第8話 人助け

野嶋くんによると、ターゲットにされているのは2年B組の岡村っていう男子らしい。露崎さんが1年の時に同じクラスだったそうだ。連中のやり取りからすると、ふだんから物を隠されたり授業中に消しゴムとかぶつけられたりとか典型的な虐めにあっているようで、カツアゲもされている。


で、そのカツアゲだが、どうも最近金額が少ないとかで、どうにかしてやろうってことになっているようだ。連中のやり取りからすると、今週の金曜の放課後に以前要求した金額全額を持ってくるよう彼に強要している。当日の放課後、同じB組の奴が岡村君を例の場所まで連れていくらしい。例の場所ってのは今のところどこかはわからない。


これを僕らで防ぐなり暴露するなりしてみようってことになった。現場を押さえるには、カツアゲする連中のスマホに仕込んだスパイウェアを使って録画なり録音をしたいところだが、実のところ、スパイウェアが誰のスマホに仕込めているのかを完全に把握できていないので、そいつがカツアゲの現場に来るのかどうかが定かではない。見張り役だったりすると現場を撮れない。スパイウェアを仕込んだスマホの電話番号やメールアドレス、LINERのアカウントはわかっているのだが、意外とそれが誰のものなのかわからない。


岡村君の場合は、名前そのままでやり取りされていたのだが、いじめる連中の方は愛称しかわからない。いじめる方には露崎さんのクラスの奴が1人いることは間違いないのだが、他に少なくとも2人いる。こいつらの電話番号を登録している奴らのスマホを調べ、登録名から類推したところ、その2人は恐らくB組の奴だろうというところまではわかっているので、誰なのかを突き止めたい。露崎さんもB組のことはよく知らないそうだが、1名は同じクラスの奴なので、そいつの行動を追ってB組の2人を突き止められるかもしれない。これは露崎さんに探ってもらうことになった。

次に、例の場所がどこなのかを調べる必要があるが、どうしたものか。当日に後をつけたのでは何も準備ができないので、事前に知りたい。誰も岡村くんと親しいわけではないので、立ち入ったことをいきなり聞くのは不自然だ。なので、彼にメールを送ってみることにした。


彼にしたら知らないアドレスから突然メールが届くことになるので、迷惑メールと判断されないよう、件名は工夫した。工夫と行っても大したことはなく、「岡村くんっていじめられてる?」という直接的なものだ。自分の名前が入ったこんな件名のメールが届いたら取り敢えず開くだろう。内容としては、彼がいじめられていることを知っており、金曜のカツアゲ現場を撮影して先生に伝えたいから場所を教えてほしい、という直接的なものだ。もちろん発信元は匿名にしているし、彼から届く返信は掲示板に投稿されるようにしているので、僕らの誰でもその内容を確認できる。


