第3話
私の昼ご飯は、小学校ヘ上がるまでは殆ど すいとんか、味噌汁に卵と醤油を混ぜたお粥、とそんな感じだった。 では晩御飯はどうか。最初、と言うかやはり何年も割と同じ物だった。(母が無理矢理に祖母に頼むまでは。) 大体いつも、鰈を焼いたものだ。又は煮物か、豚肉が入った野菜炒めだ。煮物は、確か唯の野菜だけだ。人参だとか、大根とか、そうした物の。よく覚えていないが…。 その他には、お刺身だ。鮪もあったが、鯨のお刺身がよく出た。当時は鯨を食べても良かったし、そんなに高くなかったんではないかな?ピンク色をして、縁が赤かった。そしてやたらと油っこかった、と記憶している。 私は正直、余り好きでなかった。これもかなり年中出てきたからか、飽きてしまったのもあった。 鰈の焼き魚も特に好きでなかった。煮物なんてもっとそうだった。 要は、祖母は料理が余り上手くなかったのだ。そして恐らくは余り好きではなかったのだろう。だからか、基本的に、不味いのだ。だが、中には美味しいと思う物もあった。だから、美味しい物と不味い物との差があった。 そして、私が小学校の低学年になると、周りの子達から同情されたり、馬鹿にされたりすることがよくあった。それは、皆と違う食生活だから。 クラスの子達が晩御飯に唐揚げやハンバーグ、カレー等を食べたとか、今夜はそうだとか言って、嬉しそうに話す。 「うちは今日、ハンバーグなんだ!」、 「うちは昨日、食べたよ。」、 「ママが作る唐揚げ、凄く美味しいの‼ だから、うちはよく唐揚げ食べるんだ。」、 「うちなんて、毎週2回はスパゲッティだよ。」 そんな会話を楽しそうにする。私にはついていけない。うちではまず作らないから。 なので食べたことが無い、又は殆ど食べたことが無い。それで、からかわれたりとか同情される。面白がられる。 「え〜っ、唐揚げ食べたこと無いの〜?」、「じゃ、カレーはいつ食べたの?」、 「そんなに前なの?!可愛そう!!」、 「何で作ってくれないんだろうね。」 こんな感じだった。 だから家に帰って祖母に言ってみたことが何度かあった。 「駄目だよ。嫌だね、そんなもん!」 「何で駄目なの??」 「そんなもん、油っぽくてベタベタしてて、あたしは食べたくないからね!」 「でもみんな食べてるんだよ!」 「じゃ、よそのうちの子になったら?うちじゃ全然困らないんだよ?!いい?別にあんたなんかいなくたっていいんだよ、うちは。 分かってんの?ねー、あんた、それ分かってるの?」 そうした受け答えがたまに何度かあり、もう半ば諦めていた。相変わらず、不味い鰈の焼き魚だとか茶色っぽい煮物のおかずばかりだ。せいぜい野菜炒め位がましな味だ。 母もいつもつまらなそうに口にする。私も段々と飽きるし、がっかりしで余り食べられない。祖母だけが嬉しそうに食べる。 そんなある時だ。もっとしっかりと食べろ、せっかく作ってやっているんだから、と祖母が私を叱った。そして母にも注意する様に言う。 母は私に注意をする。祖母はとてもしつこいから、言う事を聞かないと自分もいつまでもネチネチと文句を言われるから。そしてそれは必ず、軽く1時間は続く。 だから、私は注意をされながら、何故食べないのかと母に詰問された。私は、答えないと又怒られるから、ダメ元で言う。唐揚げやハンバーグが食べたいと。 母が驚いた様だ。自分自身、既にそんな物を家で晩御飯に食べるなんて思っていなかったし、特に思い付かなかった様だ。 ああ、そんな物もあったな!、とそんな感じだった。昼食も、祖母が作った炒り卵やウインナーが入った、簡単な、いつも同じ様な弁当を毎日持って行っていたから。私もそうだった。(幼稚園からそのまま持ち越しの私立校で、弁当持参だった。