第10話 第三者

なかなか鋭いな、岡村くん。

これはどう対応したものか。僕らの存在が知られるのは良くないよな。この懸念を書き込んでみる。


『確かに。反撃している奴が居るってのはあまり知られたくないかなあ。警戒されるかもしれないし』これは野嶋くんの書き込み。

『でも彼からすると私たちは味方だと思ってると思うんですよね。私達が不利になるようなことはしないと思います』と露崎さん

『ちょっとはぐらかして、そうだとしたら? って彼に聞いてみるのはどうかな』これは沖田さん

割とよくある、否定も肯定もしない返答だな。彼の目的がわかるかも知れない。

『それがいいんじゃないかな』と僕。

『そうですね。最初ははぐらかす感じが良さそうです』露崎さんも賛成のようだ。

『じゃあ、それで返事してみるよ』これは野嶋くん。


さてどう来るかな。多分、特に目的はなくて単に疑問に思っただけじゃないかと思うんだけど。

夕食後、部屋に戻りスマホを見ると返事が届いていた。


『やつらに反撃してるなら、僕も手伝いたいんだ』


なるほど。この前のカツアゲ現場の暴露は彼にとって効果的だったもんな。

彼も仲間に入れるという手もあるけど、彼のことをよく知らないしどうしたものかな。もっとも、僕らも特に個人的に親しいわけじゃないけどな。沖田さんとは同じクラスなのに、いまだに一言も喋ったことないし、露崎さんは図書室で毎日見かけるけど誘った時に話したきりだし、野嶋君とは自転車置き場と図書室で二回話しただけだ。元々僕らはよく知らない同士の集まりなので、岡村くんをメンバーとして追加すること自体は別に問題はないとは思う。ただ、ここまでのところ僕ら4人で問題なくやってるし、スパイウェアを仕込んだこととか、盗聴ってのは犯罪なので、知ってる人間は少ないほうがいいに決まってる。なので、彼を仲間にするにしても、僕らの正体を知らせないままの方が良いかもしれない。

ということで、

『僕らの正体を知らせる必要はないし、外部の仲間ってのもいいんじゃないかな』と提案してみる。

『彼のメアドは既に知ってるし、現状維持ってことだよね。反撃していることも教えても問題ないと思う』野嶋くんも賛成してくれているようだ。

『私達の正体を教えないなら、いいと思います』これは露崎さん。

『いいんじゃないかな。イジメられる側は孤立している、を解消するために始まったんだから』沖田さんがコメントする。

『OK じゃあ、反撃していることと、手伝ってもらえそうなことがあれば連絡することを伝えるよ』と野嶋くん。

『ついでに、具体的に反撃したい相手がいるか聞いてみたら?』沖田さんが書き込む。

『OK』

5分後に返事が届いた。


『やっぱりそうなんだ。

今回の自撮りの投稿って、リモート操作しないとできないよね。ハッキングしてるの? そうなら凄いね。

反撃したい相手はカツアゲ連中の他には3人と、他にこいつらだろうってのがいるけど証拠がない。机に落書きされたり体育館シューズに画鋲入れられたり物隠されたり色々言われたり蹴られたりっていう、イジメのテンプレされてる』


このテンプレは僕もされてるな、そういえば。ちょうどいい機会だし、こういう隠れてコソコソ嫌がらせしている糞野郎連中もなんとかしたいところだが、相手がわからないのは僕の場合も同じだな。通りすがりに椅子を蹴ったりぶつかってくる奴らがその一人であることは間違いないけど。


『僕も時々テンプレされてるからなんとかしたい』と書いてみる。

『私もです。私がいない時に堂々とやってるってことは、クラスのみんなは知ってて無視してる。なので、クラス全員敵認定』これは露崎さん。

露崎さんは強気というかなんというか、見た目と違って気性が激しいのかな。僕の場合はどうだろう。見て見ぬふりする連中は、結果的にいじめる側にとって都合がいい奴らなので敵ともいえるけど、僕としては実行犯だけなんとかできればいいってところだな。見て見ぬふりしてる奴らは、状況によっては僕もそっち側にいるかもって気もするし。まあ、我ながら情けないという点は認めよう。