メールを送った翌日というか、当日の夜中12時過ぎに彼から返事が届いた。


『誰?』


まあ、どこの誰とも知らないやつからのメールだし当然の疑問だよな。いきなり質問に答えてくれるはずもない。


『私でも、同じこと聞くかもです』露崎さんの書き込みだ。

『偶然、連中が話してるのを聞いた同じ学校の生徒ってことでいいかな。名乗らないのは巻き込まれたくないからってことで』と、返信の内容を提案してみる。

『そんな感じかな』これは沖田さん。

『いいと思います』露崎さんも賛同。

『じゃあ、そんな感じで返事する』野嶋君。

それから10分後に返事が届く。朝まで返事こないかもと思いつつ、30分は待つつもりでいたが、意外と早かった。


『先生にチクったら仕返しされるかも』


そう思うのも無理はないか。これはどう返信したものか。


『通りすがりの第三者が撮影したことにすれば、仕返しされないでしょ』沖田さんだ。

確かに、生徒以外の第三者から学校に連絡があったように見せられたら、岡村くんに対して仕返しするって発想にはならないように思う。

『返事としては、岡村くんがチクるわけじゃないし、生徒以外の一般の人が通報したように見せるから大丈夫、かな?』と提案してみる。

『大丈夫と断言していいかどうかだね。連中がまともじゃない場合は、誰が通報してようが逆ギレするかも知れないし』これは野嶋くん。なるほど。それは一理あるかもな。

『大丈夫って言わないと協力してもらえないかもなので、断言でいいと思います』と露崎さん。

前向きというか強気な意見だ。

『そうだよね。大丈夫って断言していいんじゃないかな』沖田さんが同意する。

『OK、じゃあその方針で返事する』


5分後に返事が届く。

『場所は、駅の手前で左に曲がったところにある公園の自転車置き場のあたり。学校から駅の向かう途中、消防署の手前で左に曲がって行ったところ』


あの公園か。確か住宅街のあたりだったかな。学校から駅に向かうルートからは離れていて、近くに何があるというわけでもなく、うちの生徒が立ち寄ることはまず無いんじゃないかな。小さくはないが、かと言って大きくもない。確か鉄棒とかブランコがあったと思う。公園の周りを低い植え込みが囲んでいて、桜の木が何本かあるという典型的な街の中の小さな公園だ。金を渡すだけなら校内かと思ってたのでちょっと意外だ。


『その公園なら知ってる。小さいから隠し撮りは難しいかも』と書く。

『撮影の仕方は考えないとですね』これは露崎さん。

『取り敢えず、今日の放課後下見してくるよ』とコメントする。下見は僕がやろう。

『念のため、岡村くんに見つからないようにしないとね』これは野嶋君だ。

『放課後、彼の動きを見張ります』と露崎さん。

『僕も、公園の辺りで彼が来ないか見張ることにするよ』野嶋くん

『じゃあ、私も彼の動きを追うことにするかな』沖田さん

『彼に礼を言って、当日は辺りを見回さないよう言っておくよ』野島くん


翌日というか既に日が変わっていたので当日、昼休みの時点で露崎さんから彼が学校に来ていることを確認したとの投稿がある。

さて、放課後、授業が終わると速攻で自転車で公園に向かう。滅多に通らないルートなので、うちの学校の生徒が放課後にたむろしているところなのかどうか知らないが、他の生徒が来ない内にってことで自転車を飛ばして向かうことにした。

駅に向かうルートから途中で左に曲がって住宅地に入りしばらく走ると公園が見えてきた。自転車置き場はすぐそこだ。学校から公園に最短距離で向かうと、最初に自転車置き場のところに来るんだな。だから例の場所ってのが自転車置き場のあたりってことになってるのか。

自転車置き場にはまっすぐ向かわず左に曲がり、学校からここに来る奴がいた場合に見えないよう場所に移動。自転車を停め様子を見る。公園には誰もいないようだ。公園の入り口は二箇所あり、一つは自転車置き場のところでもう一つは公園の対角線上の反対側だ。学校から来るなら自転車置き場側なので、自転車は反対側の入り口付近に止めることにした。掲示板で彼の動向を見てみる。尾行はできているのかな。


5分前に露崎さんが書き込んでいる。

『廊下で彼を見つけました。今から尾行します!!』

授業が終わってから5分くらい過ぎてから教室を出たことになるのかな。

僕も書き込んでおこう。

『今公園についた。誰もいない』

『私は正門の近くについたところ。彼は徒歩? 自転車?』沖田さん

『自転車置き場に向かってるようです』

『それじゃあ追いつけないな』沖田さん。彼女はバス通学なのかな。

『私もバスなので無理です』露崎さん


となると自転車通学の野嶋くんが頼りだな。

『ごめん。今日、掃除当番だったよ』野嶋君


えー。これはさすがに準備不足というか何も考えてなかったな。まあ、昨日の今日だし昨夜は遅かったし無理もないか。

『見つからないよう気をつけるよ』と僕。

彼が今日公園に来る理由は特にないはずだし、自転車置き場からは離れた場所にいるし問題ないだろう。


学校からここまでの所要時間は、自転車で3分程。校門を出たところから測ったから間違いない。ちょっと飛ばしたし信号のタイミングも良かったので、普通に自転車を走らせたら数分は余計にかかるところか。彼はそろそろ学校を出るところのようなので、余裕をみて今から2分以内に撤収することにしよう。まあ、彼が今日ここに来るとは思わないけど、慎重に行動して悪いことはない。


取り敢えず、公園の様子を撮影しつつ隠れられるところがあるか確認する。何処かに潜んで撮影するとなると、望遠レンズが必要かな。スマホだと誰が写っているのか判別できないだろうし。それと、映像だけじゃなくて連中が喋る内容を録る必要があるから、望遠のマイクというか集音マイクみたいなのも必要か。トイレの反対側の植木の辺りからなら見つからないとは思うけど、しゃがみこんで撮影しているとさすがに怪しいよな。となると、どこかにカメラを仕掛けることになるけど、どこに置くかが問題だ。自転車置き場の辺りとは聞いているけど、具体的な場所がわからない。取り敢えず、潜めそうなところを撮影しておくか。

