第18話

結局、母は木下をもう断るからと言い、祖母にそう告げた。そう本人へ伝える様に。  だからもう来ないと私は安心していたが、その日に又来た。             祖母は伝えなかったのか、でなければ母はそう言ったと伝えながらも、示し合わせて来らせたのだ。               だから私はどうしても椅子に座る様に言われたが座らなかった。だが、余りに執拗に祖母にせがまれ、馬鹿だから仕方無く最後には座ったのだ…。             普通の子供なら絶対にしなかっただろうが、私はそう教育されてきた。それは普段働きに行っていて家にいない母は、私に祖母の言う事を聞く様に言い付けて、そうさせる様に本人にも言われていたのだ。        又、聞かないと後から母に凄く言い付けた。そして私を叱る様に母に言う。      叱らないといつまでもしつこく騒ぐ。だから母は疲れているのにうるさいからと、仕方ないから叱る。でないとせっつかれていつまでもうるさい。              これは後から本人が私にそう言ったが、ある時期からはしなくなった。        「いい加減にしてくれ〜!、それじゃあ自分も疲れるし、子供も可愛そうだから」、と。                  祖母は、そうした中、私が段々と大人になり、余り自分を相手にしないし言う事を聞かないし、叱っても小さな時の様に恐がらないだとか敬わないからと言う理由から、面白くなかったのだ。             木下が家に来た時期は正にそんな頃だった。だからこの日も木下が来た時に、祖母は来るのを私に知らせなかった。        母も後から知って祖母を叱り飛ばした。  とにかく、仕方無く席に付いた私に、「手間を取らせやがって〜。」、と言うと私の頭を拳で何度も殴った。            祖母は嬉しそうに見ていた。そして木下に私の事を告げ口した。それは数日前に、何かの事で言い返した件だ。私はそんな事をするのをとても驚き、信じられなかった!!   祖母は物凄くしつこくて執念深いから、一寸の事でもいつまでも注意をする。だから言い返すと、とても怒る。だからその数日前の事を祖母は木下に言い付けたのだ。     「一寸聞いてよ!この子、私にこんな事を言ったんだよ!!」            それは何だっかは忘れたが、中学生なら誰でも普通に言う様な事だったと思う。「うるさいなぁ、分かったよー。もうやったよ!」、だとかを。               だが自分にうるさい、と言う言葉を使った。それが尺に触る。そうした事だったと思う。小さな時ならまだ脅せる。        「じゃあもうハンバーグ作ってあげないから!」、「マンガ、買わないよ。全部あるの、捨てちゃうから!!」、だとかを言えば、「わぁ、嫌だ〜?!」、みたいに焦る。だがティーンになった子供にそうした事は余り通用しない。だから祖母は木下を使い、私を脅したのだ。                 「お前、おばあちゃんにそんな事を言ったのか?!何だ?自分のおばあちゃんに向かって。謝れ!」              私に謝罪をする様に言わせる。      普通にごめんなさいと謝ると、「何だ、その謝り方は?ちゃんとに謝れ!」と言って又頭を叩く。                私は祖母に、「失礼な事を言って大変に申し訳ありませんでした。どうぞお許し下さい。」と、テーブルに頭を付けて謝る事をさせられた。                  祖母は嬉しそうに見ながら、何も言わない。それで木下はあと2回位、私に繰り返させた。丸で時代劇だ。           そして二人共やっと満足する。祖母がお礼を言った。                「あんた、ありがとね!」        「いいや、お安い御用だよ。いつでも又言ってよ。又何かしたら、キッチリと俺が懲らしめてやるから!」            「うん、頼むよ。この子、最近すっかり自分のおばおさんの事をナメちゃってさ!言う事を聞かないんだから。」         「そうか、分かった。おい、お前。おばあちゃんのことをナメたら承知しないぞ。」  それから又私に問題を解かせたりして、頭を叩いた。                 緊張して中々解けないと、お茶を持って来る様にと祖母に頼んだ。祖母も流石に少しまずいと思った様だ。            「ねー、あんたどうするの??」     「いいから、おばあちゃん。早く!うんと熱いのを持って来て!」          又数回頼むと、祖母は熱いお茶を持って来て木下の前に置いた。           木下はその湯呑を手に取った。      「お前にこうしてやるよ。このお茶をかけてやるよ。」                木下は興奮して、私の襟首を掴んで頭を上げた。私は驚き、恐怖の為に必死で逃れようとした。                 だが、動けない。しっかりと押さえ付けて、もう片方でその湯呑を手に持ち、私の顔にかけるふりをした。            「お前の目にかけてやるよ。見えなくしてやるよ!!」               「やだ!止めてよ?!止めてよ〜!!」  祖母が少し焦りながら言った。      「一寸あんた、止めなよ?そんな事して、目が見えなくなったらどうするの?母親に大騒ぎされるよ。あんた、警察に行く事になるよ?!」                「大丈夫だよ、完全に見えなくはしないから。ちゃんとに片方の目はそのままにしといてやるから!片目だけだよ。」     「や、止めてよ〜〜っ!助けて〜〜〜!!」「何が助けてだ?ふざけるな。大丈夫、ちゃんとに片方は見える様にしてやるから!さっ、かけるぞ?」            「あんた、本当にいい加減にしないと。」 祖母は冷静に言った。           だが木下は、私の片目を火傷して見えなくして、水を使わせないと言った。そしてそのまま家から出さないでしばらく放っておくと。そうしたら完全に手遅れで片目は失明するからと言った。              身動きできない私は必死で両目をつむった。「おい、目を開けろ!!目を開けろ、この野郎。早く目を開けろ?!」        私は絶対に目を開けない覚悟でしっかりと両目をつむった。それで必死に抵抗しながら、逃れようとした。            木下はお茶をかけず、しばらくはこの体制が続いた。そして祖母は側で止めろと穏やかに言っている。するとやっと木下は私を離した。      

