの向きを表札の方向に変えながら流し撮りのように撮影したこともあり、判読可能な状態で撮影ができた。4人家族のようで名前順からすると姉がいるらしい。郵便受けに父親宛に、こいつがやってるいじめの実態とか書いて入れるのもいいかもな。


清水平くんからメールが届いた。

『上山だけど、こいつがクソ教師ってことが学校中に知れ渡るのがいいかな』

上山っていうのは担任の名前。クソ教師ってのをどうやって明らかにするかが問題なんだよな。

『サラリーマン教師ってのはこいつの授業受けてるやつならみんな知ってるし、いじめへの対処がなってないってのも意外性がないよね、暴露したところで』と掲示板に書く。

『そうですよね。彼にこの点を指摘して具体的になにかできることがないか聞いてみましょう』これは露崎さん。。

それがいいかも。暴露系はこいつが何かやらかしてる現場を押させないとどうしようもない。

『彼には反撃する側の視点がないんだよね。無理も無いけど』沖田さん

そういうことか。確かに漠然とした望みだもんな。

『そのあたりを指摘しつつ聞いてみるよ』


15分後返事が届いた。

『いじめへの対応もまともにできないダメ教師ってのが広まればいいと思ったんだけど、確かにそれだと普通だよね。こいつが他に何してるかとか知らないし、なかなか難しいね』

『教育委員会とか熱血教師に伝えるとかネットに書き込むとかかな。その場合証拠は必要だし、当事者の彼に録音とか録画してもらうしかないんだよね』野島くん

相談しているところを隠し撮りってのも不自然だよな。

『そうなると、何か嫌がらせ的なことをするとかですかね。車のタイヤの空気抜くとか』露崎さん

『それだとイジメの解決にならないね』野島くん

『まずはクラスメイトの方かな』沖田さん

『スパイウェアはなかなか仕込めないなあ』野島くん

『また机に落書きしますか』露崎さん。

落書きなら、不登校の清水平くんが疑われることはないな。

『一応連中の席はわかってるし』同じく露崎さん

『担任のもね』これは沖田さん。

お、教卓のことか。


『教卓に書きますか。放課後に書けば次の日のホームルームに気づきますよ』露崎さんも気に入ったようだ。

確かに教卓ってのは悪くないな。

『何を書けば効果的かな』沖田さん

『クラスで嫌われているって感じとかかな』野島くん

『煽ってブチ切れると面白いな』と書く。

『そこを撮影したいね』野島くん

『廊下側の窓にカメラ仕掛けてみる?』これは沖田さん

『授業で、こいつがこれまでに怒ったこととか不機嫌になったことってある?』野島くん。唯一こいつの授業を受けている露崎さん向けの質問だ。

『どうですかね。多少の私語は注意しないし、しゃべるだけしゃべって授業終わりって感じですし』

『岡村くんにも聞いてみるか』

彼も授業受けてるしな。

『まずは例のダミーカメラを窓に置いてみるか』提案してみる。

設置は、上の窓枠に手が届く僕の役割。

『明日持ってく。昼休みに渡すよ』野島くん

『あしたの放課後でいいかな。いつものように30分後で』と確認する。

『OK』


岡村くんからは30分後に返事が届いた。

『学級日誌に古文調でふざけたこと書いたやつがいて、その際にはホームルームでネチネチと古文の意義やらなんやら説教されたらしい』

へー。となるとでたらめな古文で煽るか。

『古文で煽るとか、いとおかし』野島くん

ははは。これでいくか。

『いいね』

『説教になるだけかも知れないけどね』沖田さん

『F組の子はなんのことやらわかんないでしょうね』露崎さん


内容次第かな。何書けばいいんだろ。

『2年の教室ですし、私が書きます』露崎さん

落書きに味をしめたのかな。

『ダミーカメラは前回は3日置きましたけど今回はどうします?』続けて露崎さん

そういえば前回は初めてだったから3日置いたんだったな。

『長く置けばその分見つかる可能性も上がるし3日はないかな。そもそもダミーは不要かも』野島くん

『いきなり見つかる可能性もあるから、1日はダミーを置いたほうがいいんじゃないかな』沖田さん

まあ見つかるときはすぐに見つかるし、見つからないときは何週間でも見つからないような気はするな。

『おk。明日放課後設置して、あさって差し替えと落書き実行で』

『古文勉強しておきます』

古文の罵倒語ってどんなのがあるだろう。教科書に載るような古文にはないよな。まあ、でたらめでいいんだから語尾に古文的な言葉つければ大丈夫か。

『アホや間抜けとかはもちろんだけど、不登校なんとかしろとか、教育委員会にチクるぞとかといった内容もね』野島くん

『ついでに校長と熱血教師、教育委員会とかPTAにチクっとくか』と書いてみる。

『イジメ現場を抑えてないから、ちょっとふざけただけなのに勝手に来なくなったってことにされないかな』沖田さん

それはあるかも。不登校への対処がなってないことは問題になるかもしれないけど、イジメは更に陰湿になる可能性があるな。とはいえ、彼が学校に来ないことにはイジメ現場もおさえようもないのだが。