さて、2分経ったので撤収する。自転車に乗り家路につく。一応、学校からこの公園に向かうルートは避け、ちょっと遠回りしてから帰ることにしよう。家についてから、公園の様子と撮影した写真を掲示板に投稿する。来週なら週末に色々準備できるんだが、明後日だもんな。


『B組の二人、たぶん特定できました』露崎さん

1日で特定か。なかなかやるな。

『凄いね。どうやったの?』

『昼休み始まってすぐ廊下に出て、B組から出てくる生徒を見てたんです』

なるほど。

『そしたら私のクラスの近藤くん、例の1名です、と合流して学食に向かうB組の2人を見つけたんです』

確かにそいつらっぽいな。

『学食まで後つけて、名前がわからないか話を聞いてたんですけどわからなくて、それで次の休み時間に人を探してるような感じでB組の教室に行ってみたんです』

積極的だな。

『そしたら1人の席がわかって、もう一人も名前を呼ばれているところを見かけたんです』

『ついてたね』と僕。

『はい。座席表を元に特定できました』


名前を呼ばれた方は愛称で呼ばれたこともあり、そいつのスマホの特定ができた。スパイウェアを仕込めたやつのアドレス帳に載っていた。座席表でわかったやつの方は名字がわかっただけなので、そいつのメアドとかがどれなのかはまだわからないが、まあ日もないし今回は諦めることにした。

それより、どうやって撮影するかだ。僕が撮影した公園の画像をアップロードしみんなで検討することにした。公園の周りには植え込みがあってそこそこ茂ってはいるが、完全に隠れられるわけではない。それに住宅街なので、制服着たやつがカメラ持って立っていると怪しいというのがみんなの意見だ。


自転車置き場は公園の角にあって、学校から最短ルートで公園に向かうと真っ先に見えてくる。

ビデオを見直してみる。自転車置き場のすぐ横は公園の入り口だ。公園は通りよりも盛り土というのか、ちょっと高くなっていて、三段の階段を登って入る。この三段分の高さの石垣が公園の周り積まれていて、背の低い木の植え込みがある。枝の密度が高い小さな木なので、ここにカメラを仕掛けられるんじゃないだろうか。他には、自転車置きにカメラを付けた自転車を置いておくという手もある。


検討した結果、登校時に野嶋くんが自転車で公園まで来て、この自転車置き場に駐輪。場所は、公園入口から最も離れた端っこだ。自転車置き場全体が見える位置はここしかない。この自転車置き場には柵があるので、チェーンロックで前輪部を固定しハンドルの向きが変わらないようにする。自転車のかごにカメラを入れてこれも固定。カモフラージュとして空き缶とレジ袋を入れておく。放置された自転車にゴミが放り込まれたような感じに見せるのだ。カメラのレンズは広角とのことで、多少ハンドルの向きが変わっても映るらしい。後、自分の自転車だと通学許可証のシールが張ってあるので、念のため親の自転車で来るそうだ。自分の自転車は空気を抜いておき、登校時にパンクしてるらしいから自転車借りるってことにするとのこと。


もちろん、バッテリ容量の関係で朝から放課後までビデオを回しっぱなしにはできない。動画の連続撮影だとバッテリはよくて3時間程度しかもたないらしい。スマホでの遠隔操作で録画を開始できるそうなので、この方法で撮影を行うことにした。カメラにインターネットに直接接続できる機能はないので、ある程度近くからスマホでカメラに接続して操作する。カメラはスタンバイ状態にしておけるが、朝から放課後までバッテリが持つかは怪しい。幸いこのカメラにはタイマーで電源をオンにする機能がある。放課後になってから5分ほど経ったところでWiFi接続可能な状態になるようにして、誰かがスマホでカメラに接続して遠隔で録画を開始する。カメラから数十メートル離れたところからでも接続できるらしい。公園はそれほど大きくないので、自転車置き場の反対側からでもいけるんじゃないかとのこと。それなら、放課後速攻で公園に向かえば大丈夫か。先に連中が行ってたとしても、学校から来るルートとは違う方向から公園に近づけば大丈夫だろう。その役目は僕が担当することにした。


当日の放課後、みんなの動きはこうだ。

僕らのうち自転車通学は僕と野嶋くんだが、野嶋くんは当日自転車を公園においてから徒歩なので、自転車を使えるのは僕一人だ。僕は授業が終わったら速攻で公園に向かい、他のみんなは岡村くんが学校を出るタイミングを確認し掲示板に書き込むことになっている。

僕は公園についたらスマホに入れてあるカメラ操作アプリを起動し、カメラに接続する。仮にタイマーによる電源オンが機能していない場合は、カメラの電源を入れないといけない。誰も来ていなければ手動で電源を入れるが、連中が授業をさぼって待ち構えていた場合はどうしようもない。野嶋くんによると、自宅でカメラをスタンバイモードにして8時間放置した状態で試したところ繋がったそうなので大丈夫だとは思うが。


当日。すぐに外に出れるよう、最も校門に近い位置に自転車を駐める。野嶋くんの投稿を見ると、カメラを仕掛けた自転車を公園に駐めたとのこと。自転車の写真も投稿されてる。計画通り自転車置き場の端っこに駐輪されている。平日なので他に自転車はない。

それにしても、連中、同じ学校だし一部は同じクラスなのにわざわざ公園で金を受け取るとかめんどくさいことやるよな。校内でも人通りの少ないところとかあるだろうに。実際、野嶋くんとか自転車置き場のところで絡まれてたし。


今回うまく撮影できたら、その動画ファイルをメモリカードに保存し匿名で学校の郵便ポストに入れることにしている。問題は、現場の様子がカツアゲに見えるかどうかということだ。何の会話もなく単に金を渡すだけだったりすると、カツアゲの証拠としては信憑性がない。これは心配しても始まらないが。

今日最後の授業が終わり、すぐに教室を出て急いで自転車置き場に向かう。校門から外に出て、公園に向かって自転車を飛ばす。途中、信号にかかったところで掲示板を確認する。早速露崎さんの書き込みがある。

『今彼が教室を出ました』


投稿は2分前か。彼よりも先に到着できることは間違いない。

学校から最短コースでは向かわず、学校から見て反対側から公園に向かうため、一つ手前で左に曲がる。すぐに右折して住宅地を通り抜け、自転車置き場の反対側の角に出る辺りで右に曲がる。公園が見えてくる角のところで停止し、様子をうかがう。誰か居る。自転車置き場の横、公園入り口近辺に2人いる。一人は金髪に染めていて、制服も着ていないからうちの学校の生徒じゃないな。というか高校生でも無いような感じだ。遠くてよくはわからないが。もう一人は制服着てるようだけど、誰かはわからない。バイクが二台、公園の入口のところに置いてある。こいつらのバイクだろう。


取り敢えず身を隠しスマホでアプリを起動、カメラに接続できるか試してみる。無線LANで繋がるカメラなのだが、住宅地なだけあってアクセスポイントが複数表示される。この中からカメラを探す。教えてもらった名前が表示される。アンテナは一本だが見つかった。カメラを選択。10秒ほどしてパスワード入力欄が表示される。教えてもらった数字4桁のパスワードを入力。更に数秒経過。繋がったようだ。よし。カメラ用アプリに切り替えると映像が表示される。謎の二人が写っている。これで一安心だ。


連中は写ってはいるが広角レンズなのでかなり小さいな。取り敢えず録画を開始する。以降はスマホの画面で様子を見ることにして、連中がいるところからこっちを見ても見つからないよう身を隠す。誰かに見られてもスマホを見てるようにしか見えないだろう。まあ、実際スマホを見てるのだが。


しばらくすると誰か自転車でやって来た。制服着てるし、どうやら岡村くんのクラスの二人だな。こいつらが先に来たか。先に来ていた奴らの一人と話してるようだ。やはり関係者か。なるほど。外部の金髪野郎がいるので校内では難しいってことか。お、更に一人来た。これは岡村くんかな。そうみたいだ。これで全員が揃ったのか。例の金髪は自転車置き場の手すりにもたれてスマホをいじっているようにみえる。


