第11話 落書き

この裏切り者くんは田島という名前とのことなので、今後は田島くんと呼ぶことにする。

まず最初に、露崎さんの化学の授業が田島くんのクラスの一つ前なので、授業が終わった後に彼の席に行って机にいくつか落書きを行う。それほど大きな文字ではなく、彼が席について教科書とかを置いても隠れない位置、机の手前あたりに罵倒する言葉を書き込む。特に彼の名前を書いたりはしないので、この時点では自分に対して書かれたものとは思わないだろう。続いて同日、自転車のタイヤの空気を抜く。これは野嶋くんが担当する。空気が抜けているのもたまたまと思うかも知れないが、前輪後輪とも抜けば何かおかしいと思うだろうし、ここで机の落書きを思い出して欲しいところだ。


僕と野嶋くんは自転車通学なので、彼が登校する時間帯にあわせて自転車置き場に入り、できれば彼の自転車の隣に駐輪する。彼が利用するのは東門側にある駐輪場だ。こっちの駐輪場は一応学年ごとに場所が決まっている。場所を決めないと、みんな校舎に近いところに駐めて混雑するからだ。

東門に一番近いところが1年、3年が最も生徒玄関に近い場所になっている。田島くんは2年なので中間の位置になるが、ここ数日見張っていたところ、3年寄りの奥まったところに駐めている。そのあたりは比較的空いてるので都合が良い。すぐ隣に野嶋くんの自転車を駐めれば、見られたとしても自分の自転車の様子を見ていることにできる。彼がどんな自転車に乗ってるかは事前に確認してあるし、登校の時間帯も確認している。実行当日の朝、彼が自転車で登校するかどうかと駐輪する場所も確認する。


さて、駐輪場で何かするとしたら昼休みか放課後だろう。休み時間に来るには教室からちょっと遠いからね。放課後は下校時間だし駐輪場を使う人が多いので、昼休みが良さそうだ。ただし昼休みもそこそこ人がいる。昼休みに自転車を使うやつはいないが、東門側の自転車置き場は東門から生徒玄関に向かう通り沿いにあり、第一体育館の横まで続いている。体育館の地下というか半地下には学食があるので、昼飯の後、体育館と自転車置き場の間のグラウンドに向かう通路のあたりでたむろしているやつは少なくない。とはいえ、やるとしたら昼休みしか無いので、昼休みになってから10分後に決行することにした。この時間は昼飯の真っ最中で外にいるやつは少ないし、一応昼休みなので駐輪場に人がいてもおかしくない時間帯でもあるので、仮に見られたとしても不審に思われることはないだろう。


昼休みの田島くんの動向は同じクラスの岡村くんに確認してもらう。彼にはメールアドレスしか教えていないので、メールで連絡してもらう。

僕らは田島くんに見られないようにするのはもちろんだが、岡村くんにも見られないようにする必要がある。彼らの行動の監視は露崎さんが担当する。露崎さんは2年D組で岡村くんたちはB組で教室は同じ並びだ。学食に向かう場合、B組の生徒はD組教室の前を通るので、後をつけてもらう。田島くんは週に何度かは弁当らしいので、岡村くんには当日の彼の行動と、学食に向かう場合は一緒に行動するよう頼んでおいた。


今回、僕らの情報共有は掲示板ではなく、グループトークができるアプリとイヤホンマイクを使うことにした。リアルタイムで状況を伝えられるようにするのだ。カメラを仕掛けるよりも手っ取り早いし、使い勝手が良ければ今後も使いたい。

昼休み、教室を出るタイミングですぐにイヤホンを付ける。イヤホンマイクは両耳にかけるイヤホンスタイルなので、音楽でも聞いているように見えるだろう。マイクはケーブルの部分についている。気になるパケット代だが、通話は1分でだいたい3MB程とのこと。ずっと喋り続けるわけじゃないからそんなに消費しないとは思うけど、僕のスマホのパケットは家族で共有なのであまり使うと目立ってしまう。仮に1分3MBで30分だと90MB。まあ100MBと見ておくか。これくらいなら問題ないだろう。露崎さんのは月間1GB契約で超えた分は従量とのことなので、野嶋くんが昨日モバイルルータを貸したそうだ。5GB契約のカードが入っており、まだ余裕があるらしい。沖田さんはバケットに関しては問題ないとのこと。


昼休み。教室を出て廊下を歩きながらイヤホンをつけてアプリを起動し、グループトークを始める。既に野嶋くんが待機中で、露崎さん、沖田さんもすぐに加わった。これで準備完了。昨日の放課後に一度通話確認しているのでこのあたりは問題ない。通話確認の際、沖田さんの意見でみんなの時計の時間をあわせている。野嶋くんによると、スマホの時間は自動的に標準時に合わせる設定があるらしいので、みんなのスマホの設定を確認してスマホの時間を合わせておいた。今後時間を伝える場合はスマホの時間を使うことになった。


野嶋君は学食の購買コーナーを覗き、パンを買えそうなら買ってから自転車置き場に向かうそうだ。5分も並べば買えそうなので間に合うだろうとのこと。僕は岡村くんからはメールで連絡が届くので、メールアプリに切り替えて到着を待ちつつ、僕も自転車置き場に向かうと伝える。昼飯は作戦完了後で良いだろう。昼休みは12時40分からなので、49分までは学食のあたりをうろつくか。

