第23話

エミは母と二人暮らしで、小さな借家に住んでいた。小さな時には、彼女の母親は、近所のおばあさんにお金を払って、面倒を見させていた。小学校低学年位迄だ。      そして、彼女の母親は大変にきつい人だった。だが頭は切れたらしい。彼女は自分の娘に絶対に玩具を買い与えなかった。人形やぬいぐるみを買わない。          「エミ、あんな物いらないんだよ。あんな物を持っていたって馬鹿になるだけだから。」、「あんな物を持ってたって直ぐに飽きるんだから。あんな物あっても何にもならないんだから!」             小さな頃からそんな事を言っていたらしい。そして少し大きくなると、「あんな物はもっと小さな子が欲しがるんだから!あんたはもう○歳なんだから。」だとかを言った。  よく本人が、母親に言われていると、勝ち誇った様に言っていたから。        だからリカちゃん人形も持っていなかっし、ぬいぐるみの一つも無かった。      要は、買えなかったのだ。女手一つで働いていて、借家だったから。だから、娘にはそう言い聞かせた。これは、他でも、どんな事でもそうだった。そうした教えをすれば、娘はいじけなくて済むから。         例えば、一度だけ私の母と彼女達親子とで食事をした事がある。近所の小さな食堂で、ソース焼きそば、ラーメン、ナポリタンやカレーライス、又かき氷やアイスクリームやクリームソーダ、オレンジジュース等がある店だった。                 そこに土曜日か日曜日のお昼に、四人で入ったのだ。(私はたまに母とそこでソース焼きそばとアイスクリームを食べたりしていた。)                 そこへ入った時に、母も悪いのだが、こう言ったのだ。               「今日は、せっかくご一緒できたんだから、私にご馳走させて下さい。」        するとエミが嬉しそうな顔をした。    「エミちゃん、今日はオバサンが奢るから、何でも好きな物を食べてね?」      エミが嬉しそうに笑って、直ぐに母親の方を見た。                 「ママ、良かったね!」、と言う風に。   すると母親が物凄く険しい顔になった。そしてこう言ったのだ。           「結構です!!こんな物位、自分で払えますから。」                 母が驚いて顔を見た。          「あの、でも。今日は私が奢りたいですから。」                 「いいえ、結構です。こんな所で、こんな物位私にも払えますから。別に奢って頂く理由はありませんから!」          結果私達は各自がソース焼きそばを注文した。そして黙々と下を向いて食べる。途中母が気まずいのに困って、何か話した。確か、何か絵の話だ。大して詳しくないが、何か洋画に付いてだ。            「今、(どこどこの)美術館で○○が展示されているそうですね?あの絵、とても綺麗ですよねー?」              返事が無い。              「私も、○○って好きですね。何だか色が鮮やかですものねー。お好きですか?」   そんな様な会話だった。するとこう切り返した。                  「いいえ、私は絵の事なんて分かりませんし、そんな物興味ありませんから!」   「…あっ、そうなんですか?」      母が困った風に言った。         「はい!」               そして又無言。そして急いで自分の焼きそばを食べた。そして食べ終えると、娘に言った。                  「エミ!早く食べな。いつまでもグズグズ食べてないで。」              エミはびっくりした様に母親を見ると、「うん。」と小さくて返事をして、急いで何とか食べ終えた。              すると母親は、まだ食べている私達を見ながら立ち上がり、エミも立ち上がると、母に言った。                 「それじゃあ、私達はもう失礼します。」  そうして急いで出て行った。       私達は唖然としながら、何か不快感を覚えた。                

「ねぇ?ママ、何か悪い事したのかなぁ?」「ママは何もしてないよ。だって、奢るって言っただけだもん。」          「そうだよね。でも、エミちゃんのママは凄く怒ってるみたいだったから。」     「そうだね、嫌だね?」          私達は分からなかったのだ。私はまだ子供だし、母も鈍感な面があるから。      エミの母親は、私の母が奢ると言った事で、馬鹿にされていると思って怒ったのだ。何故なら、後日エミが言ったのだ。      「ミーのママがユーのママの事を言ってたよ。凄く見栄っ張りで馬鹿な親だから、○○もあれじゃあうんと苦労して大変だねって。あんな親じゃあって。」         「何で?!」          

「だって、あんな安っぽい店で奢るなんて言って!あんな所、安いんだから。誰だってあんな所、払えるんだから!何ももったいぶって奢る様な場所じゃないんだからって。なのにそんな事を言うんだからって!!」   「ママは喜ぶと思っただけだから!」   「でも、あんな所誰も奢ってくれなくても払えるんだから。だから誰も喜ばないのに、ユーのママはそんな事も分からないって言ってたから。」                こんな感じだ。だから、どんな事でも上から目線で、強気だった。だからエミもそうだった。                


もしかしたら、劣等感の裏返しだったのかもしれないし、又はポーズだ。素直に喜んだりするとかっこ悪いとか、馬鹿にされるだとか思っていたのかもしれない。       だからエミは、うちの祖母に寄ってそのプライドを捻じ曲げられて腹が立ち、言い付けられた母親もそうだった。         だから、犬の話で、わざとクマちゃんを私が攻撃する様にしたのだ。祖母の犬だからと言うので。                祖母が、エミを馬鹿にした事があるのだ。家に来た時に。              続く…

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