さて、あっさりとお金を渡されるとカツアゲに見えないのだが、どうやって金を渡すのだろうか。岡村くんが何か話してるようだ。同じクラスのやつが岡村くんに近づいて何か言ってる。もう一人も近づいて足で軽く蹴っている。おっと、更に近づいて胸ぐらを掴んだ。いいね。これでカツアゲっぽく見える。岡村くんがポケットから何か、というかお金だろうが、を取り出した。仕草からすると折りたたんでない札をそのままポケットから出しているような感じだ。両手で複数枚の札を扇のように広げて見せている。ますますいいね。もしかして、彼は撮影していることを知ってるので、わざと目立つようにしているのかも。それはそれでいいことだが、こんなに協力してもらえるなら予めお願いしておいてもよかったな。

金を受け取ったクラスのやつが、先に来ていた二人の内、金髪じゃない方に全額を渡しているように見える。金を受け取ったことを確認したからか、金髪のやつがもたれていた手すりから体を離し、そいつと一緒にバイクに乗ると駅の方向に向かって走り出した。見送った二人が岡村くんに何か話してる。岡村くんはポケットから札を取り出しこいつら二人にも金を渡しているようだ。金を受け取った二人も、自転車に乗ると駅の方向に去っていった。

一人残された岡村くんは辺りを見回す。多分カメラを探しているのだろう。特に自転車に注目している様子はない。ぐるりと一周見回すと、自転車に乗り学校の方向に去っていく。自宅はそっち方向なんだろうか。

取り敢えず、うまくいったんじゃないかな。

まずは、うまくいったらしいことと、連中は公園から去ったこと、連中が向かった方向を掲示板に投稿。


『お疲れ様でした』露崎さん

『ちゃんと撮れてるといいね』沖田さん

『今公園に向かってるところ』これは野嶋君

さて、この後の行動は特に打ち合わせてなかったんだけど、公園に残っているのはあまり良くないかもな。岡村くんがどこに行ったか定かじゃないし。念のため、この後の彼の行動も追うべきだったかも知れない。まあ今さらなので、家に帰ることにするか。


『僕は家に帰るよ。録画中だけどそのままでいい?』と書き込む。

『カメラは僕が回収するから大丈夫』野嶋くん。

『念のため、岡村くんが辺りにいないか確認して』彼が僕らのことを探ってるかも知れないからね。

『了解』

じゃあ帰るか。家は駅の方向だが、僕も岡村くんがいないか気をつけつつ裏道を通ってから表通りに出ることにしよう。


自宅に帰り掲示板を開く。2分前に野嶋くんの投稿がある。

『カメラと自転車回収完了。帰って確認したらアップするよ』

1時間以内にはアップされるかな。

『匿名で学校の郵便ポストに入れることにしてるけど、直接入れる? それとも郵送?』確認してみる。

『郵送。直接入れると生徒が入れたと思われる』野島くん。

確かにそうだな。


『いつもの場所って言ってたので、頻繁にたむろしているんじゃないかな。で、よくたむろしている高校生が怪しいってことで、近所の人がカメラ仕掛けたというストーリーでいいんじゃないかな』これは沖田さん。

『それいいですね。学校が何もしないなら動画投稿サイトにアップロードするって書いてもいいかもです』と露崎さん。

確かに何も対処されない可能性もあるしな。

『第三者からすると、学校が対処したかどうかってわからないんじゃないかな』これは野嶋くん。

『確かに。連中を停学にしたとしても、公にはされないから知りようがないね』と僕。

『溜り場ってことなんで、今後も同じような現場を見かけたら公開するって書くのはどう?』沖田さんがコメントする。

『それいいね。早く対処しないとやばそうな感じがする』野嶋くんが返す。

『それでいこう』と書き込む。

『投函するポストは、念のため通りに防犯カメラのないところにするよ』


野島くんが動画をアップした。

『うまく撮れてたよ。会話もボリュームをあげれば聞こえる』

それは良かった。

『二人が去ったあたりから後を削除しただけで、他は編集してないよ』

早速再生する。当たり前だがスマホで見ていたとおりに撮れている。

『生徒じゃない人がいますね』露崎さんだ。

『見たところ、この二人に指示されてるような感じだな』これは野島くん。

うちの生徒の二人が来た。元からいた二人に挨拶してる。

次に岡村くんが来た。やっぱり遅いって文句言われてたんだな。

この後、足を蹴られたり胸倉掴まれたりするんだけど、その時の会話は録れてるかな。

なるほど。親にバレそうだからこれを最後にしてくれって頼んでるんだな。もう30万を超えたって。ひでーな。高校生には結構な金額だよ。


岡村くんの声は良く録れてるけど絡んでる連中の声は聞こえにくい。やはりカメラを意識して声を大きく出してるな。取り出したお金は見たところ5万円か。受け取った5万をまるごと先に来ていたやつに渡し、その後その二人が去った後にも金を取ってるんだが、連中が言ってる内容はよく聞こえない。まあ、他に人はいないとはいえ、小声で話すのは無理もないよな。お金は2万円か。二人に1万ずつ渡している。ここでもう最後にしてくれって頼んでる。


