第17話

私の家に、その家庭教師の男子大学生が来た。身長は170センチちょい位で、体はガッチリとしていた。色が白く、顔は洗面器の様に大きかった。そして顔面真っ赤なニキビ面だった。                ルックスは一つも良くなく、何かとてもダサい感じで、年は20か21歳位だったと思う。この青年は祖母と同じ所の出身だった。祖母は、元は北陸生まれだった。       祖母は、女学校を出た後にはに東京に憧れて、親戚がいるからと上京してからは、そこにしばらくは置いてもらい、いたそうだ。そしてその後は、横浜に流れて来た。    だからこの男は祖母とは違う町だが、同じ県だからと、互いに親しみがあった様だ。  そして私は数学を習う事になり、最初のニ回目位までは良かったのだ。感じが良くて、気を使いながら私に教えた。        だが、三度目だ。この時はとてもイライラした様な、嫌〜な感じになり、分からなかったり、問題を間違えて答えを出すと怒った。物凄く怒った!!             実は私は、思春期の女の子がよくやる事をニ回目の時にしてしまったのだ。      中学生や高校生の十代の女の子がよく、見た目がダサいだとか変な男(の子)を見ると、呆れたり馬鹿にしながらゲラゲラ、又はクスクスと笑う。又は馬鹿にした顔をして、嘲りながら見る。              私はこの青年の大きな洗面器の様なニキビ面の顔が余りに変で不快に見えて、一度思わずプッと吹いてしまったのだ。そう、思わずその顔を、馬鹿にして笑ってしまったのだ。 直ぐにハッとして真顔になり、もう二度と笑わなかった。              だがこの青年、木下はこれを物凄く根に持った。(とても酷い事がその後ずっと、母が家庭教師を辞めさせるまで続いたから、実名で書く事にした。そして木下は本名だが、その下の四文字の名前は覚えていない…。)   そしてその日は、不快になった様だが態度には出さなかったが、その次からはあからさまに出す様になった。           木下は私に意地悪そうに、素っ気なく教えた。一度解き方を説明すると直ぐに問題を難問も解く様に命じた。それは、命令だった。そして私が分からなかったり、答えが間違えていると、大声で罵倒した。       最初は罵倒して馬鹿だとか頭が悪いと罵ったが、直ぐに今度は手が出た。私の頭をガンガンと拳で殴った。            家庭教師は確か週に二回、一回1時間半か2時間だった。この時間中、この男は私に数学を教えると言う名目で、虐めまくった。  分からないのは仕方がない、だから習っているのだから。余りに酷いからそんな事を止めてほしいと言うと、何を生意気な事を、こんな簡単な問題もできないで言っている?!、と又喚き散らした。そしてそんな生徒を教えてやっているんだからありがたく思え、自分は奉仕をしているみたいなものだ!!、と偉そうに何度も言ったり、教師に何を口答えしている?!、ともっと怒り、又頭を立て続けに殴った。               私は恐怖にかられながらその問題を解かなければならなかった。そしてこれは台所の、キッチンテーブルで座ってやっていたので、直ぐ近くでは祖母が普通に夕食の用意をしていたのだ!!何も顔色を変えずに、止めもせずに。いつもと変わらずに。        この男はいつも夕方の5時から教えに来ていたから、いつも夕飯を一緒に取る。教え終わると、そのテーブルに母や祖母、私と一緒に晩御飯を食べてから帰っていたのだ。帰る前には母からその日の授業代を数千円手渡してもらって。               驚くのは、祖母もそうだが、母もこの様子を最初見た時には驚き、顔が引きつったが、黙っていたのだ。だがしばらくして余り酷いから、止める様に言った。分からないだとか間違えると、顔を真っ赤にして、ニキビ面で赤いのがもっと真っ赤に、丸でトマトの様になり‼、何度も大声で喚き散らしてはその都度私の頭を立て続けに殴る姿にだ。     するとこう言われた。          「お母さんは黙っていて下さい。今、僕が教えているんですから。」と。        そんな事を悪びれずに、もっともらしく言う。母が又何か反論をすると、木下は祖母の顔を見たりする。困ったなぁ、うるさいから何とかしてよ?みたいな、母を馬鹿にした風な表情を浮かべて。           母にそうすると祖母がたしなめる様に言う。