そして弁当に関しては、からかわれたりはしていなかった。見た目はさほど、悪くないから。) 母が私に聞き返した。そうした物が食べたいのかと。私は答えた。クラスの皆が年中食べていて、そうした話をよくする。だから自分も食べたいと。唐揚げなんてどんな味がするのか知りたいと。 それで母が祖母に作ってくれる様に言う。 だが祖母が毅然と返事をする。嫌だと。自分はそんなベタベタした油っぽい物なんて食べたくない。だから、自分が嫌いで、食べたくない物なんて絶対に作りたくない。だから作らないと。 母が驚き、怒りだす。 「だってお母さん、私のお金で食べてるんじゃないの?!なら、私の子供に、そんな物位作ってあげてよ?」 「嫌だよ。あたしは嫌なんだよ、そんな物!作るのだって面倒だし、後から食器だとかフライパンだとかがベトベトになってさ!洗うのが大変なんだよ。」 「だけど、みんなよその子は食べてるんだよ。そんなの、普通なんだからさ!」 「じゃあ、あんたが家にいてそれ作ったら?」 「そんな事できる訳ないじゃない?!私は 働いてるんだから。会社に行ってるのに。」 「じゃあ仕方ないね。いい?よその子は、みんな親が家にいるんだよ。それでみんな若いんだよ。だからそんな物を作るの。作って食べさせて、自分も食べるの。うちは違うんだから。」 どうしても嫌だと言って譲らない。 母が言った。 「そう、分かった。」 祖母は満足そうに、勝ったと言う様な顔をした。私はガッカリした。 「じゃあいいよ。お母さんにはもう頼まないから。」 「エッ?」 「お母さんが作ってくれないなら誰か他の人に頼むから。誰か近所の人で、もう子供が、中学だとか高校ヘ行ってる位の子がいれば、もうそんなに手がかからないんだから。そういううちの奥さんに頼んで、来て作ってもらうよ。お金さえ払えば来てくれるでしょう、そんな事するの簡単だもん。」 「一寸何言ってるの、あんた?!」 「だってお母さんは嫌なんでしょう?だったら仕方ないじゃない。可愛そうだもん。まだこんなに小さいのに、そんな物も食べられないなんて!よその子はみんな普通に食べてるのに。」 「嫌だ、ジョーダンじゃないよ!!嫌だよ、誰か勝手に人んちの台所を使うだなんて!」「だってお母さんが駄目なら仕方ないじゃないの。この子にそうした物を食べらせたいもの。私だってたまにはそうした物も食べたいし。いつも同じ物じゃ飽きちゃうから。だから週に何回か来て、作ってもらうよ。後は自分で温めて食べるとか、その時間に又来てもらって温めて出してくれて帰れば、後はこの子だってお皿位洗えるでしょ。」 「あんた、どうしてもそんな事をするって言うの?!」
「うん、そうだよ。お母さんが作ってくれないんなら。」 「分かったよ!じゃあ作るよ。」 「本当だね?」 「本当だよ。やるよ。」 「じゃあ、頼むよ。それで、もしそれをしないんなら、直ぐに誰かに頼むからね。そんな事なら、普通の主婦なら簡単な筈だから。唯、カレーだとかそうした物を作って置いとくだとか、食べらせてくれるだけなんだから。」 そうして、やっとうちも普通にそうした食事ができる様になった。私もやっと、カレーやオムライス、ハンバーグや唐揚げが極当たり前に食べられる様になり、唐揚げの美味しさも知っだ!今までは、母とデパートの食堂でだけ、カレーやスパゲッティやその他好きな物を食べていただけだが。 そして、不思議な事に祖母はそうした油っぽい料理を作り出してからは、自分もそうした物が好きになっていったのだ。そして意外にも?、味は悪くなかったのだ。
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