41分、露崎さんから廊下で彼らを見かけたので後をつけるとの連絡が入った。岡村くんからもメールが届いた。今日は学食で食べるそうだ。

44分、露崎さんから彼らが学食に入ったとの連絡。

48分、野嶋くんから、パンも買えたので自転車置き場に向かうとの連絡。僕はターゲットの自転車が駐められている通路の校舎に近い側の入り口あたりで校舎の方に向かって立ち、この通路に人が近づいてきた際の連絡と、近くを人が通る際に野嶋くんが見えにくいよう視界を遮る役目だ。

49分、沖田さんから配置についたとの連絡。彼女は、僕が見ていない方向を見張る役目だ。


12時50分、実行の時間だ。

野嶋くんは、靴紐を結ぶふりをしてしゃがんで空気を抜くことにしている。自転車置き場は結構広いし、しゃがめば周りからは見えない。そう簡単に現場を見られることはないと考えている。自転車置き場には屋根もあるので、校舎の上の階からも見えない。ただ、後輪は通路側なので簡単だが、自転車の詰み具合によっては前輪まで手が届かないので、その場合は自転車を引き出してから空気を抜き、その後元の位置に戻すので少々時間がかかる。所要時間はトータルで1分半程度とみている。空気の抜き方だが、ナイフとかの刃物でタイヤを切ったりして穴をあけるのが手っ取り早いのではとの意見もあったが、それだと器物損壊の犯罪ってことで却下した。まあ、既にいくつか法を犯してはいるが、物理的な犯罪行為はできるだけ避けたいところ。


さて、昼休みのこの1分半の間に、彼の自転車が駐められている通路に人が来ることはまず無い。実際、ここ一週間、実行時間帯に自転車置き場を覗いてみたが、昼休みに自転車置場に人はいなかった。もちろん、だからといって当日人が来ないとは限らないのだが、可能性が低いことは確かだろう。


僕も配置についたことを伝え、野嶋くんがいる方に背を向けこっちに向かってくる生徒の監視に当たる。今のところこの通路に向かってくるやつはいないようだと伝えると同時に、野嶋くんから今から始めるとの報告が入る。

沖田さんから異常なしとの連絡。露崎さんから、彼らは昼食の真っ最中との報告。カレーを食ってるそうだ。学食はかなり騒がしいが、指向性マイクは露崎さんの声をしっかりと拾っている。結構小声でも通るので、口元を隠せば周りからも怪しまれることはないだろう。


野嶋くんから実況が入る。まず後輪に取り掛かったとのこと。栓を緩めて空気を抜き始めたそうだが音までは聞こえない。

沖田さんから、引き続き異常なしという連絡と、30秒経過との報告。野嶋くんが開始してからの時間を計測してもらうことにしているのだ。1分半で収まるかな。

後輪完了の連絡と、沖田さんから1分経過の報告。

次に隣の自転車を押して、前輪の空気を抜くため体を入れる隙間を作るとの報告。自転車を引き出す必要はなさそうとのこと。


僕の方の見張りの状況はというと、昼休みなので人通りはあるが、こっちに向かってくるやつはもちろん自転車置き場の方を見ているやつもいないので、異常なしと報告する。露崎さんから、連中はまだ食事中との報告。

野嶋くんから前輪に取り掛かったとの連絡。沖田さんからは1分30秒経過との報告があり、その後すぐに野嶋くんから完了したので学食に向かうとの報告が入る。僕は振り返ることなく、野嶋くんとちょっと時間をずらして同じくこれから学食に向かうことを伝える。野嶋くんは僕のいる方向ではなく、ちょっと遠回りして学食に向かうとのこと。露崎さん、沖田さんからお疲れ様との連絡。それはそうと、このグループトークは使えるな。声で直接伝えるのは便利だし分かりやすい。今後もこれでいこう。


さて、空気抜きの次は教室だ。これも今日、放課後に実行する。

教室には露崎さんが入る。沖田さんと僕が廊下の見張りにつき、野嶋くんは田島くんの動向を追う。田島くんが教室を出るタイミングは、岡村くんに連絡してもらう。

まず、僕は2年の階、E組側階段のあたりで階段とJ組や図書室の棟から向かってくる生徒を見張る。沖田さんはA組側の階段のところで、階段とF組側から渡り廊下を通ってくる生徒を見張る。この時間帯、沖田さん側の階段や渡り廊下はほとんど人通りがない。


露崎さんは、J組側からこっちの棟を繋ぐ廊下で待機する。ターゲットはB組なので沖田さんのいるA組側の階段のところに待機した方が近いんだけど、そっちは人通りは少ないとはいえ沖田さんと一緒にいるところを見られたくないので、ちょっと遠いが反対側にいることにした。こっちには僕がいるが、この廊下は音楽室や保健室のある棟に向かう廊下とも繋がっていて放課後でも人通りは時々あるし見張りは多いほうがいい。離れた場所に待機していれば僕と一緒にいる感じには見えないはずだ。


実行は今日最後の授業が終わってから30分後なので、それまで図書室で時間を潰すことにした。放課後、一人で時間を潰せそうなところはここくらいしか思い当たらない。文化系クラブだと部室とか使えるんだろうけど、帰宅部の僕にはそんなところもない。図書室に向かいながらイヤホンをつけ、アプリを起動する。ひそひそ声でも十分に通ることは確認しているが、図書館で話すと目立つので、図書室にいる間は話さないと伝える。露崎さんも図書室に向かってるそうだ。沖田さんも図書室に来るとのこと。英会話部の部室に寄ることも考えたそうだが、20分程度で帰ることになるし、その後に校内にいるところを部員に見られると理由の説明に困るからとのこと。


いつもすぐに帰宅するから放課後の図書室にはめったに来ないが、そこそこ人はいるんだな。とりあえず、適当に本をとり閲覧エリアに向かう。露崎さんがいつもの場所に来ている。沖田さんは見当たらないが本でも探しているのだろう。岡村くんから、田島くんが教室を出たとの連絡。今日は友達とどこかに寄るわけではなく帰宅するらしいとのこと。


閲覧エリアに座ってスマホを本の横に置き、時間を確認できるようにする。図書室から僕の待機場所までは1分もあれば余裕だろうが、余裕を見て1分半前に向かうことにしよう。まだ25分あるので、読んでるふりをしているには長いので、本を読むか。

野島くんから報告が入る。自転車に乗った瞬間に空気が抜けていることに気づいたそうだ。まあそりゃそうだよな。しゃがんでタイヤの様子を見ているらしい。空気入れは自転車置き場に一台置かれていうるので、そこに向けて自転車を押してるとのこと。野島くんは彼が学校を出た後、見張りのために戻ってくる。彼の待機場所は、B組教室の向かいの棟、F組からJ組側の廊下が見えるところだ。中庭を挟んでB組側廊下も見えるので、人がいないか見張ることにしている。


時間を気にしながら本を読むと時間の経つのが遅く感じるんだな。5分前からは時計を注視していたように思う。3分前、露崎さんが席を立った。本を戻してから向かうようだ。沖田さんからもそろそろ向かうとの連絡。僕は彼女らと一緒に行動しているように見えないようにしないとな。待機場所は僕の位置からが最も近いし、1分前になってから向かうことにしよう。


沖田さんから連絡が入る。D組教室には何人か生徒がいるそうだが、C組からA組教室には誰もいないとのこと。D組教室の奴らが教室を出てB組教室の方に向かうことはまずないとは思うが、気にしておくことにしよう。さて、図書室を出るか。向かっていることを報告。廊下の角を曲がると壁に持たれてスマホを眺める露崎さんが見える。マスクをかけている。彼女の前を通り過ぎ、E組教室の方にある階段のところに向かう。もちろん、すれ違いざまに彼女の方を見たりはしない。

待機場所に到着したことを報告する。やはりこの時間帯はこれまでに観察したとおり人通りが殆ど無い。


野島くんからも配置についたとの連絡。これで全員配置に付いた。露崎さんが行動を起こす番だ。

『じゃあ、そろそろ行きます。何かあればよろしくおねがいします』

『OK』露崎さんの方を見ると、B組側の廊下に向かっている。

『こっちは誰もいないよ』沖田さん

『向かいの廊下も大丈夫』野島くん

さて始まった。ここからは見えないので、露崎さんの実況待ちだな。

『教室に入りました』

始まった。

『ターゲットに向かいます』

やつの席は廊下から二列目、前から3つ目だ。

『始めます』

『異常なし』沖田さん

『こちらも大丈夫』と僕

『問題なし』野島くん


教室に入ってから落書きを終えるまでの所要時間は1分と見ている。

教室に入って机に到着するまで10秒、落書き40秒、教室を出るまで10秒。残り10秒は予備。

試したところ40秒あれば結構書ける。3秒で1フレーズ書けるので、死ねとかボケとか10個以上はかける計算だ。落書きは机のいくつかの方向から筆跡や文字の大きさ、ペンを変えて書くことにしている。これで複数の奴が書いたように見えるだろう。


『まずは、死ね、マジうぜえんだよ、学校くんな』

『向きを変えて、バカ、くせえんだよ、キモい』


露崎さんの実況が聞こえてくる。書いてる速度にあわせてるのだろう、ゆっくりと喋っている。

『30秒経過』これは沖田さん。教室に入ってからの時間だ。

それから約10秒後、露崎さんの報告が入る。

『後は、死ねとかボケとかそれぞれ3つ書いて、と、書き終えました』

よし。ここから、彼女が教室を出て問題がないかを僕らが確認する。

『異常なし』

『大丈夫』

『誰もいないよ』

問題なさそうだ。

僕はB組側の廊下に向かい、露崎さんの様子をうかがうことにする。

『出ました』


教室を出た露崎さんが沖田さんのいるA組側に歩くのが見える。沖田さんは露崎さんが教室を出たことを確認すると、すぐに階段を降りる。僕らは一緒に行動はしないのだ。露崎さんが階段を降りたのを確認。

『うまくいったようだね』

『はい』

『お疲れ様』

『じゃあ、解散ってことで』

グループトークを終了する。

自転車も教室も所要時間が1分半くらいか。このくらいの短時間なら、誰にも見つからずにできるもんだな。明日の岡村くんの報告が楽しみだ。


翌日。ホームルームの5分前に岡村くんからメールが届いた。

机の落書きを田島くんが消しゴムで消していたそうだ。本人は無言で、他の奴も気づいているのかいないのか、特に何も言ってなかったとのこと。効果はあったのだろうか。

昼休みにもメールが届いた。いつも彼は授業前とか休み時間に連中と話をしていることが多いそうだが、今日は席についたままだったとのこと。連中が落書きに気づいているかまではわからないそうだ。

なるほどね。田島くんが連中を疑うようにするにはもうひと押し必要だな。そろそろ授業が始まるのでスマホをマナーモードにしてカバンに放り込む。計画としては、今日の昼休みに彼の自転車のかごにゴミを入れ、放課後に教室の机への落書きとゴミ入れを行うことにしている。これで、化学室での落書きから3日連続だ。

それから、さすがに連続してやると見つかる可能性も高くなるのではないかと思い、4日目は何もせず5日目に再度実行した。岡村くんによると、攻撃を始めてから連中と一緒にいるところを校内では見たことがないとのこと。これはいい感じだな。連中を疑いはじめたかも。


問題は彼と連中の関係が実際にどうなったのか、本人に聞かないとわからないところだな。そこで岡村くんに、田島くんに最近様子が変だってことで、話を聞いてもらうことにした。彼から、いじめられているかも、という発言を引き出せたら、やったのは連中じゃないかって岡村くんから指摘してもらうのだ。多分彼も疑ってるはずなので、その疑念を後押しするのだ。自分がされていることを説明し、それと同じことをされていることがわかれば納得するだろう。田島くんにしてみれば、岡村くんが誰に何をされているのかは知っているわけだが、改めてやられていることが同じだと説明されれば連中を疑うだろう。これまで連中とは仲が良かったんだから、直接聞いてみたらどうかと提案する。この提案を受けてくれるかどうかがポイントだが、多分大丈夫だろう。彼にしても気にしているはずだし。


で、誰に話したかを確認し、今度はそいつに対し僕らが攻撃を仕掛ける。連中は落書きとかのいじめにあったことなんかないだろうから、一回やればすぐに自分を疑った田島くんやったと思うんじゃないかと期待している。

後は、連中がどう反応するかだ。田島くんに対して同じようなイジメを仕返すかもしれないし、呼び出して直接何かいうかもしれない。この現場を撮影したいのだが、さてどうするか。このあたりをみんなで検討していたところ、連中に送信したフィッシングメールの一通がうまくいったとのこと。岡村くんが最初に名前を上げた3人のうちの一人だ。これは活用したい。


夕方、岡村くんからメールが届いた。

今日の放課後、彼と話したそうだ。やはり、イジメのターゲットにされたのかも知れないと思っていたようだ。で、計画通り後押ししたとのこと。何をされたのかを聞き、自分がされているのと同じであることを説明。実行犯として疑っている奴らの名前を挙げたところ、彼も連中の仕業だと思っているとのこと。一度そいつらと話したほうがいいんじゃないかと話したら、うなずいていたそうだ。いい感じだ。話すとしたら昼休みか放課後だろうな。