「あんた、黙ってなよ。せっかく教えてもらってるんだから。」           「だって、頭打ってるじゃないの?!殴ってるじゃないの、人の子供を。」      「仕方ないじゃないの?あんたの子供ができないんだから。頭が悪いんだから仕方ないじゃないの?だから怒られるんだから。」  「何言ってるのよ!!」         「さぁ、続けて頂戴。ちゃんとに、まだ時間があるんだから。」            こうした時に母は丸で頼りにならない。いつも(殆ど)そうだ。結果的に、渋々黙り、又前と同じになる。            ある時には又余りに酷いから、私が、もう暴力を振るわない様にと又言うと、「何が暴力だ?!何が暴力だ、そんなことしてないだろう!」と開き直った。そして頬をビンタした。                  痛いのと、何故こんな理不尽な事を毎回されなければいけないのかと言う気持ちから、私は目から涙が出た。           異常だった!!いつもそうだが、この男は狂っていた。又顔がいつものトマトの様になり、目も血走っていた。いつも直ぐに怒り、興奮した。               だがこの時は私も黙っておらず、必死に又叫んだ。                 「打たないでよ!!暴力止めてよ!!」  すると木下は「何が暴力だ?いつ暴力を奮った?!おまえ、何を甘えてるんだ?何を甘えた事を言ってるんだ?!」と言いながら又私の頬をもっと強く打った。        母はこの時いた。たまに仕事の帰りに何処かへ寄ったりしていない時もあったが、木下が来る時は大概いた。           母も私を打たない様に言うと、親が子供を甘やかすからこんな態度を取るんだと逆に文句を言われた。              「甘やかしてなんかいません。厳しく育てています。」               「何言ってるんですか?!甘やかしているから、目上の人間に勉強を教えてもらってる癖に、こんな態度をするんじゃないですか?!」                「私は甘やかしてなんかいません、勝手な事を言わないで下さい。人の子供を打たないで下さい!」               「いいえ、これは躾です。僕はあなたの子供に躾をしてるんですよ。あなたが甘やかしてばかりいるから、こんな子供になるんですから。」                 「躾じゃなくて、只の暴力で虐めじゃないですか?!あなたみたいにそんなに若くて、子供もいない人間が、何が躾ですか?もう貴方なんかいりませんから、止めて下さい。もうお断りします。帰って下さい!!」    「いいえ、まだ授業は終わっていませんから。まだ僕の時間ですから。僕に任された、僕の時間を僕がどういう風に使っても構いませんからね!残りの時間までは僕は好きにしますよ。」               「帰って下さい!でないとお金は払いませんよ。」                 「あぁ、良いですよ。それなら余計僕の好きにしますよ。僕は契約した約束の時間を守って、最後までやるだけですから。決まった事を。」                  絶対に帰ろうとしない。要は虐めて楽しみたいのだ。女ばかりの家庭で、祖母が一番威張っている。その婆さんとは同郷のよしみで好かれているし、話も合う。そして私を虐めても何も言わない。ならこんなに良い事はないのだ!!                すると、ずっと黙っていた祖母が、取りあえずは晩御飯を食べよう言ってなだめて、食事を出し始めた。おかずやご飯をテーブルに置き始めた。               すると木下が言った。          「一寸待って!○○さん、こいつにはご飯を出さないで。食べさせないで。」      祖母と母が木下を見る。私も驚く。    「罰として、食べさせなくて良いから。出さないで下さい。」            「一寸何を言ってるんですか?お母さん、この子の分も出して。」           祖母は知らんぷりしている。母が驚き、焦りながら繰り返す。祖母は知らんぷりして返事をしない。               「一寸、お母さん?!」         だが結果、又母は諦めたのだ。祖母とこの男に押し切られて。何故自分で私の分を用意しなかったのか?弱い…。         恐いのだ。何かを強く言われたり、無理に止められるのが。             