『ひどいね』沖田さんが早速反応している。

『岡村くんも撮影に協力してくれてるようだね。声がはっきりと聞こえる』と僕。

『状況の説明もしてくれてるね。もう30万とか』野嶋くんだ。

確かに。

『明日すぐに送りましょう』これは露崎さん。

『明日投函すれば月曜には届いてるかな』と書き込む。

『明日昼飯食ったらすぐに投函しに行くよ。岡村くんにも連絡しておく』

学校はどうでるかな。さすがに、外部の人から届いたとなると無視はできないと思うんだ。


土曜日。昼過ぎに野嶋くんの投稿がある。

『投函した。岡村くんにもメールした』

やった。ちょっとドキドキしてきた。これは月曜が待ち遠しいな。それにしても、月曜が楽しみに思えるなんて、小学校の低学年の時以来じゃないかな。

岡村くんからは、ちゃんと撮れてたかどうか、カメラはどこに置いてあったのかを尋ねるメールが届いた。隠すこともないので正直に回答。声の大きさや状況説明のセリフの件について質問したら、やはり録画されていることを意識したものだったとのこと。


さて、月曜日。

月曜すぐに動きは無いんじゃないかというのがみんなの意見だったんだけど、昼休みに岡村くんから、放課後職員室に来るよう担任の先生に呼び出されたとのメールが届いた。例の二人も呼ばれたのかどうなのかはわからないが、もしかして三人まとめて呼び出したりしているのだろうか。これは彼からの続報を待つしか無い。

昼休みが終わり図書室から教室に戻ると、机が倒されている。机を起こすと、マジックで「死ね」と書いてある。やれやれ。僕もイジメられる側だったことを思い出させてくれたよ。こういったのも現場を撮影したいところだ。


放課後、岡村くんのことは気になるが、学校に残ってても仕方ないので帰宅する。帰宅してからもスマホが手放せない。

メールが届いた。岡村くんによると、どうやら事実確認のために彼だけが呼ばれたらしい。匿名でうちの学校の生徒がカツアゲされているとの連絡があり、現場の動画もあったとのこと。本当にカツアゲされているのかどうか、なぜ先生に言わなかったのか、撮影されていることは知っていたのか、他にも公園で金を渡している生徒はいるか知ってるかとか、そういったことらしい。関係者の親を呼んで話するから公にしないように言われたそうだ。学校として無視はしないようだな。金が絡んでるからかな。でも内々で解決しようってことなんだろうな。まあ、大々的にアナウンスするってのも考えられないけど。それでも、連中が停学になれば噂は広がるだろう。


岡村くんから木曜の昼休みにメールが届いた。例の二人が昨日から休んでいて、担任は何も言わないが、恐らく停学になったんじゃないかとのこと。月曜に岡村くんに事実関係を確認し、翌日の火曜に連中が呼ばれ、水曜から停学って流れか。で、土曜に関係者の両親が学校に呼ばれたそうだ。両親にはなぜ早く言わなかったのかと怒られたそうだが、とにかく今回の件については感謝しているとあった。人助けできたようで気分がいい。


それにしても、停学ってのは公にはされないんだな。そいつらの交友関係は知らないけど、さすがに何日も休んでたらそいつの友達あたりから広まっていくだろうと思っていたら噂は予想通り流れ、連中が停学になった翌日、木曜の放課後には露崎さんのクラスでも停学になったやつがいるらしいと話題になっていたとのこと。僕のクラスで話題になっているのかは知らない。休み時間は教室にいないし噂話をするような親しいクラスメートはいないからね。沖田さんによると、金曜の午後に話題にされているのを聞いたそうだ。数日で結構知れ渡るもんなんだな。まあ、これまで停学になった奴の話とか聞いたこと無いし、うちの学校としては珍しいということもあるんだろう。

僕らの活動では今回のが一番効果的だったな。スマホ没収もうまくやったと思うけど、与えたダメージは停学が圧倒的だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る