第28話

祖母は、クマちゃんの件を親戚に電話して話した。自分の他の娘達に。その娘達は、自分の配偶者にもそれを話した。       そしてもう少し後からは、祖母は私の従兄弟の何人かにも話した。          それで、皆は凄く驚いた。祖母は、普通にお茶をかけたと話したからだ。だから皆は普通に、熱いお茶を想像する。        母には姉と妹が二人いた。すぐ下の妹は夫の仕事の関係で海外に住んでいて、子供はいなかった。だからこの妹には祖母は言わず、私がもう既に成人した、もっとずっと後に、彼女が夫と日本に帰国してから話した。   実はこの妹が、クマちゃんをペットショップ、当時は犬屋なんて呼んでいたが、で買って来たのだ。犬屋に入り、仔犬達を見ていて、余りに可愛いからとクマちゃんを買って帰り、祖母に押し付けたのだ。      だからこの私の叔母は、以降私を目の敵にして毛嫌いし、事あるごとに私に嫌がらせや意地悪をしまくる事になる…。       他の、従兄弟二人もそうだ。嫌がらせを色々とする様になる…。           だが、中には味方をしてくれた親戚もいる。もう一人の叔母はこう言った。      「そんなの、本気でやる訳無いでしょう?!そんな熱いお茶なんか、いくら子供だからって、分からない筈ないんだから。そこまで小さな子じゃないんだから。ぬるかったに決まってるじゃない?そんな熱いのを普段飲んでないでしょう?だからきっと、ふざけたかなんかで、間違ってかかっちゃったんでしょう?大体、なんでそんな風にほっぽっといたのよ?!ちゃんとに見ていなかったのよ?!だから、そんな事になるんじゃないの?!」伯母は家に来た時に、伯父の反応を話した。                 「お父さんがこう言っていたよ。だから前からいつも、犬を結いておけって言ってたんだって!なのに可愛そうだから嫌だなんで言って、絶対にあの犬を結いておかないから。だからそんな事になったんだって。大体、あんな汚いボロボロの犬が家中をほっ付き歩いていて、大人だって嫌だって言ってたよ。それを、そんな犬と一日中一緒に置いておいて。そんなの、大人だってあんな犬が寄って来たら嫌だから、そんな事位したくなるって!だけど大人だから、我慢してしないだけで。幾ら小さな頃は何でもなくても、あれ位の年になればもう色々と分かって来るんだから。なら、もうあんな汚い臭い犬なんて、近寄ってなんかほしくないんだってね!あんな飼い方をしていて、まだ結いてるんならそれでもまだ仕方ないけど、子供なんかとベッタリ置いておくんだから。本当なら今頃、もっと犬らしくなって、四足で歩いたり吠えたりしてても、ちっともおかしくない位なんだからってさ!!だからそんな事、もっと早く起きていても全然おかしくないし、今迄起きなかったのが不思議な位だって、言っていたからね!!」                まだ味方になってくれる人間がいたから救いだった。母も、普段自分が家にいないからだと思い、又祖母にもそう言われた。    「いい?親が普段家にいない子はうんと悪くなるんだよ。だからあんたもうんと厳しくしないと駄目だよ。あのエミちゃんだって、そうなんだからね!!あんな恐い子はいないよ。だからあの子だって、今にあんな風になるよ。あんな恐い、嫌な子が近くにいるんだからね!!分かるね?」         元々祖母は母によくそうした事を言っていた。                  父親がいないだとか、母親が普段働きに行っているだとか、混血の子供は、皆そうだと。そうした傾向が強いと。         そして、母に私を厳しく叱る様に忠告していた。                  だから母は怒ると、毎日の仕事でのストレスもあったのだろうが、打っていたのもあったのだろう。               あの事件の後、私はこんな状態だった。  そして木下にも変化が訪れた。      木下がうちでの家庭教師を辞めた事が、紹介してくれた大学生の女の子に分かったのだ。その女の子が木下に聞いたのだ。    ○○さんちのお孫さんを教えていて、調子はどうだ?、と。只何気なく聞いたらしい。 木下は、辞めたと伝えた。彼女は何故かと聞いた。木下は答えなかった。       彼女は、自分が間に入ったので気になった。それで、祖母が仕事に行った時に聞いた。「○○さん、木下さんが家庭教師を辞めちゃったんですって?あの、どうしてなんですか?」                 祖母が答えた。             「あぁ、孫が嫌がるのよ。だから、母親が辞めさせたの。」              その女の子は驚いた。          「エッ?何かあったんですか?!」    祖母が答えたそうだ。          「あの人、分からないとか間違えると叩くのよ。頭を打つのよ。だから、孫が凄く嫌がってね。」               「エ〜ッ?!?!」           その子は凄く驚いたそうだ。       「だって、お孫さんって女の子でしょう?!まだ中学生ですよね?!」        「そうよ。」              「それを、そんな事をするんですかー?!」「そう。だから孫が凄く嫌がってね。恐いから、嫌だって。」            「そんなの当たり前ですよ!!何をやってるのよ、木下さん?!そんな酷い事をして…。○○さん、本当にごめんなさい!!お孫さんにそんな酷い、恐い思いをさせて。」   「良いのよ。もう辞めたんだし。」    「だって!私が紹介したんだから。私があんな人を紹介したからそんな事になったんだから。私のせいです。」           その女の子は物凄く罪悪感を感じて、祖母に何度も謝ったそうだ。そして、それをバイト仲間に話した。

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