### 全てが真となるセカイ

目が覚めると

付けっぱなしにしていたTVでは、

ニュース番組が流れていた。

嬉しいニュースばかりが取り上げられ、

体験に基づいた洒落が効いたコメントが

腹を抱える程に

笑わせてくれたので

私は、

二度寝をせずに済んだ。


今日は良い日かもしれない。


スケジュールを確認して会合に出向く。

やけに静かな街に違和感を覚えながら、目的地に向かう。


会合の後の打ち上げでは、

日常の何気ない話が明るいユーモアで語れていた。


そんなときに、ある若者がこう言った。

「Dの原則からCはBであるからAです。」


面白い主張をする若者に私はすぐに反応を返した。

「それは常には成立しません。

 EにおいてDが常に真だとは限りません。」


すぐに私は冷ややかな視線を浴びていることに気付く。

冷たい視線の理由を考えながら、

何気ない会話に恐る恐る参加していたら散会の時間を迎えた。


帰り際、ニコニコとした中年者から

「誰かの意見を否定することはイケナイことですよ。」

と柔らかな調子で忠告された。


「いや、E全体を考えるとCが常にAだとは言えないので。」

嗜めるように反論すると、

中年者も嗜めるように言い返した。

「それはあなたの考えでしょう。それに誰もEの話なんてしていませんよ。」


「AとBとCを考える上で

 Eを考えないというのは、明らかに問題があります。

 Eが存在しないならば、AもBもCも存在できず、Dも全く成立しません。」


怪訝な顔をして答えると、怪訝な会話が始まった。


「それは私の理解の外の話です。

 どうしてもEの話をしたいなら、別の場所でして下さい。」


「いや、Eの話は一般的な話ですから、

 ここでしてはいけない理由はないですし、むしろ必要でしょう?」


「それもあなたの意見ですよね。別にEの話は必要ないですから。」


「Eが成立していないとこの会も成立しないのでは?」


「現状で十分に成立しているではないですか?Eを考える必要ないです。」


「現状が良くてもEがおかしくなれば、どこかで破綻します。」


「具体的な根拠もなく

 破綻すると決め付けないで下さい。

 目の前にあることだけを考えるべきです。

 絶対に正しいことはないですし、全てが正しいのです。

 用事があるので失礼します。」


中年者は去った。

怒らせてしまったのか。


珍しいものをみたかのように私達の会話を聞いていた

別の参加者と目が合った。

柔和な雰囲気と理知的な眼光を備えた人物だった。


「どちらが正しいと思いますか?」

その参加者に意見を求める。


「それは、それぞれが判断することです。

 Eを否定しませんが、

 人それぞれがEが存在するか自由に決めて良いと思います。

 そもそも、私はEの話を初めて聞きました。」


そんな訳がない。

小学生でもEは知っている。

それに、

Eなしではあらゆる法則が破綻する。

問いを重ねる。


「ここは現実のセカイですよね?」


その者は

キョトンとした後に、

少し間を置いて、答えた。


「親切心で言わせて頂きますが、

 病院にでも

 行かれた方がいいですよ。」


キョトンとしながら

病院に行く必要を生じさせる理由を

考える私に、

更に呟きが重ねられた。


「ここは虚偽のセカイです。」


このセカイの言語がどう成立しているかを探求することと

このセカイを消尽させることと、

どちらが有意義であるかを考えて、

病院に行く必要がある可能性を棄却した。

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