### 残り香
あの
無骨なコンクリート造りの
内装が程よく優美な
堅牢なホテルは
私の街に存在しなかった。
聞いて回っても、
無関係の喫茶店の老店長にも
そんな建物は
存在しないことが
確たる答えとしてあった。
今
このセカイに
彼女は存在していないのか?
涙と汗に区別を
付けられない顔をして
名子と一緒に見た空だとしか
思われない
何時のものだか
判別できない
空の下をくぐり
一人で家まで帰った。
シャワーを浴びる。
10日程前の参議院選挙の
結果を動かした魔術の代償だろうか。
彼女が
ふざけて
包まっていった私の龍の羽衣。
手に取ると
彼女の香りがする。
私の前から
消えてしまった
儚いほどに純粋な子。
龍の羽衣に
香りだけを残して。
この香りは、
香水だろうか?化粧品?
シャンプーかトリートメントの類の
匂いだろうか?
そんなこともまだ話していない。
好きな音楽や
好きな食べ物の話もしていない。
嫌いなコメンテータの話さえも
していない。
まだ、
彼女は
このセカイにいるのかもしれない。
ひょっとしたら、
私は
既に彼女と出会って
時間を
過ごしているのかもしれない。
そうでないなら、
想い出の香りは存在しない筈だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます