第7話

タバコ屋ヘ祖母のタバコを買いに通っていたある時、近所の、同じ中学ヘ通う生徒二人と遭遇した。クラスが違う、女生徒達だ。  丁度タバコを一つ買い、家に戻ろうとした時だ。まだタバコ屋の直ぐ近くだった。彼女達が近づいて来た。            彼女達は私の手にしたタバコを見て、興奮して近づいて来たのだ。何故なら、私が吸うのかと思って。それで、注意をしようとしたのだ。そして、側へ来てうるさく騒ぎ立てた。タバコを吸うだなんてとんでもないだとかなんとか。                祖母に頼まれて買いに来たと言っても信じない。嘘をつくなと大騒ぎだ。挙げ句の果てには、片方がいきなりタバコを引ったくった!!                 驚く私の前で、「こんな物、まだ子供が吸うんじゃないの!」などと言いながら、してやったりと言う得意顔で、そのタバコをぎゅうっと両手で曲げた。           中に入っているタバコは折り曲げられた                  「一寸何するのっ?!」         私は怒りながら叫んだ。         二人はとても嬉しそうだ。        「こんな物を吸っちゃいけないの!分かった?!」                「返してよ!!」            相手の、掴んでいる手からタバコを取り戻そうとした。非常に頭に来た。       もう一つ買うお金も持っていないし、帰れば祖母は怒り狂うだろう。何故そんな事になったし、させたのだと。          だが、そこにタバコ屋のお婆さんが出てきた。私達が騒いでいるのが、耳が遠くても聞こえたのかもしれないし、偶然かもしれない。                  「一寸あんた達、何をやってんの?!」  しかめっ面をしながら、大声で言った。そして私を見た。              私は幼児の時から、ここで殆ど毎日、ずーっとタバコを買い続けている。自分の顔馴染みの、私の祖母の為に。          「ねー、どうしたの?何があったの?」  だから私に、心配そうに優しく聞いた。  「今、タバコを取られて…。私が吸うのかと思って。」                仕方ないから言った。          「エーッ?!」             お婆さんの顔が曇った。みるみる内に、怒り顔だ。自分ちの大切な商品だ。今売ったばかりの。そして買った私に、それを取り上げていちゃもんをつけている。        お婆さんは二人をきつく睨みつけた。そして特に片方の、手に歪んだタバコを持っている子を。                 「何やってんだよ??おい、お前、何してんだよ?!」               物凄く恐い。たしか息子ばかりが何人かいた人だ。だからか分からないが、怒り方が半端じゃない。              「タバコを返しなっ!」         その子は恐る恐るタバコを手渡した。やはりタバコの箱は歪んでいる、中身は殆どが折れているだろう。           