『同じクラスだけど気づいてなかったな。席が離れてるというのもあるけど。これからちょっと気にしておく』僕の書き込みに対し、沖田さんのコメントが付いた。

『大々的にやってないからですよ。それか、転校してまだ日が浅いから気づかないんです。私の場合こっそりとかじゃないレベルなのでみんな知ってるはず』これは露崎さん。


何かずいぶんひどい目にあってるみたいだな。露崎さんの方もなんとかしないと。沖田さんは見る限り無視されているだけで何かされているって雰囲気はない。野嶋くんは大丈夫なのかな。基本、露崎さんも僕も岡村くんのと同じようないじめられ方なので、いい方法が見つかったらまとめて対処してやりたいところだ。


『教室だと、どこかにカメラ仕掛けるくらいしか思い浮かばないな』野嶋くん。

『それだと、動画を公開した時点でどこにカメラがあったかバレるので、一回しか使えないね』

『どうせなら、岡村くんだけじゃなくみんなの分もなんとかしたい』

『校内だと生徒が撮ったことは明らかだし、僕らが映るってのはできれば避けたい』

なるほど。うまく撮影できて動画を先生にだけ送ったとしても、恐らく先生は写ってる奴を呼び出して動画見せる可能性があるし、動画をみたらいじめられた当人がカメラを仕掛けたと思うかもな。

『確かに、写りたくはないですね』露崎さん

『それに彼も二回目となるとさすがに疑われるかも』野嶋くん


この前の岡村くんのカツアゲ現場は、第三者が撮ったってことにしてるから問題なかったけど、再度岡村くんがいじめられている現場を撮影したとなると、彼が撮影したと思われる可能性は高そうだ。

『撮った動画は使わなくていいんじゃないかな。誰がやってるのか確認して、反撃は別に検討するとか』これは沖田さん。

なるほど。確かにその通りだな。ていうか、何でそこに気づかなかったかな。

『その手がありましたね』露崎さんも同意。

『なるほどね。この点を彼に伝えてみるよ』と野島くん


数分後に返事が届いた。

『確かに、何度も僕が写ってる動画が出てくるのは変だね。それと、連中を特定して反撃ってのはいいと思う。

仕掛けるカメラだけど、これはどうすればいいのかな。カメラってスマホのしか持ってないし。それに反撃といっても何ができるかな』


カメラは僕らが、というか野嶋くんのを貸すことになると思うけど、問題はどこに置くかだ。

『この前、廊下に置いたカメラを貸すの?』と聞いてみる。

『あのカメラは教室だと目立ちそうですね』露崎さん

『カメラは今後使うこともあるだろうと思って色々と探していて、もうちょっと小さいカメラもあるんだ』野嶋くん。

この前使ったカメラはいわゆるアクションカメラで、そこそこのサイズがある。カモフラージュのための箱にも入れたからサイズも大きい。教室に置くとさすがに目立ちそうだし、そもそも階段の窓枠のような適当な置き場所も思いつかない。

『こんな感じ』野嶋くんがカメラの写真をアップロードする。

見た感じアクションカメラ風だが、隣に置かれている100円玉の直径と同じくらいの長さの立方体だ。


『ちっさいですね』露崎さん

『これレンズだけじゃないの?』沖田さん。

『これだけで録画もできる。最長120分。

他にレンズ部だけならもっと小さいものもあるけど、それだとケーブルとか本体部が別にあって、全体としてはちょっと大きい』

『これは盗撮用ですか?』露崎さん

『小型カメラってことで売られてるけど、盗撮目的で買うやつしかいないだろうね。実際、盗撮に使うつもりで買ったし』

このサイズなら目立たずに教室のどこにでも置けそうだな。

『これならなんとかなりそうだね。どこにどうやっておくかは検討が必要だけど』と書き込む。

『取り敢えず、カメラはこちらで用意することをメールしておくよ』野島くん

『彼の座席とロッカーの位置も聞いておいたほうが良いかも』沖田さん

『OK』

『後、嫌がらせを受けるのはどの時間帯なのかも聞いておかないとね』沖田さん

『OK。後、いじめる奴で明らかなの3人の名前と座席表、クラスの連絡網があるならそれも教えてもらうよ』

『明日教室でどこに置けそうか確認してみるよ』と僕。

『これがうまくいったら、次は私のクラスでも撮影をお願いします』露崎さん

『いいね』野嶋君


露崎さんの場合、クラス全員が対象っていってたな。

それはさておき、岡村くんからすぐに返事があった。彼の座席は廊下側から2列目、前から3番目。ロッカーは一番上の段で廊下側から2番目とのこと。クラスの連絡網と座席表、3人の名前が届いた。まずはこの3人を標的にしてもいいような気もするけどな。まあ、まずは計画通り他のイジメに加担している連中を把握するため、カメラ設置に集中しよう。対象が多いほどできることは増えるし、敵を知るのはよいことだ。


さて、彼の席は前の方なのでカメラは前の方がいいのかな。席につくとみんな前向いてるけど、カメラは小さいし意外と見つからないのかもしれない。明日教室で設置できそうなところを確認してみるか。

メールによると、朝教室に来た時とか昼休みに机とか椅子への落書きとかゴミの放置といったことが週に何度か、後は通りすがりに死ねやらキモいやら言われたり、授業中になにかぶつけられたりとかいったことをされているらしい。直接行動している奴らが例の3人か。岡村くんには、今度机に落書きされたら写真撮って送ってもらうよう伝えた。反撃に使えるかもしれないので。


翌日の朝。

いつもはホームルーム直前に教室に入るのだが、今日はちょっと早め、といっても5分前だが、に席についた。

教室の前方をあらためて確認する。カメラを仕掛けるとなると、上の方だよな。黒板、スピーカー、テレビ、時計のあたりか。時計は小さいし、カメラを付けると突起ができたようで目立ちそうだ。やはりテレビのあたりか。テレビは教室の前の黒板の左、中庭側の角のところに設置されている。カメラは黒い立方体のような感じなので、テレビの横についててもそれほど不自然じゃないし、テレビはめったに使わないから注目されることも無いだろう。


テレビのあたりに仕掛けるにしても、具体的にどうするか。撮影できるよう、テレビ外枠の見える位置につける必要がある。テレビの部品か何かに見えるような感じにするなら、横か下に固定かな。固定するにはテーブで貼り付けるしか無いよな。テレビは天井から吊り下げられているので、テレビ下部に貼り付けると一番前の席の奴に見つかる可能性があるかもな。となると上か。テレビの上に突起があるのは不自然か。テレビ以外だと黒板の上かな。例えば黒板の左端の上あたりかと思ったが、黒板は先生が何か書く時に気づく可能性がある。となると教室の後ろか。後ろだと掲示板の上とか掃除道具入れの上か。掲示板の上に黒い物があると目立ちそうだし、掃除道具入れは高さ的に低くカメラを置くと目立つような気がする。やはりテレビのあたりが良さそうな気がするな。テレビを天井に吊り下げている台というかフレームは色も黒いし、突起があってもボルトか何かのようで不自然じゃないように思う。ただ高い場所にあるので、机の上に立たないと取り付けは難しそうだ。色々と考えた内容を書き込んでおこう。


皆の意見も似たようなものだが、テレビ以外の場所として、廊下側の窓、上側の窓枠という意見もある。廊下側の窓は二段になっていて、下の大きなすりガラスの窓の上、天井の近くにも小さな窓が並んでいる。窓枠のところなら確かにカメラを仕掛けられそうだ。テレビのように皆の視界に入る場所にあるものより、何か無いかぎり注目されることのないところの方が良いかもしれないな。皆で検討した結果も同じで、廊下側、上側の窓枠に設置することになった。


次にどうやって仕掛けるか。また誰が設置するか。

まず教室が無人である必要があるので、早朝、放課後、体育や音楽授業の時間帯のどれかになる。放課後、教室の鍵がかけられるのは確か7時過ぎだ。警備員が巡回しながら施錠する。朝は7時半頃に解錠される。

この前、高山のスマホを入手した時のときのように、そうそう自習時間があるものじゃないので、早朝か放課後かってことになる。上の窓枠は腕を伸ばせば届く高さだが、やるとしたら僕か野嶋くん、あるいは岡村くんに任せることになる。設置にかかる時間は30秒もあれば充分だろうが、教室にいる間に彼のクラスの奴に出くわした場合、僕や野嶋くんだと教室にいるところを見つかるのはもちろん、教室を出るところを見つかるのもやばい。となると岡村くんに任せるのが良いのかな。早朝とか放課後に彼が一人で教室に居るのは怪しいと思うが、他のクラスの僕や野嶋くんがいるよりはましだろう。

岡村くんに設置を任せる場合、廊下の状況をどうやって彼に伝えるか。僕らが使ってる掲示板を教えるのは避けたいので、彼がアクセスできる別サイトを用意するか、メールとかメッセージで都度伝えることになるのかな。こういった懸念を掲示板に書いてみる。


みんなの意見としては、自分たちで設置したほうが良いんじゃないかとのこと。教室の廊下側の上の窓に設置するわけだけど、教室の中じゃなくて廊下側に設置できるのでは、というのが沖田さんの意見だ。確かに廊下側からでもガラス越しに教室の中を撮ることはできる。下側の窓はすりガラスだが、上の窓は透明だ。ただ、窓枠の幅があるので何かの台にカメラを乗せないと教室を覗ける高さのところにレンズがこないんじゃないかな。窓枠の高さは明日確認してみるか。後、窓の下の部分、カメラを置こうとしている場所の名前を検索してみると「框」と書いて「かまち」と言うらしいが、ここにカメラを置くことになるので十分な幅があるかも確認しよう。毎日教室で目に入っているはずだけど覚えてないもんだな。


それと、教室の中よりも廊下で設置する方が誰かに見られる可能性が高いように思うがどうだろう。岡村くんのクラスの奴じゃなくても、同じ廊下に面した他のクラスの誰かが廊下に来た時点で見つかってしまう。これは露崎さんも思ったようで書き込みがあった。これに対して野嶋君から、窓枠に手を伸ばしているところや設置している現場さえ見られなければ、廊下に居る事自体は問題ないし、誰かが向かってきたことを検知してから教室を出るよりも、上げた手を下ろす方が遥かに短時間だから教室に入るよりも良いのではとのこと。なるほど。僕なら下の窓枠に登らなくても手が届くんじゃないかと書き込んで見る。これも明日確認するか。手が届くなら僕が設置するのが良さそうだな。それと窓枠の高さの問題さえクリアできれば、廊下側に決まりだ。


次の日。教室の席につく際に、ストレッチでもしているような感じで両腕を上に伸ばしてみる。手首のあたりが上の窓の框に届く。背伸びすれば余裕でカメラを設置できる。框の幅は2センチといったところか。ていうか、窓のレールしかない感じだけど、これも框っていうのかな。ガラスの下、窓枠の幅は3センチ以上はありそうな気がする。カメラは小さいので置くこと自体はできるだろうけど、窓枠の高さの分、何かの台に乗せる必要があるが目立たないか心配だ。窓枠は明るいグレーか。黒いカメラは目立つので、乗せる台は同じ色にしたほうが良いかも知れない。カメラもカバーが必要だろう。

