第13話
幼稚園だか小学校一年生位だったか分からないが、キューピーの大きな人形を買ってもらった。小さな物も、家にあった。どちらが先に買ってもらったかは分からないが、かなり大きな、抱きかかえる様なサイズだった。 当時は、キューピーも割と人気があった気がする。勿論、大流行したダッコちゃん人形も持っていたが! そしてある時、祖母が熊の縫いぐるみを買ってくれた時だ。デパートの玩具売り場で、熊を買ってくれる事になり、沢山ある中から好きなのを選べと言われた。 私は嬉しくて、一生懸命に数ある熊達を見比べた。抱いたり、顔をじっと見たりして、品定めをした。 そしてやっとその中の、茶色くてフワフワした、可愛らしい顔をした熊達2匹を選び出した。 その中のどちらかを必死に悩み、そしてやっと片方を選んだ。 すると祖母はそれを駄目だと言う。何故か、とても嫌がる。私はどうしてかと、驚いて聞いた。
祖母は、可愛くないと言う。私は又、物凄く驚いた。誰が見ても可愛いに決まっていると思う程の出来だと思ったからだ。 私はこの出来事は本当によく覚えている…。だが、幾らそんな事はないと言っても、絶対に可愛くないと言い、そんなのは買わないと言い張った。 私ががっかりしていると、他の幾つかを指して、それらの方がもっと可愛いと言う。そしてそれらのどれかを買う様に促す。 私と祖母はしばらく揉めた。そして結局私は、その中のピンク色をした熊を選んだ。祖母は大変に喜んで、それを可愛いと褒めまくり、私に買った。 だが、正直顔は余り可愛くなかったし、比べれば、最初に選んだ茶色い熊よりも遥かに劣っていた。 本当にこっちの方が可愛いの〜?!大人はそうなのかなぁ?半信半疑だったが、買ってくれないよりは良い。 家に帰り、その熊を又吟味していた。そんなに可愛くないけど。やっぱりあっちの方が良かったなぁ。そんな事を思っていると、電話が鳴った。 祖母が出る。私の伯母だ。祖母は嬉しそうに話し始めた。 余り気にならなかった。だから特に聞く気も無いが、聞いていた。聞いていた、と言うよりも聞こえたのだ。 私は驚愕した。そういう事だったんだ?!道理でおかしいと思ったよ!! 祖母は途中笑いながら話していたのだ。 「熊の縫いぐるみを買ってやるって言ったら、高いのを選ぶんだもん!沢山あるのにさ、もっと安いのを選べばいいのに!なのにその中の凄く高いやつなんか選ぶから、絶対に買わなかったんだよ。そんなの可愛くないって言って!」 相手が何か言っている。 「そうだよ、でもどうしても嫌だ、それが良いって頑張るからさ!」 又笑い出した。 「だからそんなのは可愛くないから絶対買わないって言って、もっと安いやつを幾つか選んでさ。あんまり高くないやつ!そうそう。それでそれの方がもっと可愛いからって散々言って、騙し騙し買わせたんだよ。他のを!!」 「アハハハ、そうだよ。幾ら頑張ってもやっぱり子供だからさ。最後は納得して、だから騙して安いのを買ったから良かったよ!!」やはりそんな事だったんだ!私は子供ながらにしてやられたと思った。 だが、不思議なのはその逆もあったのだ。誕生日プレゼントに何が欲しいかと聞かれて、ロケットのペンダントが欲しいと言った時だ。この時は、八歳か九歳位の時の誕生日プレゼントだったと思う。 祖母は分かった、と言った。そして確か当日か、その数日前かもしれないが、母が仕事が休みの日だ。だから週末だろう。
その日に私は祖母と母とに連れられて、伊勢佐木町にある宝石屋へ行った。私はそんな高い物を欲しいだなんて思っていなかったから、驚いた。 祖母は金のロケットを見せろと言った。誕生日プレゼントに買うからとも伝えた。 店員の、中年の男が嬉しそうに金のロケットをあるだけ持って来た。 たまたま他にはお客がいなかったから他の店員数名が側に来たり、少し離れてこちらを見ていた。 この男の店員は、母への誕生日プレゼントかと思い、母の方を見た。どれが良いかと聞いた。 すると祖母が言った。 「違うのよ。この子に買うのよ。」 宝石屋の店員達が驚愕の表情をした。何人かいた店員が皆集まって来た。 驚き、呆れたりしながら私達を見た。私をじっと見ては祖母や母を交互に見比べたりもした。 だが二人共そんな事に丸で動じない。むしろ気付いていない様だ。 祖母が私に聞いた。 「あんた、どれがいいの?」 「丸いの。」 「丸いの?丸いのが良いんだね?」 