### 叶う直前の願いの形

わたしが

何を望むかを

お姉さんは丹念に聞いた。


「あの人の隣に

 ずっといたいです。それだけです。」


「おすすめしないよ。」


「その男以外の知人を、

 こちらに引き摺り込むことならできる。

 さっきも言った。やってもいい。

 でも、

 魔術師級の人間を

 このセカイに

 進入させる訳にはいかない。

 私達のあり方が

 彼に侵されてしまうからね。

 だから、

 向こうに帰ってもらうしかない。

 ここと違って

 国が民衆のための存在でない

 そんな

 セカイに

 帰りたいのかい?

 何らかの革命が永遠に

 必要なセカイに。」


こくりと肯くわたし。


「本当にいいんだね?」


「一人ぼっちの

黄昏の魔術師を

救ってあげたいんです。

きっと

わたしだけにしか

救えないから。

わたしだけは

ずっと彼の味方だから。

わたしの夢は

それだから。」


「頑張りたいから!」


お姉さんが

その縁に腰掛けている

古井戸は

ちょうどに作られた蓋を

三分の一程度、

外側に余らせていた。


井戸の底に開かれていた真っ暗闇と

夏の雲のまとまり方が

どうして

似ていると思ったのだろう?

夕立の後なら

思わなかったに違いない。

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