岡村くんに彼の動向を見張ってもらうのはもちろんだが、僕らも彼の様子を見たほうがいいんじゃないかな。掲示板に書き込んでみる。


『明日の昼休みと放課後の動向を岡村くんにしてもらおうか』

『一応、僕も後をつけるようにするよ』


『例のスパイウェア仕込んだやつのLINER見てたら、田島くんからのメッセージを見つけたよ』

直接じゃなくてLINERで伝えたのか。

『いきなり、落書きとかやめてくれって書いてる』


『こいつ、フィッシングにかかったくせにスマホは結構セキュリティきつく設定してて、LINERの転送設定は簡単にはできなさそうだよ。時々盗み見るしかないな』


『連中はもちろん否定してるけど、落書きは気づいていたようで、最近話しかけてこないのは自分たちを疑ってたからかよ、とか返信してるな』


連中がムカついてくれないと困るんだが。まさか一緒に誰がやったか突き止めよう、とかの展開になったりしないよな。

『対立しそうにないのかな』

『今のところ連中は面白がってるな。いじめられっ子をバカにしたり、一緒にいたら自分たちもイジメられる、とか』

なるほどね。

『自分もイジメられるから話しかけてくんな、とか面白がってる』

『彼がそれに対してムカついてくれればいいんだけどね』これは沖田さん。

確かに田島くんがどう反応するかだな。ムカついたところを示せたら、僕らの連中への反撃が効いてくる。

『他の奴らも参加し始めたよ』

『そいつらも面白がってるな』

『彼の反応はどんな感じですか?』これは露崎さん。

『しばらく反応がないな』


まあ、いい気はしていないはずだ。彼にしてみれば、ここでどう立ち振る舞うかで今後の連中との関係が決まるから、どうでるか悩みどころだろうな。

『他にやりそうなやつは思い当たらないはずなので、疑っていることは確かだよね』と書く。

『反応があった。お前らじゃないのか、って聞いてるな』

うーむ。誤解が解けてしまうとやばいな。

『連中は、知るかボケ、とか全否定してる』

『疑いが晴れちゃいましたか』と露崎さん。

『どうかな。彼が、わかったよ、と書いたところでやり取りは終わったようだし』

『これは、即反撃すべきです。そうすれば連中は田島くんがやったと思うかもです』これは露崎さん。

そうだな。『わかったよ』だけなら、連中がやってないと納得したとは限らない。

『明日の朝、連中の机に落書きができてるのが理想だけどなあ』野島くんがコメントする。

『田島くんがやったと思わせればいいので、明日の朝にこだわらなくていいんじゃないかな』

『朝はともかく明日中には何かやりたいところだね』


基本は、同じことをやり返したように見せる感じか。ターゲットは5人なのでなかなか大変かもな。田島くんがやったと思わせる必要があるから、彼の動向も見張ってないとな。連中と同じ場所にいる時間帯に実行するわけにはいかないから。

化学教室の落書き5人分は難しいかな。

『田島くんが一人でやったことにするとなると、5人全員にやると不自然かな』

『連中で自転車通学は3人か。やるなら教室の机かな』

『机の落書きなら、5人分でも可能ですよ』露崎さん

『放課後、彼が連中と一緒に行動していないことを確認してから実行だね』

『岡村くんにも協力してもらうか』

明日の放課後、岡村くんに田島くんが連中と一緒に教室を出ないよう引き止めてもらうことにした。ほんの1分でいいだろう。連中より早く帰らなければいい。この引き止めに失敗したらこの日の実行は次の日か。できれば三日以内には実行したい。

『岡村くんに連絡するよ。明日の放課後、田島くんを1分でいいので教室に引き止めてくれるように』


その後、明日の行動を打ち合わせた。といっても、前回と同じ体制でいくことを確認したのだけだが。

次も露崎さんが教室に入る。同じ2年だし、僕らが見つかるよりもまだ不自然さがない。見張りの体制もこれまで同じだ。野島くんには、田島くんの動向を追ってもらう。彼が自転車通学の連中と一緒に行動しないかを見張る。

問題は、この反撃のうまくいって、連中が田島くんを疑うところまで持っていけたとして、そこからどうするかだ。そのあたりは連中の動向を追いつつ考えるしかないか。


この活動を始めてから学校に行くのが楽しみになってきた。まったく意外だが。

今も僕の机には時々落書きされたりゴミ袋を入れられることもある。不愉快だが、そのうち反撃してやると思うと今ではあまり気にならない。勝手にやってろって感じだ。


翌日。

昼休みに岡村くんからメールが届いた。午前中、相変わらず田島くんは連中と話してはいないようだ。これはいい感じだな。放課後、彼を引き止められそうか確認したところ、なんとかやってみるとのことだ。

放課後になったら、露崎さんがすぐに廊下に出て田島くんが連中と一緒に行動していないかを確認する。もちろん岡村くんに引き止めてもらう予定だが、その場ですぐに彼がメールを送信できるとも限らないからね。今日実行できるかは、田島くんが連中と別行動であることを確認することが大前提なので、まずは全員で彼らの放課後の様子を探る。

野島くん自転車置き場に向かい、僕は生徒玄関のあたりで様子を見る。沖田さんも生徒玄関あたりで様子を見る。放課後は人が多いので、僕だけだと見逃すかも知れないので。


で、その日の放課後、岡村くんの引き止めは成功し、連中と別行動であることを確認。少なくとも、放課後になってから5分間は連中の目に触れないところにいた事が確認できた。となると今日実行するしかない。これまでのように、放課後になってから30分後から実行することにした。それまでの間を図書室で過ごすのも同じだ。待機場所も同じ。

今回は5人の机が対象なので所要時間も5倍かと思ったが、露崎さんによると、書くのは田島くん一人の設定なので、書く方向やペンを変える必要がなく、それほどかからないとのこと。一つの机あたり30秒で150秒、教室内の移動に合計60秒を要すと見て計210秒。3分30秒で完了できるのではとのことだ。これまでの1分半に比べると二倍以上の時間を要すことになる。


さて、いつものようにイヤホンマイクをつけ、僕は校舎2階、2年生のフロア、E組側階段のあたりで階段とJ組や図書室の棟から向かってくる生徒を見張る。沖田さんも前回同様、2階のA組側の階段のところで階段とF組側から渡り廊下を通ってくる生徒を見張る予定だ。露崎さんもすでに廊下で待機中だ。沖田さんが図書室の方から歩いてくるのが見える。野島くんF組側の廊下に待機。