「うん。」 「ねぇ、丸いのは無いの?」 「丸いやつですか?」 「そう、丸いやつ。」 「いえ…。これなんてどうですか?」 殆どがオーバルな形だった。でなければ四角だとか、ハート型だとか何かの形だ。 「あんた、これはどうなの?」 楕円形なのが幾つかあったから、祖母はそれらの一つを私に指差した。 まだ子供だった私は本当にまん丸いのが欲しかった。 「嫌だ…。」 「何で?」 「だってこれ、ラウンドじゃないもん。これ、オーバルだから。」 「嫌だってさ。だから、もっと丸いの無いの?」 「いや、そう言われましても…。」 「そう。じゃあ他に行くからいいわ。ありがと。」 「アッ、お客様、もう一寸待って頂いて宜しいですか?」 そしてこの男は他の店員達に聞いた。 「他に無いのか?他のロケットは。」 若い店員達の誰かが中に探しに行った。そして戻って来た。 確か、幾つか違う物を手にしていた。そしてその中にまん丸いのか一つだけあった!!「これはいかがでしょうか?!」 先程の男の店員が嬉しそうに言った。 私はそれを見て歓喜した。 「これは?これはどうなの?」 祖母が聞いた。 「これ!!これが良い。これ、欲しい!」「じゃあこれがいいんだね?」 そうして祖母はその金の丸いロケットを買ってくれた。そしてそれを首に吊るす金の鎖もだ。 そしてその丸い、ツルツルな面に彫刻ができると聞いた。それは、サービスでできると。だから、表側には私の頭文字を、裏面にはFrom G.M.と彫ってもらった。 これは私のリクエストだ。私のイニシャルと、おばあちゃんからのプレゼントだというので、フロム グランマザー 、と記したかったからだ。 これを彫ってから受け取るのに数日かかった。(行ったのは、やはり私の誕生日の少し前だったかもしれない。) そしてその日には、夏によく泊まりに来る二人の従兄弟達も家に来ていて、誕生パーティーを母にしてもらった。(これは、殆どいつも通りだった。) それでこの時も、ケーキの蝋燭をフーッと消してから誕生日プレゼントを貰うのだが、私は何をもらうのかは当然分かっていた。 そしてその金の丸いロケットと、それを吊るす金のチェーンを受け取った。 従兄弟二人がジーッと見つめる。一人は一歳下で、もう一人は四歳下の、二人共女の子だ。 母が弁解がましく言う。 「あんた達、別に羨ましくないよね?」 片方が言う。年上の方だ。 「伯母さん、これ金でしょ?本物だよね?」「うん。あんた、何で分かったの?」 「よく分からないけど、何か違うもん。光り方が違うし!、キラキラしてて凄いもん!!」 「そう…。そうなんだよ、金だよ。だけど、ヤキモチなんて焼くんじゃないよ。うちの○○ちゃんは、普段は伯母さんがいないんだからね。会社に行ってて一日中いないし、あんた達みたいに、兄弟だっていないんだから。だから誕生日位、伯母さんはしっかりとお祝いしたいんだよ。おばあちゃんだってそうだよ。分かった?」 「うん、分かったよ、伯母さん。それに私、そんな高い物なんて欲しくないもん!」 「そう、じゃあ良かったね。」 …だが祖母は、何かを私に買い与えてくれる時には、こうして、高い物を平気で買い与えようとしたり、出し惜しみをしたりする行動があった。金銭的にはその時に応じてお金が不足していたり、裕福だったりだとかでは無かった。
彼女は母に養われていて、私が中学に上がるまではパートをしていなかった。母から貰う小遣いを貯金していただけだから。 私が中学に上がってからは、つまらないし暇だからと知人にこぼしたら、週末2回だけのパートを紹介してもらい、それには何年も行っていたが。 大手のパン店で、従業員用に食堂があり、そこの食堂の、オバサンだ。昼食を作り、(若い)従業員に食べさせると言う仕事だ。場所は、元町と伊勢佐木町にあるポンパドールと言うフランスパン屋だ。どちらにもその都度、スケジュールに合わせて行っていた。 とにかく、何を考えているのかは分からない老婆だった。 そして、このパン屋に働いてから、この気まぐれな気違い婆さんのせいで、私はとんでもない事柄に遭遇するのだが!!! 次回 乞うご期待。読んで頂ければ!!(だがくれぐれも!この婆さん、どんなに最悪でも、最後は因果応報だと思うから、どうか安心して下され?! 笑)
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