昼休み。上の窓に手が届くので設置は問題ないことと、黒いカメラだと目立つかも知れないことを書き込む。皆も、意外と窓の位置が低いということ、窓枠の幅が広いことについて書き込んでいる。普段注意して見たりしないもんな。野嶋くんから、ダミーの台を作ってみるので、これを試しに窓枠に置いてみようとの書き込みがあった。いきなりカメラを置いて見つかるよりは、まずは同じ大きさの物をおいて様子を見るのは良いかもな。皆も同意見だ。

二日後の夜、野嶋くんから試作機ができたとの書き込みがあったので、設置役は僕が引き受けると書き込む。

昼休み、図書室で渡すので13:10に古文コーナーに来て欲しいとのこと。昼休みは12:40から13:30なので時間的には余裕だな。古文コーナーがどこにあるのか知らないが、たぶん誰もいないようなところだろうから、奥の方だと思う。


昼休み。特に急ぐ必要はないが、早めに昼食を済ませ図書室に向かう。

既に露崎さんが閲覧コーナーに座っている。今は1時5分前だからちょっと早いか。さて古文コーナーはどこかな。文学コーナー辺りだろうか。取り敢えず奥に向かう。一番奥の突き当りを左に曲がると野嶋くんが既に来ている。彼も僕に気づいたようだ。と、彼が反対側に移動して行く。場所を変えるのかな。書架の向こう側に回り込む際に上から三段目の棚を指さしながら去っていく。指で示されたところを見ると、本の上になにか置いてある。カメラのダミーだな。灰色の長方形の箱で、プラスチック製だ。端の方にレンズを表すのか黒い点がマジックで描いてある。レンズを上側にして教室の方を向けて置くわけだが、下面はふさがれてなく、ちょうどお菓子の箱の蓋が開いた状態のような感じだ。側面には切れ込みがあって、見たところ窓のレールにはめるようになっているようだ。レールの形に合わせているのだろうか。ガラス側になる面には両面テープが貼られている。設置する際にこれで貼り付けるんだな。


掲示板を開くと野嶋くんの書き込みがある。このダミーの説明と、設置する際の見張りの体制についての相談だ。まず彼のクラスは2年B組。隣のA組は廊下の突き当りに位置しており、突き当りのすぐ横には階段がある。階段を下から登って来る奴と上から降りてくる奴を見張る役が1名、廊下の反対側、E組教室側にある階段とFからJ組の教室のある棟からこっちに来る奴を見張る役が1名の最低2名の見張り役が必要か。後、廊下は中庭側にあるので、中庭を挟んだ反対側、FからJ組教室側廊下からこっちが見えるので、反対側の廊下も気にしておく必要がある。以前みたいにカメラを設置という手もあるが、4カ所は難しい。


といったようなことを書き込んだところ、沖田さんから、当日は岡村君の所在も確認した方が良いのではとの意見が書き込まれた。仮に彼が教室に向かって来た場合、見張りがいるので設置現場は見られなかったとしても、我々の誰かは彼の眼に入ることになるし、今後の活動の時に同じ人が彼に見られると怪しまれる可能性があるんじゃないかとのこと。これからのことを考えると、そのへんまで気にしておくのが良さそうだな。彼の見張りは同じ学年の露崎さんが担当することになった。彼が教室から遠く離れたことを確認してから行動を開始する。


見張りについては、今回はダミーの設置だし手を伸ばして設置するだけで数秒で終わるし、僕一人であたりを気にしながら通りすがりに設置できるんじゃないかと書き込んでみた。岡村君の所在を確認した後、露崎さんがE組側階段のところで見張っておくとの書き込みがあったので、これは提案の通りお願いすることにした。以前カメラを使った際のOKボタンを使うことにする。露崎さんが階段のところで誰もいないことを確認してOKボタンを押し、僕もA組側の階段に人通りがないことを確認したら行動に移す。


結果としては、放課後、岡村くんはすぐに家路につき、放課後になって15分も経つと教室に生徒はおらず廊下を通るやつもなく、何の問題もなくダミーを設置できた。ダミーは、教室の前から三番目の窓枠の後ろ側に設置した。教室に来る先生がクラス名が書かれたプレートを見上げる可能性があるので、窓枠の前側を避けたのだ。で、それから3日ほど放置したが誰も気づかないのかそのまま設置され続けているので、カメラ付きのものと差し替えることにした。