これから、A組側階段に向いつつ途中の教室に人がいないかを確認する。

『E組、誰もいない』

一番手前の教室だ。沖田さんが一通り確認するけど、露崎さんがB組に向かう際にも念のため確認する。たまたま視界に入らないところにいる可能性はあるからね。

『D組、誰もない』

『C組、2人いる。机を挟んで向かい合わせに座って話してる』

教室に人がいたのは初めてだな。さてどうしたものか。

『教室を出てB組に向かうとは思えないので大丈夫でしょう』露崎さん

まあそうだな。隣の教室というのが気になるが。

『ただ、C組だと私のこと知ってるかも知れないので、外の方を向いて通り過ぎます。マスクしてますし大丈夫です』

『他の教室が無人なら決行するか』野島くん

『そうしましょう』露崎さん

『B組、誰もいない』

『A組、誰もいない』

沖田さんの報告が続く。C組以外は誰も教室に人はいなかったか。これで準備完了だ。

教室に向かうタイミングは露崎さん次第だ。

『いきます』露崎さん

『油断しないでね』沖田さん

『はい』


よし、始まった。

露崎さんがB組に向けてあるき出す。

『C組、話し込んでますね。しばらくそのままな感じです』

問題なさそうだな。

彼女がB組教室に近づいた。こっちの様子も報告する。

『こっちは大丈夫』

『こっちも誰もいないよ』沖田さん。

『こっちも誰もいない』野島くん

『入ります』

彼女は立ち止まることなく、あたかもB組の生徒のようにB組教室に入る。

連中の机はバラバラだが、近いところから順に書いていく。

『一人目、死ね、ボケ、アホ、ちび』

後ろのドアから一番近い席のこいつは背の低いやつだったな。

『二人目、行きます』

一人目は30秒かかってないな。

『二人目、書きます』

『30秒経過』

想定よりちょっと早い。

『こっちは異常なし』

『二人目、死ね、ボケ、アホ、学校くんな』

『階段降りてきたやつが居るけど問題なし』野島くん

『1分経過』

『三人目に向かいます。ちょっとボキャブラリ貧困ですかね』

『別にいいんじゃないかな』

『一応、アホとボケは二回書いてます』

『1分半経過』

『三人目、死ね、ボケ、アホ、デブ』

こいつは小太りのやつだったかな。

『四人目に向かいます』

ちょっと間が空く。前の方の席のやつだな。

『2分経過』

『四人目、死ね、ボケ、アホ、学校くんな。同じことばっかり書いてますね』

図書室の方から人が歩いてきた。ネクタイの色からすると2年だ。

『図書室の方から2年の女子が歩いてきた』

『ここまで来たら五人目も書きます』

『2分半経過』

『そっちに向かったら妨害するよ』


そいつがB組のある廊下に曲がったら、そいつを追い抜いて前を歩き、露崎さんが見えにくいようにするのだ。

『五人目、死ね、ボケ、アホ、バカ』

『階段に向かったよ』

『それは良かった』野島くん

『3分経過』

『書き終えました。前のドアに向かいます』

『こっちは大丈夫』沖田さん

『こっちも問題なし』

『こちらも問題ないよ』

『出ます』

『じゃあ私も階段おりるね』沖田さん。


露崎さんが教室を出てA組側階段に向かう。沖田さんは彼女を待つことなく先に階段を降りる。

僕も露崎さんが階段を降り始めたら帰るか。

『じゃあ解散ってことで』

『お疲れ様』

『岡村くんにも連絡しておくよ』

明日、彼の報告が楽しみだ。


次の日。

目覚まし時計がなる前に目が覚めた。

落書きは連中が席についたらすぐに気づくから、岡村くんからホームルームの前に連絡来るかもな。いつもより早く学校につくように家を出る。自転車を駐輪場に駐め、教室に向かいながらもスマホから手が離せない。メールが届いたらすぐに確認したい。

席に付き、スマホを眺める。ホームルーム5分前、岡村くんからメールが届いた。

『騒ぎになってる。田島くんが今さっき来たんだけど、連中が詰め寄ってる。田島くんはもちろん自分じゃないって言ってるし、お前らこそ自分の机に書いただろうって言い返してる』

いい感じじゃないか。ぜひそのまま対立してほしいところだ。

さて、ここまでは計画通りだが、この後が問題だ。連中が田島くんに何かやらかすかどうかと、その現場を押さえることができるかだ。


その後、1限目の授業が終わった後の休み時間にも岡村くんからメールが届いた。

『5人が集まってなにか話している。内容まではよく聞こえないけど、他にいないだろってのは聞こえたので、落書きのことを話していると思う。田島くんはトイレなのかすぐに教室を出たので、彼らとは話してない』

それから、休み時間ごとに岡村くんからメールが届いた。少なくとも田島くんが連中と話しているところは見かけていないそうなので、連中の関係は良くないことは確かだな。ここで奴らがどう出るか、後、僕らの都合の良いように後押しできるか。