そして震え上がり、自分を凝視している私を悔しそうに睨んだ。           「残念だったな。おばあちゃんが止めたから、お前良かったなぁ。おばあちゃんにうんと感謝しろよ。」             そして木下は祖母と普通に話し、帰って行った。                  母が仕事から戻って来ると私は急いで全てを話した。普段は祖母にきつく止められて、喧嘩をしたり意地悪をされたりした事を母には、心配をかけるから話すな、と止められていた。だが、今回の事は大例外だから!! 母は震え上がり、大騒ぎをした。祖母を叱り飛ばした。               「恐いね~っ!!何でそんな事をされなきゃならないの?!」            祖母は嫌そうな、困った顔で素っ気なく横を向いている。              「いい、お母さん?もしそんな事をこの子にしたら、させたら、絶対に許さないから。そんな事を絶対にさせるんじゃないよ!!もし何かこの子にあったら、何かされたら私は絶対にお母さんを許さないからね?!もう一生許さないし、お母さんの面倒なんて絶対に見ないよ。もう終わりだよ、本当に。いいね?!」                「分かってるよ。」            「あの男にも、この子はもう絶対に合わせないから。なんで今日うちに来たの?!来らせないでって言ったのに!あれ程言ったのに。何でそんな事をしたの?」        「だって、ハッキリなんて言えやしないよ。」                 「何で言えないの?!」         「言い辛いしね。せっかく喜んで来ているのに。」                 「馬鹿な事、言わないでよ!あんな酷い事をやってて、今日だってそんな恐ろしい事をして。じゃあ私が言うよ。きっぱりと断るから!!」                木下が家に来た。あっちが、電話でなくて会って話がしたいからだとかだった。    母が木下を睨み付けた。木下も靴を脱いで上がると、きつい表情で、無言で椅子に座った。私は離れて、奥の部屋から不安げに覗いていた。                 ( 続く.)

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