差し替えるあたり、カメラの操作について野嶋くんから書き込みがあった。設置するカメラは非常に小さいがWiFiに対応していて、スマホで接続して遠隔操作できる。他に音の検知で2分録画してスタンバイ状態に戻る機能もあるそうだけど、騒がしいところでは使えない。なのでWiFiで接続して録画のオンオフ操作が必要なのだが、岡村くんのクラスは2年B組で露崎さんは2年D組なので、同じ学年で同じ棟とはいえ露崎さんの教室の中からではちょっと遠くて接続できない。カメラは小型なだけあって電波出力が小さいらしい。設置前に僕がカメラを持ち野嶋くんがスマホで接続状況を試したところ、距離的には廊下に出てC組教室寄りのあたりまで行けばなんとかなるようだが、露崎さんからは、朝その場所にいるのは目立つし避けたいとのこと。


距離的には、上の階からでも接続できそうなので2階と3階で試したところ、C組教室前方の廊下で中庭側の窓際なら繋がることがわかった。距離的にはこっちのほうが同じ階のD組教室からよりは近い。席が一番後ろの僕が教室の前の方の廊下にいるのは変ではあるが、いつもより早く登校するし見られたところでスマホを見てるだけだし、誰も僕のことを気にしたりしないだろうから大丈夫だろうと判断し、カメラの操作も僕がやることにした。ホームルーム開始の15分前から撮影を開始、ホームルーム終了後、授業が始まるまでの間いったん停止。次に、昼休みなってすぐに録画を開始してそこで放置。カメラはその日の放課後に回収する。現場を取れていればこれで終了だし、録れてなければ次の日にも再度実施する予定だ。


ダミーとの差し替えは今日の放課後に行い、翌朝の撮影に備えることにした。

その場でケースにカメラを入れたりすると時間がかかるので、野嶋くんが用意したカメラ付きのケースと置き換える。前回ダミーを設置した時と同様、露崎さんが岡村くんの動向を確認した後、階段のところで見張ってもらう。念のため、ダミーを設置した日と同じ曜日に実行することにした。曜日が同じなら時間割も同じなので、生徒の行動も同じだろうという判断だ。放課後になってから15分後の教室や廊下は先週と同様誰もおらず、問題なくカメラの設置が完了した。

岡村くんはホームルームの5分前くらいに教室に到着するらしいので、その15分前に録画を開始すればいいか。彼が登校するまでの15分と昼休みの30分程度を撮影することにする。カメラのバッテリは1時間半くらいしかもたないらしいので、取り敢えず二日間撮影してみることにした。二日目の昼休みは録画を停止せずにそのままバッテリが切れるまで放置し、同日の放課後、人がいないことを確認しカメラを回収。回収したカメラは図書室で野嶋くんに渡し、彼が家に持ち帰り内容を確認する。


結果的には、最初の二日間は特にこれといったものは撮れておらず、三日目、四日目でようやく現場の撮影ができた。三日目は朝と昼休みの両方で、朝、昼共に机への落書きとゴミを机の中に入れたりしている。四日目も落書きとゴミは同じだが、これに加えて付箋を何枚か貼られている。実行犯は計六名で、内二人は二日間の朝昼全てに関わっている。女もひとりいるな。他のやつは気づいているようだが見て見ぬふりか。露崎さんはこういった連中も「敵」認定してるんだな。


『動画は編集すると3分程になったから、彼にはメールで送っておくよ』野嶋君

『こいつらに同じことしてやりたいです』露崎さん

この連中の机になにかするとなると、誰もいない時に忍び込んでやることになる。みんなで見張ればそれも可能かもな。とはいえ、油断は禁物。まあ、どう仕返しなり反撃するかは彼の意見も聞かないと。