昼休み、昼飯の後、図書室で掲示板に書き込む。

『ここまではいい感じだけど、この後どうしたものかな』と書いてみる。

『もう一回書きますか』露崎さんだ。すでに対立してるから後押しはいらないんじゃないかな。

『連中がなにかやる現場を抑えるには、カメラを置くしかないかなあ。ただ、一度やると他の教室でやりにくくなるんだよね』

そうなんだよな。理想的には、現場にいたやつが撮影することなんだけど、スパイウェア仕込んだスマホのカメラで都合よく現場を撮れるとは限らないし、どうしたものか。


『ここ最近、田島くんは彼らと一緒に行動してないので、逆に一緒にいることがあれば、連中と彼の間に何かある可能性が高いかも』沖田さん

そうかもな。連中の一人にはスパイウェアを仕込んでるので大体の居場所のはわかる。後は田島くんの動向を追うことになるか。

『田島くんの動向は岡村くんに協力してもらうか。連中の動向はスマホの位置情報で確認して、同じ場所にいそうなら近くから撮影ができそうか確認、って感じかな』野島くん

他にやりようもないよな。

『時間かかりそうだけど、他に方法はなさそうだよね』


さて、昼休みも残り7分。トイレに寄ってから教室に戻るか。

午後の授業が始まる3分前に教室についた。席についてスマホを見ているとメールが届いた。岡村くんだ。

メールのタイトルは『!』か。本文はと。


『落書き現場撮影! 詳しくは後で』

なんと。連中が田島くんの机に落書きするところを隠し撮りしたのか。連中は僕らと違って誰が見てようがお構いなしにどうどうとやるもんな。そこを撮ったってことか。やるじゃないか。

次の休み時間、メールが届いた。


『動画を添付するよ。撮影の機会があった時のために試してたんだけど、撮影中のスマホをシャツの胸ポケットに入れると、隠し撮りしているように見えないんだ。昼休み、連中が田島くんの机に集まって落書きしてたから、ポケットにスマホ入れて横を通ってその様子を撮影してみたよ。後、実際に落書きされた机も撮影した。彼の机の横を通るときにちょっと体を傾けてゆっくり歩いたらちゃんと写ってた。この動画、先生に送ればいいかな』

動画を見なくては。誰にも見られないよう廊下に出よう。外の窓側に持たれ、音が出るかも知れないのでマナーモードに切り替えてから再生する。


撮影を開始してから胸ポケットに入れるまではカメラがぶれてるが、それからはちゃんと写っている。席から教室の後ろに移動し、教室後ろのから撮っている。

連中が机に集まって何かを書いてるというのはわかる。教室の後ろを向いてるやつは二人で、こいつらの顔はバッチリ写っている。一人は横顔で残り二人は後ろ姿だけか。30秒くらいで落書きを終えると、連中が教室を出て行ったようだ。それから10秒位たってから岡村くんが、田島くんの机に向かう。机が近づくと体を傾け、机が見えるようにしている。スマホの画面だと小さくて細かな文字は読めないが、死ねっていう大きな文字はわかる。机の横を歩く際に速度を落としているから、パソコンで見れば小さい文字も読めると思う。これは使えるな。

動画は、田島くんの席の横を通り過ぎ、教室の前のドアから廊下に出て撮影を止めるところまでだ。動きも自然な感じだし、カメラの方を見ているやつも写っていないし、撮影していることはバレてないんじゃないかな。


『動画見たけど、落書きの内容までちゃんと写ってたよ』

『すごいですね』

『先生には岡村くんが送ってもいいけど、匿名で送った方が良さそうだね』と野島くん。

『動画サイトにあげて、それを知らせるとか』沖田さん。これはインパクトがあるな。

『それいいですね。先生に送っても当事者だけで解決しようとする可能性もありますし』これは露崎さん。

なるほど。先生に伝えればいいかと思ってたけど、事なかれ主義のやつだったりすると注意だけで済ます可能性があるな。なんといっても抑えた現場は机への落書きだし、この程度じゃあ停学は難しいかも知れない。

『一応、こいつら以外の生徒の顔にモザイクかけるよ』

『モザイクとか不要です。見て見ぬふりしてるんですから同罪です』これは確認するまでもなく露崎さんだな。

『モザイクはなくていいと思うけど、身元がばれないようにアップロードしないとね』沖田さんがコメントする。


確かにそこが心配だな。確か、訴えられたら動作サイトはアップロード元のIPアドレスとか提供するんじゃなかったかな。

『セキュリティの甘い無線LANを使ったり、その他色々と対策するから大丈夫だと思うよ』と野島くん。これは野島くんに任せるしかないな。

『早速今日アップするの?』と聞いてみる。

『そうだね。編集も前後を削除するくらいだろうし』

『日を空けたほうがいいと思う。公開すると誰が撮ったんだってことになるし、翌日だと岡村くんが机を見に行ったことを覚えてる生徒がいるかも知れない』これは沖田さんの指摘。

確かにそれはありそうな気がする。

『なるほど。じゃあ週末まで待つか。匿名掲示板にも書き込めば、土日に広まることも期待できるし』野島君も同意する。

一度インターネットで広まると、もう削除は無理だよな。いい感じだ。

『岡村くんを守る意味でも週末まで待つのが良さそうだね』

『岡村くんにも伝えて置いたほうがいいですね』

『おk』


今日は火曜なので週末までが長く感じる。まあ、週末の時点で火曜日の岡村くんの行動を覚えているやつなんていないだろうから、週末公開は良い判断だと思う。岡村くんにも公開は金曜の夕方で、匿名掲示板にも書き込むことを知らせ、それまでの間、田島くんの机にはできるだけ近寄らないよう伝えた。岡村くんからは、木曜にも連中は再度落書きしていたそうだ。こうなると、落書きの後で田島くんの机の近くを通ったやつもそこそこ居るだろうし、岡村くんが疑われる可能性は低いんじゃないかな。


