第5話

私は幼稚園に入るか入らない位から、多分入らない前から、数多いタバコの銘柄を知っていた。殆ど毎日、祖母に買いに行かされていたから。                家からすぐ近くにタバコ屋があった。ものの数分だ。だが、車が通る、割と広い道路を渡らなければならない。時間帯に寄ってはビュンビュン通る。だが、近い。       お金を持たされる。コインだ。まだタバコが100円代の時代だ。          手にコインを何枚か、多分150円だとか 200円位を握りしめて買いに行く。大体が、ハイライトだ。だまにホープとかショートホープ。だがその後、セブンスターとか マイルドセブン、ラークだとかに変わる。で、又ハイライトに変わるし、しばらくは峰だとか。基本は、ハイライト。これが何年も続く。それからセブンスター等が出てからはこれか、マイルドセブン。        こうして子供の使いの仕事として、何年もやっている。10年から12年は。だからタバコの種類やその値段にはとても詳しかった。 クラスの他の小学生に驚かれて、何故だとか、吸っているのかと聞かれたりした。笑って否定して、祖母に使いで買いにいかされるからだと説明したりしていた。      だから最初は背が届かないから下から大声で叫んでいた。              「ください!!」            タバコ屋のおばさんは祖母と大体同じ年位、もしかしたら少し年上だったかもしれない。だが、聞こえない様で、気付かない。姿が見えないから、耳も遠いのだろうが、余計にだ。だから何度も叫ぶ。         「ください!くださーぃ!くださ~い!!」何度も叫んでいるとやっと気が付く。   「あら?いたの?」とか、「あ〜、びっくりしたー。気が付かなかったわ!」     そんな風に言いながら私を、タバコ屋の中から顔を前に突き出して下の私を見下ろす。 「ハイライト一つ。」だとか「ラッキーストライク二つ。」、なんて言う。       そしておばさんが手を伸ばしながら私にタバコを差し出す。中々届かないが、なんとか受け取る。段々と向こうも慣れてきて、注意をする様になるのか、もう少し早くに気付く様になってくる。             お金は先に渡したか、タバコを受け取ってからかよく分からない。覚えていない。だが恐らく、先に手渡したのかもしれない。そうでないと、タバコが一つの時なら良いが、二つだと一寸大変だから!          2個だと、まだ手が小さいから持ち辛かった。確かいつも、大概一個か二個を買っていた。たまに3個だとか。         新製品が出ると、大体いつもサンプルの細くて小さな箱をくれたりした。又は、その名前を言いながら私にそのタバコを見せて、祖母に教える様に言う。           「今度こういうのが出たんだよ。おばあちゃんに言っといてよ。」          「うん、分かった!」          次回それを買う時もある。いつものと一緒に一箱。それか、気に入るとしばらくはそれを買い続ける。              買わない時には聞かれる。        「ねー、○○は買わないの?」とか、   「おばあちゃん、あれ気に入らなかった?」だとか。                「うん、あんまり好きじゃないって。」、「いつもの○○が良いって。」と返事をしたりする。            

気に入ってそれにしばらくは切り替えると、おばさんが嬉しそうに言う。       「あぁ、あれ好きだったんだー!」    「うん、美味しいって。」         こうして買いに行き、学年が上がり、年を増すと少しずつ身長も伸びて、タバコ屋のカウンター、と言うかその窓口に近くなるから、買いやすくなる…。           (タバコ屋編、part 1.)

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