10分後、彼から返信が届いた。

『撮影ありがとう。そんなところにカメラがあったなんて全く気づかなかったよ。

6人の内4人は想定内、残りの内1人はそいつらと仲がいい奴だからまあ分かる。けど、1人は意外というか裏切られた感じだよ。後、机の落書きは撮影して添付したから』

その意外だった1名は友達なのかな。だとしたら最悪だな。落書きの写真を見ると、死ねとかうぜえとか学校くんなとか書かれている。いじめの落書きはどこも似たようなもんだな。


さて、岡村くんは連中に同じことをやり返したいのだろうか。まずは彼にこれからどうしたいかを確認。彼によれば、反撃よりもイジメがなくなるようなことができれば、とのことなのだが、これに対し露崎さんが復讐すべきと強く主張。僕らも、動画の公開は隠し撮りがバレるし、そもそも反撃前提で考えていたので岡村くんを説得。連中に同じことをしてやることがイジメ解消につながるかも知れない、ということで納得してもらった。


『連中の机に同じことをしてやることになるかな』と書き込む。

『机の他にもありますよ。鞄、教科書、体操着、自転車とか』露崎さん。

これは彼女の実体験からだろうか。僕の場合、机と鞄にゴミの入ったコンビニ袋を入れられたこともあったな。

『全部やってやればいいんですよ。こっちは人数も多いし、同じ日に一気にまとめてとか』露崎さんが更に書き込む。

ははは。それができれば面白いだろな。全員に全部は無理にしても、同じ日に重なるとインパクトがある。

ターゲットは6人、名前と座席位置、ロッカーの場所、靴箱の位置は把握。後、音楽とか化学の授業での座席位置、通学方法、クラブに入っているかとか放課後の行動とか、とにかく様々な情報が必要だな。電話番号とメールアドレスがわかるのは、例の裏切り野郎だけか。こいつがやったように見せかけられるってのが理想なんだけどな。


『この裏切り者が他の5人に対してやったように見せられないかな』と書き込んでみる。

『それいいですね』露崎さん

『おもしろいけど、難しそうだね』野嶋くん

確かにそう簡単にはいかないだろうな。典型的なものとしては、何か物を隠して、それが奴の鞄に入ってるところが見つかるとかかな。


『裏切り者くんだけをターゲットにするのが良いんじゃないかな』これは沖田さん。

裏切りは許さないってことなのかな。

『全員ターゲットにしましょうよ』これは露崎さん。彼女らしいな。

『裏切り者くんに、岡村くんがされているのと同じことをしてやるのがいいと思う。そうすると彼はどう思うと思う?』

ん? 誰がやったのだろうって考えて...