そして、私の分だけがない。箸も茶碗も、何も。皆が、私以外が食べないで、食事をする様になる。私は、食べなくてもそこを離れる事を許されず、黙って三人が食事するのをそこで見る事になる。空きっ腹で。     木下は嬉しそうに、これみよがしにパクパクと大口を開けて食べ、祖母におかずか美味しいと褒め、ご飯をお代りする。そして丸で一家の長の様に振る舞う。         祖母は褒められて喜びながら、もっと沢山食べる様に勧め、楽しそうに色々と二人で雑談をする。                母は黙って、不快そうに、嫌な事を我慢しながら食事をする。            私は、早くこの男が帰る事を切望しながら、皆が食べ終わるのを待っている。     やっと食事が終わると又授業再開で、木下が罵倒して怒鳴り散らしたり、たまに頭を真上から殴りながらその時間は終わる。    すると、祖母に私の食事を出させ、私が食べるのを見ている。施しを与える様な態度で、「じゃあもう、おまえ、食べていいから。ご飯を食べさせてやるから、ちゃんとに感謝して食えよ。せっかくおばあちゃんが、一生懸命に作ってくれてるんだからな。分かってんのか、おい。」              そうした勝手な事を散々言いながら。   そして結局、母はこの男を止めさせられずに、相変わらずまだ来ては同じ態度を繰り返していた。               只、帰る時にお金を払うのを数回拒んだ事がある。すると、「払って下さい。教えてるんだから。」、と当然の様に要求した。それでも渋って払わないと、又せがみ、祖母も同調した。                  「あんた、払いなさい。お金、払うの。」「だって、娘を殴ってるじゃないの?!」「いいから払うの!!それだって教えてるんじゃないの?!契約してるんだから。」      母は嫌そうに財布からお金を出して渡すと、木下は嬉しそうにズボンのポケットにお札をねじ入れて例を言いながら帰る。     祖母が言う、「ありがとうね。又お願いするね?」と。木下は笑みをたたえて祖母に手を振ると玄関を出て行く。         木下は、私が途中トイレに行きたいと言うと、一応は行かせた。私は打たれるのが嫌だからなるたけ何度もトイレに行こうとした。だが二度目は駄目だと言い、絶対に行かせない。そんなに直ぐに又行きたくなる訳がないと言って。               ある時、トイレに行き、又直ぐに行きたいと言うと駄目だと言われて、もしそれでも行こうとしたら本気で強く頭を殴ると言われた。その前に何度も既に頭を殴られていた。(母はいたが役に立たない。何故こんなに無能なのだろう??黙って仕方無く様子を見守るだけだ。)                 私はどうしても逃れたくて、早く又トイレに入りたかった。そこではこの男からの一時の自由、束の間の時間が得られるから。その日、木下はアルバイト先のそのパン屋で、嫌な事があったらしくイライラしていたから余計にだ。                それで私は途中、トイレに行こうとして又頼んだ。だが、拒絶されたので思い切って立ち上がった。               ガツン!!!!             私は、半分腰を上げた椅子から床に崩れ落ちた。頭を拳で力一杯殴られたから、床に倒れたのだ。                頭がジーンとして、何が何だか最初分からず、すぐには起き上がれなかった。体が直ぐに起こせないからしばらくはそのまま倒れていた。                 「オイ、何やってんた?!早く起きろ!何で立たないんだよ?!早く立て!立ち上がれよ!!」                木下が焦りまくって騒いでいるのが聞こえた。母や祖母も見下ろしている。母は心配している様だ。祖母は冷静だ。       「一寸あんた、早く起きなさい?何してるのよ。早く〜。」             「早く起きろ!何やってんだ?!」    木下が私をガンガンと、足で蹴り始めた。母が叫んだ。               「止めて下さい!!」          馬鹿だから私に起き上がる様にいう。でないともっとやられるからと。その時点で帰る様にきつく言い、無理に帰そうとしない。いや、思い付かないのだろう。       私は何とかやっと起き上がり、又椅子に座ると、お前が悪いからだと木下に言われた。 