『現場を撮るために学校に出てきてくれればいいんだけどね』野島くん

落書きとかチクリの結果、教師から連絡が来れば僕らの行動が功を奏したことがわかって来てくれるかも。

『私達の行動の結果、教師が彼に連絡して学校に来るのだと教師の手柄のように見えるね』沖田さん

確かにそれは考えられるな。

『理想としては、まず落書きして、その翌日から彼に学校に来てもらって、イジメ現場を撮影して教育委員会とかに連絡、という感じだけどね』沖田さん

『イジメ暴露は調査とか準備に時間かかるし、攻撃でいいんじゃないかな』野島くん

そのほうがいいかもな。

『暴露は本人にカメラつけてもらうのが手っ取り早いけど、それだと誰が撮ったかバレるから後々面倒だし』と書く。

『ついでに二人の机にも書きますか?』露崎さん

『時間があればやってもいいかも』賛同する。


教師については、教育委員会とか校長、PTAへのチクリでそれなりにダメージあるだろうし、今後適当な対応はできなくなるんじゃないかな。物足りない気はするが。

残りの二人はどうしたものか。落書きだけじゃあ足りないし。一人は自宅がわかってるから親にチクるか。自転車通学のやつは自転車になにかやるとかかな。


『まずは、明日カメラをダミーと差し替えて、可能ならそのまま落書きするか』と書く。

『落書きで教師が説教始めたとして、生徒からするとわけ分かんないけど、落書きのことだと判明したら疑われたことにムカつくんじゃないかな』沖田さん

『教師との信頼関係がなくなるかもな。この教師と生徒の間に信頼関係があればだけど』野島くん

まあ、これはこれでいいかもな。


翌日、野島くんからダミーと本物のカメラを受け取る。昼休み、図書室の古文コーナーに置くことにしていて、彼から連絡をもらったら取りに行く。直接会って受け取るようなことはしない。

放課後、ダミーカメラを受け取りしばらく時間を潰し配置につく。2年E組教室前の廊下と階段を見渡せる位置に僕、A組側の廊下に沖田さん、向かい側、F組側の棟の廊下を見渡せる位置に野島くん。3人の配置が完了。露崎さんは僕がカメラ設置に向かったら、最初に僕がいた場所に移動し階段を見張る。

廊下に誰もいないことを確認したところで僕がダミーカメラを仕掛けに向かう。E組は一番手前の教室なので時間はかからない。教室に誰もいないことを確認し、前回同様教室の前から三番目の窓枠の後ろ側に設置。カメラには両面テープをつけているので落ちることはない。帰り際に振り返ってカメラを設置したあたりを見るが窓枠と同じ色だし違和感はなく、今回も気づかれることはないだろう。


次の日。昼休みにも確認したのだが、放課後になってもダミーはそのまま残っている。

昨日と同じ配置で本物に差し替える。カメラを設置した後、僕は元の位置に戻り、入れ替わりで露崎さんが教室に向かう。

『行きます』

露崎さんが後ろのドアから教室に入る。マスクをかけて髪も後ろでまとめている。カバン持ってるから、このまま帰るのだろう。

『油性ペン持ってきました』

まじか。

『そう簡単に消せないので、多くの生徒に見てもらえるかもと思って』

それはよさそうだ。

『古文は適当です』

『ムカつかせるにはそのほうがいいよ』野島くん


『いじめ放置こそつたなき

さらりまん教師の態度こそいみじけれ

上山こそ不登校いとおもしろき

教育委員会にたのまばいかに』


わりと正しい古文じゃないか。

『1分経過』沖田さん

『古文などよしなし

担任の嫌われぶり、あさましきことはべりき』

はは。いいね。

『落書きこれで終わりです。ついでに2人の机にもちょっと書いておきます』

『OK』

『死ね、ボケ、と。机の中に教科書があるんでゴミ箱に捨てときますね』

おっと。やるな。

『もうひとりも、死ね、まぬけ、机の中は筆箱と教科書』

いじめる側の奴らは机に物を置きっぱなしにするんだな。

『ゴミ箱に放り込んで、ペットボトルのお茶かけときました』

容赦ないな。まあ陰湿な感じでいいかも。濡れた形跡があるとか超不愉快だろうし。それにしても、露崎さんって見かけによらず過激だよな。

『いいね』野島くんも気に入ったようだ。

『教室出て大丈夫ですか?』

『こっちは誰もいない』見回したが誰も歩いていない。

『こっちも問題ない』野島くん

『大丈夫』沖田さん

『出ます』

入ったのと同じ後のドアから出て、階段を降りていく。

『じゃあ解散で』

『明日、ホームルームの30分前から撮影開始するよう設定しておくよ』野島くん

『清水平君にも報告よろしく』と書いておく。


彼からはすぐに返事が届いた。

『まじで? 反応見てみたいな』

うまく撮影できてたら彼にも見てもらうか。

『一応、明日は登校しないよう伝えておいたほうがいいかもです』

連中が気づくのは明日だし、イジメ対応がどうとか書いてるからな。

『学校に来るなら、教師から連絡が来る前にしてほしいけどね』

まあな。

『こいつらへの攻撃はとりあえずこんなところかな』野島くん。

物足りないけど、これで彼の協力を得ることができるかも知れない。まあ、学校に来てくれないことには始まらないが。

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