『他の5人が自分に対してやってると思うかも』野嶋君

なるほど。この裏切り者にしてみれば、岡村くんにしていることと同じことされれば連中を疑うよな。

『そう。当然連中は否定。彼と連中の仲が険悪になったあたりで、今度は連中を攻撃する』

今度は連中の方が、裏切り者くん自分たちにやったと思うかもな。

『仲間割れしますね』露崎さん

『で、そうなると連中は裏切り者くんに対してほんとに嫌がらせを始めるかも知れない』

『で、そうなったら、その現場を撮影して先生に送る』

『これなら、岡村くんが写ってない動画で連中のイジメを公にできるんじゃないかな』

『なるほど』


『思ったようにはいかない可能性はあるけどね』沖田さん

『十分ありそうな展開な気がする。というか、可能性は結構高いように思うよ』

『やり方次第でその可能性を高められるかもね』

これはいいな。さすが沖田さん。

『急がば回れって感じですね』露崎さん


連中の様子は岡村くんに見張ってもらうことにして、彼にも計画を話すべきだろうか。

『岡村くんにも計画を伝える?』聞いてみる。

『言っといた方がいいね。たぶん協力してもらうこともあるだろうし』沖田さん

『OK。それと連中に関する情報収集だな。2年B組にはスパイウェアを仕込めてるのが一台もないんだよな』野嶋くん

『唯一電話番号とメアドのわかってる裏切り者にスパイウェア仕込めないかな』と僕。

『試してみるか。まずはフィッシングメールを送ってみるよ』野嶋くん


ということで、岡村くんの協力を得ながら連中に関する様々な情報の収集に取り組んだ。裏切り者くんの通学方法とか経路、放課後の行動の傾向とか趣味とか。様々な情報を元に、僕らがいつどこで何ができるかを検討した。スパイウェアについては今のところ仕込めていない。メールが開かれていないらしく、多分スパムフィルタにかかったんじゃないかとのこと。これは引き続き試みることにした。


まず時間割を僕らのクラスと比較。露崎さんの化学の授業が、彼らの化学の授業の一つ前になっている以外は、僕らが直前に同じ教室を使う授業は見当たらなかった。後は、昼休み直後に音楽の授業があるので、昼休み中になにかできるかもしれない。それから、教室の机になにかやるとしたら放課後しかなさそうだな。


これまでの観察から、放課後になって30分から1時間の間の30分間が最も教室が無人の可能性が高い時間帯であることは確認できている。ただ、体育会系クラブの連中は放課後教室に戻ることはないが、文化系クラブの奴らの中には教室にカバンを置いたままのやつもいるので注意が必要だ。これまで、教室に忍び込む際には廊下を見張るカメラを使ったが、これだと忍び込んでるところに、そのクラスの奴が入って来た場合どうしようもない。教室から外に出るまでの所要時間は5秒程度なので、そいつが教室に入る前に廊下に出ることは可能だが、教室を出るところを見られてしまう。これをなんとかしようということで、教室の前の廊下に入る前に発見しようということになった。


今回のターゲットは2年B組。A組からE組の教室は並んでいて、A組側の廊下の突き当りには階段があるが、この階段は校舎の突き当りに位置することもあって通るやつは少ない。反対のE組側は音楽室とか図書室のある棟に向かう廊下もあるので人通りが多い。また、FからJ組教室のある棟からこっちに向かってくる奴もいる。


なので、今回から教室に入ってなにかやる際には、階段を登ってくる奴、降りてくる奴、向かいの棟からこっちに向かってくる奴を見つけた時点で教室を出ることにした。更に、E組側で見つけたなら教室を出た後にA組の方に向かい、反対ならE組の方に向かう。もちろん、見つけた奴が単なる通りすがりのやつである可能性は高いが、見つからないためには安全策を取ることにした。放課後の人通りの少ない時間帯に実行するし所要時間は長くて数分なので、慌てて教室を出ることにはならないと考えている。


僕らがやりたいのは、岡村くんがされているのと同じことだ。でないと連中が疑われないからね。それと、より効果的にするには、あまり日をあけず連続して行うことが必要だ。少なくとも三回続くと怪しいと思うはずだ。

まず、机に対しては、落書きとゴミを入れること。岡村くんはカバンにゴミを入れられていたことがあるらしいので、これもやりたい。後は自転車のタイヤの空気を抜くこと。他には小突かれたりカツアゲもされているが、さすがにこれは僕らでは無理だな。


机の落書きについては、岡村くんに撮影してもらった落書きを真似て書くことにしているが、相手が多くて時間がかかることと、沖田さんから、協力することはやぶさかではないが、落書きはしたくないとの書き込みがあった。理由としては、落書き内容がアホとか死ねとかろくでもない言葉ばかりで、こういった言葉を書くことに抵抗があるそうだ。マイナスの感情の言葉を書くこと自体が不愉快だからとのこと。まあ、わかる。実際の行動はたぶん僕か野嶋くんなので、沖田さんには見張りをお願いするから大丈夫、と書き込んでおく。


この沖田さんの書き込みに対し、露崎さんからは、そんなの全然平気という書き込みがあった。自分のクラスで反撃するときにはぜひ自分でやりたいそうだ。らしいというか、復讐心に燃えてるよな、彼女は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る