又トイレに行こうとしたら、思いっきり強く打つと言ったのに立って行こうとしたから、約束通りに打ったと。だから仕方が無いと。この日はその後、木下は怒ったり注意しても打たなかった。又倒れたりしたら面倒だと思ったのかもしれない。          この出来事があってからは、私はトイレに行くのは一回にしたが、又打った時には母が抗議した。                「もう、本当にいい加減にして下さい!人の娘を打たないで下さい?!」       木下が馬鹿にした様に無視した。母が又そう繰り返し、木下が何か言い返すと、母がきっぱりと言った。             「じゃあ、止めないなら警察に言います。」そして私に椅子から立ち上がる様に言った。                  私は、又立ち上がれば強く殴られると思い、立たなかった。             「何を言ってるんですか?」       木下が少し困った様な声を出した。母を見ている。それで私は椅子からすり抜けて立ち、祖母が驚いて座る様に何度も言う。    狭くは無いが、そんなに広くもない台所のスペースだ。               母が私を見て言った。         「○○ちゃん、あんた、警察呼んで来て!じゃなきゃ、私が行くから。今、呼んでくるから。」                  すぐ近くに交番がある。あの当時は割といつも警官は中にいた。私は無言で行こうとした。だが母も心配だ。何せ相手は気狂いだ、鬼畜だ。                「打って!あんた、早く打ちな。」     祖母が冷静に言った。木下が祖母を見た。祖母が又繰り返した。           「あんた、早く打つの!親のほう!!」  木下が困惑して祖母を見た。幾ら何でも母親で、大人をか?大丈夫なのか??そんな表情だった。                「親を打つんだよ。じゃなきゃ行かれちゃうよ?警察に行かれるんだよ?!」     木下は、確かにそうだ!、と言わんばかりの顔になった。ましてや祖母の許しが出ている!!                 母へ近付こうとした。母の顔が強張った。「止めて!!何するんですか!?」    私は急いで外へ飛び出れば交番へ走って行かれた。当時の私はまだ中学生だ。年も、日本の普通の公立の学校に転入する時に、本来の学年よりも一歳下のクラスに、母のたっての願いで転入されているから、中一でももうすぐ14歳だ。だから背ももうある程度伸びていたし、その年だから、まだかなり痩せていた。手足は長いし、体は軽いから走るのはクラスでもうんと早かった。        だから、キッチンのすぐ側のドアから、捕まらずに外へ飛び出せる。そして一直線に走れば、交番は目と鼻の先だ!!       だが私が外に飛び出れば、頭に来て悔しい木下は、母を本当に殴るかもしれない。母も怒ると、私が小さな時はめちゃくちゃ打った。だが、こうして私を心配する事もあり、今はそうだ。                やはり一応は、頼りないが母親だ。残しては行けない。心配だ。だから私はそのままそこにいる決断をした。           「あんた、変な気を起こすんじゃないよ?」祖母が母に言った。母は黙っている。   「変な気を起こすんじゃないよ。あんたが騒げば、あんたを打たせるからね。いいね?」母は諦めて、断念した。恐いのだ。私の事が心配でも、自分が打たれるのは嫌だ。痛い思いをしたくない。なら、我慢するしかないのだ。                  そして、又この時間は今迄と同じ様に終わった。それで、ついに母は木下の事を自分の妹に相談した。二人いる方の、気が強くて、娘が二人いる方だ。            私の叔母は大層驚いた。         「何でそんな事をさせとくの?!」    自分なら、自分のどちらかの娘にそんな事をされたら、例え叶わなくても絶対に許さない!!どんな事をしてでも追い出す。箒だとか、何でも良いから手に持って、必死に追いかけ回して追い出してやる。二度と来らせない!!、と。何故母がそんな事を我慢して自分の子供にさせているのか、側で我慢して見ているのか?!例え祖母がそんな事を言ったりして、味方してもと。         そして、母は決心をした。        (一旦、続く。)

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