「おい、お前、こんなことして良いと思ってんのかよ?エッ、おい。何してんだよ?!このタバコはな、この子がいつもお婆ちゃんに頼まれて買いに来てるもんだ。毎日、昔っから来て、買ってくれてるんだ。うちの大切なお客さんなんだよ。お得意様なんだよ。それをお前、何勝手なことやってんだ!!なんでタバコを、そんな事してんだよ?!」   私を見た。               「こいつら、誰なの?知り合い?」    「同じ中学の…。違うクラスの子…。」  「フ〜ン、そうか。じゃ、お前、○○中学か?おい、どうなんだよ。」          二人共下を見て返事をしない。困って黙っている。                 「何黙ってるんだよ?!お前、名前何て言うんだ?」                タバコを握り潰した子に聞いた。黙っている。黙って下を見ている。タバコ屋のお婆さんは彼女の片耳を摘むと強く上に引き上げた。彼女の顔が痛みに引きつった。    そして又聞いた。            返事をしない。二人共困り果てている。  「何て言うんだよ?!」          大声で怒鳴った。            「人の物をそんな風に壊して駄目にして、それで済む訳無いだろ?勝手に壊して、何でもない商品を!!」            そして又耳を釣り上げながら聞いた。自分よりも少し背が高い中学生の。       「早くっ、名前は?!」          下を向き、泣きながらこの子は答える。小さな声で。                「何?!聞こえないよ!!もっとハッキリ、大きな声で言いな。」           又強く言う。              泣きながら今度はもう少し大きな声で名前を言う。                  「フ〜ン、〇〇だな。〇〇って言うんだな?」                    「…はい。」               「そうか、〇〇。お前の事は、お前達の事は学校に言ってやる。こんな事をするんだからな。言いつけてやるよ。良いか?それでもうこの子に、こんな事をするんじゃないぞ。分かったか?二度とこんな事をするんじゃない!!この子は自分のお婆ちゃんに頼まれてタバコを買いに来てるんだから。勝手に変な事を思って、こんな事をされたら迷惑なんだよ。他人の、まだ一本も吸ってもない、何でもないタバコを!!」          二人共黙って下を向いている。顔が赤くなっている。                「返事は?」              「…はい。」               「お前もだよ!」             握り潰さなかった方に言った。      「…はい。」               そうしてやっと耳から手を離して、二人を開放して、行かせた。二人は恥ずかしそうに、コソコソと逃げて行った。        次には私に向き直り、聞いた。      「ねぇ、新しいのをあげようか?」                 私は黙っていた。            「新しいのをあげようか?持って行きなよ。」                「いえ、いいです。」           「本当に良いの?良いから持って行けば??」                貰えは良かったし、馬鹿だが、当時の私はとても遠慮深い性格だし、又そう仕込まれていた。祖母は、母もそうだが、とても見栄っ張りだったからだ。そう、変に見栄っ張りな!!                 だから私は哀れな、変形したタバコを持ち帰り祖母に渡した。当然、何故こんな物を持ち帰ったのかと聞かれたので、事情を説明した。                  「エッ、そんな事があったの~?!わぁ、嫌な子達だねー。」             そして悔しそうな声を出した。      「それなら新しいのを貰って来れば良かったのに〜。」                箱から出したタバコはやはり殆どが見るも無残に折れていた。半分のもあれば,3つだとか、切れた箇所の長さもまちまちだった。「これじゃ殆ど吸えないじゃないの?!貰って来れば良かったのに〜。」        何度もそうした事を繰り返した。     だが、この話はこれで終わった訳ではない!後日、学校へ行くと朝の朝礼でだ。確か毎日ではなかったと思うが、外での朝礼があり、校長先生が話をする時があった。     その時だ。校長が重々しく話し出した。皆に大切な話があると。何だろう??皆、生徒達は不思議に思った。私も含めて。     話の内容はこうだ。つい先日、学校に電話があった。お宅の生徒の事で話があると。お宅の〇〇と言う生徒の事で、とんでもない話がある、と。(校長は生徒の名前は言わなかったが、名指しで言ってこられたと言った。)この生徒が、同じ学年の子が自分の所でタバコを、祖母の為に買って帰ろうとしたら、それを偶然見ていて、その子の元へ来てタバコを取り上げてそれを捻じ曲げた、と。    それを自分が見たから、急いで叱りつけてタバコを取り戻して名前を聞き出したと。  取り上げられた子はすぐ近くに住む子で、小さな時からその子のお婆ちゃんで、自分もよく知っている人に使いを頼まれて年中買いに来ているのだと。なのにそんな事も知らずに、タバコを吸うのかと勝手に勘違いして、いきなりもう一人の子と二人がかりでタバコを取り上げて得意そうにしていた、と。  だからとんでもない子供達だと言って、大変に立腹しておられたと。せっかく売った、そのお婆ちゃんが待っているタバコを、そんな酷い事をした!、と言って。       校長はとても驚いて何度も謝ったそうだ。それは直ぐに注意をします、叱りますと。  他人の物を勝手に破棄して。ろくに理由も聞かず、又は聞いても信じすに勝手に悪いと決め付けて。               そしてその方は、もう二度とあんな事が無い様にして下さいね、と何度も強く言われてから切ったと。              校長も話しながら、同じ様に怒っていた。幾ら未成年の子供がタバコを買ったからと行って、それを見ていきなり,その他人が買った物を引ったくり、握り潰すなどして駄目にするなんてとんでもない事だ!!と言って。 二度とこんな事をしてはいけないし、他の皆も絶対にしてはいけないと厳しく言った。 どんな理由があって買っているかなんて分からないし、又そうして使いを頼まれる事なんてそんな事はよくある事だ。小中学生が家にいればそんなのは幾らでもあると。    そしてそれをしている生徒の邪魔をして、 その相手や、使いを頼んだ家の人に不快な思いをさせたり、困らせるんだからと。   もし又同じ事が起きたり,又同じ人間がやったら、次回は名指しで全校生徒の前で叱るし、家の人にも電話して知らせると。   まさかタバコ屋のお婆さんが本当に学校に言うとは思わなかった!!驚いた。だが、  きっと相当腹が立ったんだろう。そして以後そんな事は無くなった。良かった!!   それとこの騒動は母にも分かり、母が祖母に頼んだ。タバコなんて中学生が買いに行くからそんな風に勘違いされて、そんな事になるんだからと。行かさないでくれ、と。   祖母は渋った。             「何も良いじゃないの?タバコ位買いに行ったって。」                私も内心は余り行きたくなかったから、母の言葉に喜んだ。だが、又直ぐに買いに行かされた。(その時は、新作が出たからと言って、新しいタバコをお婆さんがくれた。いつもそうだったのだが、普段はサンプル用の小さな箱だ。小さくて、なんか可愛らしいヤツだが、このときは普通サイズの物をくれた。前回に、あんなことがあったからだ。自分のせいでは無い訳だが。)          だがその後、しばらくの間はは行かずに済んみ、そして又、ずっと買いに行く係りになった。何故なら、祖母は横着で行きたくないからだ。                 そして、大きなお金の時にはその釣り銭で、タバコ屋に置いてあるガムや仁丹を一つ買っても良いと言われたりして、ガムを買ったりもしていた。              だが、あの二人はさぞや懲りたのではないか?あんな風に叱られて。片方で、タバコを握り潰した方は耳を強く何度か引っ張られたり、挙げ句には学校にまで電話されて、名指しで言われているのだから。笑

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る