週末、投稿された動画とか書き込みを探そうと思ったけど、仮に名誉毀損とかで将来調査された際、投稿されてすぐに見に行った形跡を残すと怪しまれたりしないか心配で直接的なキーワードでは検索できなかった。臆病すぎるかな。まあでも、土曜日の夕方、野島くんから投稿完了との報告はあったけどそのアドレスは書かれておらず、その理由として、念のため、僕らが真っ先にアクセスしないほうがいいかも知れないから、とのことなので、僕の心配もそんなにおかしいものじゃなかったってことだな。炎上し始めてから見ればいいだろう。

それから土日は匿名掲示板とかまとめサイトとか、色々と探したが見つからない。そう簡単には炎上したりしないものないのかな。炎上系の動画とかって、投稿からすぐに炎上するようなイメージだけど、そうでもないのだろうか。まあ、気長に待つか。


日曜の夜、野島くんからまとめサイトに載ったという書き込みがあった。

早速見に行く。タイトルは『高校イジメ動画、顔モザなし!』か。まあ、机の落書きもイジメだしモザイクも入ってないけど、多分このタイトル見たら暴力的なイジメを予想するだろうな。それが狙いかもしれないけど。


内容を見ると、やはり落書きかよって落胆してる書き込みが多い。後、学校の特定を試みてる。知ってるやつが見れば制服から特定は可能だと思うけどな。今のところ、言葉から関東であることは間違いないとか、これに対してかなり絞られたな(笑)、とかの書き込みがある。動画の方についても、削除されるだろうからダウンロードした、って書き込みもある。


動画の方も見てみるか。再生数は5万ちょっとか。公開されたのは金曜、2日でこの数は多いのか少ないのか。いくつかのまとめサイトに載ったから、この週末で再生回数はもっと増えるだろう。再生すると、最初のところがカットされて、教室の後ろから撮ってるところから始まっている。


コメントを見ると、ここでも学校を特定しようとしてるな。人物も特定して晒すべきって書き込みもある。消される前に拡散するって書いてるやつも何人かいる。素晴らしい。月曜の朝までに学校が特定されるかどうかと、うちの学校の生徒がこの投稿に気づくかどうか。まあ、どっちも時間の問題だろう。


翌日。家を出る前に野島くんの書き込みがあった。学校が特定されたらしいとのこと。見てみると、どうやらうちの学校の生徒が気づいたらしく学校名まで書いている。この現場が何年何組かまでは書かれていないが、ここまでくれば学校中に知れ渡ることは間違いない。月曜だというのに学校に行くのが楽しみになってきた。


ホームルームの10分前に教室についた。やることもないので机に突っ伏してスマホを見ながら周りの会話に耳を傾ける。今のところ話題にはなっていない。5分前。人が増えてきた。お、イジメ動画の話題が聞こえてきた。

「うちの学校のイジメ動画見たか?」

来た!

「なにそれ?」

「これこれ。これってうちの学校だろ」スマホでその動画見せてるようだ。

「おー確かに。2年だな。クラスはBかCか」

ネクタイが2年だし、教室の窓から見える景色からA組のある棟であることや大体の位置がわかる。これで学校内にも広まることは間違いなし。

「やべー、顔もろ写ってるし」


岡村くんからメールが届いた。

『クラスで話題になってる。誰が撮ったんだって騒ぎになってて、ちょっと心配になってきた』

撮影から日もたってるしバレることはないだろう。岡村くんには、とにかくしらばっくれるように伝えてある。

さて、ホームルームまで後1分か。掲示板にコメント書いてる時間はないな。


先生が来た。投稿に気づいていないようだ。気づいてたらまっさきになにか言いそうだし。ホームルーム終わり際、誰かが動画のことを知ってるか先生に尋ねた。周りも何それって感じのやつも多いな。先生も知らなかったようだ。で、そいつが2年のB組で机に死ねとかボケとか落書きしてるところが撮られて動作サイトにアップロードされてるって説明している。先生がそのアドレスを教えてくれって言ってるから、これで教師にも伝わった。さて、学校はどう出るかな。落書きで停学は難しいかも知れないが、少なくとも連中をおとなしくできるだろう。


岡村くんのクラスはこれで完了だけど、正体を明かさずにいじめっ子を攻撃ってなかなかいい感じだ。まあ、今回は運が良かったところもあるけどな。多分、田島くんは連中とそんなに仲が良かったわけじゃないんだろう。連中が対立しなかったら終わりだったし。下手すると第三者の存在がばれるから、他の奴らには使えないかな。

他にもいじめられている奴はいるだろうし、そいつらの通報先というか助けを求める先としていじめられっ子の間で広まると、それはそれで面白いような気もする。今度みんなに提案してみるか。


それはさておき、次は露崎さんのクラスがターゲットだ。

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