### 大人の自己紹介
名子と自分の名前を紹介しても
誰も怪訝に思わない
それでも、ずっと
わたしは自分の名前が嫌いだ。
わたしは明るい子ではない。
どんな漢字かを教えると
少し珍しい漢字だと言われるから。
あの時に
名前の漢字はと聞いた
少しイケメンの
正義の味方風の警察官に
氏名のメイですと答えた時、
フザケナイデ
って
静かに凄まれたけど、
きっとその人は
ふざけてると思っただけだから。
姓はもっと嫌いだから教えたくはない。
教える必要がある学校や警察やお役所とは
できるだけ関わりたくない。
銀行も。
わたしは
字面を見れば大体のことが解かるから
勉強がよくできた。
母親は
大学まで行かせると
言ってくれていたけれど、
わたしは勉強することができなかった。
今の社会が根本的におかしいと
ずっと小さい時に気付いていたから。
今の社会が人間を幸福にするために
設計されていないと気付いていたから。
社会的成功に興味が持てなかった。
絶対に今の社会になんか貢献したくない。
このセカイは虚偽と理不尽でできている。
時々、
とても美しいもの
とてもおいしいもの
とても良い匂いがするもの
そんなものがあることは知っている。
ほとんどはとても高価なものだ。
本当のお金持ちでなければ、
なかなかありつけない。
馬鹿しかいない高校を辞めて、
馬鹿だとしか思えない母親を捨てて、
わたしは
1人きりで
馬鹿しかいない男達を相手に
自由を切り売りすることで
美しいものを愛でる生活を始めた。
薄汚いもので
薄汚いもののない
自由な時間を買うようにして
もう3年が経つ。
もうすぐ二十歳になるけれど、
わたしは
いち早く
大人になれたのかもしれない。
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