第4話 転換点
なんと。そんなことがあったのか。
「あ、それでか。何でそんなことに?」
「やっぱりそうなんだ。噂だと、高山さんが好きなアイドルがイギリスでも人気があるとかいう話があって、それを沖田さんに全否定されたことがきっかけらしいんだけど」
ヒソヒソ声で早口でまくし立てる。
「はあ? なにそれ」
何だよそれ。実にくだらない。
「知らなかった? 彼女ファンクラブにも入ってるくらいのファンらしいから、全否定されてムカついたんじゃないかな」
実に馬鹿らしいが十分ありうるな。それにしても、それで他の生徒も言いなりになってるとかどういうことだよ。ていうか、同じクラスなのにそういったことを僕が全く知らないってのもな。
「ふーん」としか反応のしようがない。
「それじゃあ。また」
誰か知り合いを見つけたらしい。
校門に向かう知り合いの方に小走りで駆け寄っていく彼女。
それにしてもこれは予想外。もしかしたら彼女も誘えるかもしれない。彼女、図書館にはたまに来る程度だから、露崎さんのような手は使えないか。とはいえ、他に話しかけられそうなところがない。また彼女の行動を把握して作戦を練ってみるか。そうだ、その前に野嶋君にも伝えておこう。スマホで掲示板を開きメッセージでさっき聞いた内容と、彼女を誘いたい旨を送信する。
さてと、話しかけるきっかけを探すことから取り掛かるか。取り敢えず彼女がいないか周りを見回してみるが、下校中の生徒の中にはいないようだ。さすがにそんなに都合よく現れたりはしないよな。明日の下校時に確認しよう。
翌日。下校時に彼女をつけてみる。帰宅するのかと思ったら、文芸系の部室がある方向に向かっている。何かクラブに入ったのか。距離をあけてつけてみると、英会話部の部屋だ。早速谷川さんが誘ったのか。まあ、彼女英語ペラペラだし、うちのクラスに英会話部のやつがいないってことだから、彼女にはちょうどいいよな。となると、イジメとか仲間はずれとは無縁になるか。クラスでは相変わらずかもしれないけど。部で友だちができるなら、誘うのも無駄かな。こんなことなら、もうちょっと確認してから野嶋君に伝えればよかったよ。取り敢えず、この状況をメッセージで送っとくか。
週末金曜の昼休み。いつものように図書室で過ごし、そろそろ教室に戻ろうかと思った時に野嶋君からメッセージが届く。
『沖田さん、誘って入ってもらったよ』
え? 一体どうやって? 野嶋君と彼女ってどこかに接点があるの? いや、どう考えてもなさそうなんだけど。考えても無駄なので聞いてみる。
『どうやって誘ったの?』
『彼女、英会話部に入ったのは知ってる? で、僕のクラスに英会話部のやつがいて、部で使ってるパソコンで英会話ソフトの音が出なくなったんで見て欲しいって言われて部室に行ったんだけど、そこで会った』
野嶋くんはパソコン詳しいから、そういうこともあるんだな。それはそうと、会ったのはわかったけど部室で誘う訳にはいかないと思うんだ。
『そうなんだ。で、どうやって誘ったの?』
『放課後だったんだけど、帰るタイミングが一緒だったんで、その時に話した』
『彼女が仲間はずれにされていることを野嶋くんが知ってる理由はどう説明したの?』
『中山君に聞いたって言ったよ。実際その通りだし』
『そうなんだ』
彼女とは一言も話したことないんだけど。
『彼女、中山君のこと知らなかったよ』
まあそうだろうな。とはいえ、知らないというのを聞くのはちょっとがっかりという感じもする。
『席も離れてるし。話したことないから』
ちょっと間があく。
『メッセでも送ってみたら?』
直接話すことは今後もなさそうだけど、掲示板上なら話せるか。
『そうだね。送ってみるよ』
おっと、昼休みはもう終わりだ。慌てて本を書架に戻し図書室を出る。廊下を小走りで人混みをすり抜け教室に向かう。ちょうど先生も教室に向かうところだ。僕の席は手前のドアから入ってすぐの廊下側一番後ろなので、先生が前の扉から教室に入る頃には席につけそうだ。
教室に入ると沖田さんの方を見てみる。既に席についている。まあ当たり前だが僕の方を振り向いたりはしない。
彼女にどんなメッセージを送ろうか考えて、授業はほとんど耳に入らなかった。
結局、次の休み時間にメッセを送ろうと思ったけど時間が足りなくて書ききれず、放課後に送ることになった。内容としては、僕のことを知らないようだから簡単な自己紹介と、この掲示板でどんな活動しているかの紹介とこれまでやったこと。結構時間がかかり、結局送ったのは家に帰ってからになった。
夕食の後、部屋に戻りスマホを見ると返事が届いていた。
『同じクラスでいまさらだけど、初めまして。
この掲示板で何やっているかは大体わかった。
早速だけど提案があります。中山くんへの提案じゃなく、この掲示板での活動についてなので全員向け。メッセージでもいいけど、一度みんなで集まれないかな。学校以外で』
何か予想外の返事だな。まあ、彼女は僕ら3人のようないじめられっ子キャラじゃないし活動的なのかな。もしかしたら仲間はずれにされたことなんて、生まれて初めてなのかもしれない。それにしても提案ってなんだろう。基本、僕らは直接会ってどうこうしないってことにしてるんだけど。でもせっかくの提案だし無下に断るのもな。
『他のメンバーに聞いてみる。集まる場所はファミレスとかかな?』
『それでもいいけど、同じ学校の生徒に見られないほうがいいかな。掲示板でもいいよ』
なるほど。妙な組み合わせだから見られると話題にされるかもな。となると、掲示板が良さそうだ。
『掲示板があるからそこに書いてみるよ』
『よろしく』
掲示板にスレを追加して、メッセージでも通知しておくか。
午後10時過ぎ。この時間帯はみんな自分の部屋に居るからかすぐに掲示板にコメントが付いた。
『初めまして。2年D組の露崎です。沖田さんってロンドンの学校から転校してきたんですよね?』
『こちらこそ初めまして。住んでたのはロンドン近郊。学校はロンドンだけどね』
『いつかロンドンの話聞かせてください』
『いいよー』
『こんにちは。この前はどうも。野嶋です』
『では。みんな揃ったみたいだし早速』
どんな提案なんだろう。何かもっと効率的に情報交換できるような方法とかかな。
『聞いた限りだと、ここの活動ってイジメから逃げるための情報交換してるだけだよね』
まあそんなところだな。
『たしかに』と僕。
『私の提案は、この仕組で「反撃」できるんじゃないかなってこと』
なんと。
『具体的に何をするってのはないんだけどね』
『興味深いね』と野嶋君。
『ちょっと興味あります』露崎さん。
おっと。これは意外な反応だな。僕も一言コメントするか。
『周りから見ると僕らって何のつながりもないから、何かできそうな気はするね』
彼女の説明によると、僕らがやっていた情報交換を発展させ、利害関係のない人物が「反撃」しようというのだ。「反撃」といってもいろいろな方法が考えられるが、最終的にはイジメをなくすことを目的にすべき、というのが彼女の方針だ。イジメの暴露とかを目指すといったところか。これに対しては、露崎さんから反撃メインで、チャンスがあれば暴露でいいんじゃないかとの意見。とにかく、彼女の意見に賛同した僕らは、僕らに何ができるのか色々と検討をはじめた。
あ、そうそう。あの後野嶋くんからみんな宛にメッセージが届いた。この掲示板は万が一を考えて匿名にしているので、名前とか個人を特定できそうな情報は全て削除したとのこと。確かに、スマホ取られて覗かれるとやばい。特にこれから取りかかることは。
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