第5話 すきだからこそ

1 早朝の海老名駅

「あれ、なんでみんな、もう集まってるんだろう?」

 御波は集合時刻5分前に海老名駅のコンコースにある柱の待ち合わせ場所についた。

「遅い! 5分前!」

 華子が言う。

「うむ、旧海軍以来、予定時刻の5分前に行動するのが常識なのだな」

 総裁もそう続ける。

「だって、集合時刻5分前集合って、わたされた計画表に書いてあったから」

 御波は理解できないでいる。

「ならばその5分前に集まるべきだな」

「えええーっ!! じゃあ、10分前に集まるの?」

 御波は驚きの声をあげる。

「ボクなんか、10分前に集まるだろうなーと思って、15分前から待ってましたよ」

 カオルも困った声で答える。

「わたくしは念には念を入れて20分前からですわ」

 詩音もため息をつく。

「私は海老名の入換作業の撮影ついでに30分前から。ヒドイ!」

 ツバメまでそう言うので、御波はへなへなと出鼻をくじかれて崩れたのであった。

「30分前に集まるとか……非常識でヒマな」

「うむ、光画部時間とは逆に時差が働くのだな」

「また『究極超人あ~る』ネタ。読んでる人も思い出すのが大変ですよ。あれ何年前の話だと思ってるんですか」

「本は全部暗記するほど読んでこその読書だと教わったのであるな」

「ボク、忘れる、ってのがよくわかんないんです」

 カオルはそう言って、みんなびっくりする。

「え、忘れないの?」

「ええ、完全記憶です。読めばすぐ覚えちゃいますから。だから円周率表とか読んじゃうと、どんどん覚えちゃって」

「それすごく便利ね。勉強ラクラクよね。ヒドイッ」

「……でも、それ、しんどくない?」

 御波の言葉にカオルは考え込んだ。

「まあ、それはそれで良かったことと悪かったことがそれぞれだと思いますけど」

 カオルの表情が複雑になった。

「それはまあのちのち話をするとして!」

 ツバメが話を切った。

「なんです! この旅行予定表!」

 ツバメがプリントを出す。

「うむ。電鉄の今年のGW企画は、トランプラリーなのだな」

「おかしいじゃないですか。昔電鉄の開業60周年でやって、子どもの駆け込み乗車とか構内暴走とかで電鉄さんこりちゃって、二度とやらないことにしたはず! しかもあれは夏休みでしたよ! なんでこんなゴールデンウィークにそんな企画ぶつけるんですか! リアリティがない! 必然性がない! ヒドスギル!」

「まあまあ、ツバメさん、これは『フィクション』なんですのよ」

 詩音がそういう。

「うわっ、言っちゃったー!」

 みんな一斉にズッコける。

「でも、そうですわよ? 私たちは実在しないんだし、海老名高校も鉄研も実在のものとは何の関係も無いんだから。せいぜい作者が昔通ってたとか、その程度の話ですのよ」

「作者、海老名高校に通ってたんですか? 自分切り売りにも程がある! ヒドイっっ!」

 詩音はその言葉に笑う。笑うときにちゃんとハンカチで口を隠すところとか、現実味のないほどのお嬢様であり、それをみんな一瞬見惚れてしまった。

「あああ、詩音ちゃん、癒し系中の癒し系だよ!」

 と御波は思わず抱きついてしまうほどである。

「御波ちゃん、なにやってんの! いいから離れて!」

「私は今、詩音ちゃんで充電してるんです! ああああ、癒される~」

「ああ、ワケガワカラナイヨ!」

「うむ、さすがに6人もいると、誰がどうしゃべっているのかがわからなくなるのであるな」

「で、顧問の先生は?」

「それが」

 ツバメがケータイの画面を見せた。

『どうしても抜けられない用事が出来たので休みます。あなたたちで頑張って』

「なんですってえ!」

「バックレた……」

「みんな、そこは察してあげましょうよ。先生も御歳30代後半だし」

「まさか、デート!?」

「というか、婚活なんだろうねえ」

「うむ、顧問の先生にも、自身の女性としての人生設計があるのであろう」

「総裁、あなたに人生設計はあるの?」

「死して屍拾う者なし」

「聞くんじゃなかった」

 ひとしきりワイワイと話したあと。

「さて、そろそろ『作戦』前の説明の定刻であるな」

「そういうところは定刻通りなのね」

「うむ。定時定刻にただ今到着なのだな」

「それ、微妙に正確でない気がするけど」

「では、まず。作戦参謀のカオルくんに説明をしてもらうぞよ」

「作戦参謀……まあ、それもいいとしましょう。ええ。めんどくさいし。

 まず、電鉄・初夏トランプラリーへの参加とラリー完遂が今回の目的です。

 ラリーの概要は、トランプケース付きトランプラリーフリーパスを購入、電鉄の全70駅のそれぞれの改札口においてあるトランプを集めるものです。

 限られた時間内でトランプを入手するのがポイントです。

 ちなみにこのイベントは実在しません。1987年、電鉄の開業60周年で行ったものを作者の脳内でリバイバルするものであり、ツッコミざかりのみなさんはあえてここで忍耐を学んでいただく、ということで。てへ」

「てへ、じゃないでしょう! これ、非難ゴーゴーですよ! ヒドイ!」

「そこは、とはいえ、であるな。実際の実在のイベントのレポなんかやったところで、そんなものは他の誰かがやるのであるから、それはそれに任せて良いとして、我々は我々の道、我々の示すべきものを目指さんと欲すのであるな。そこにフィクションとしてこの話を行う意義、意味があるのだ」

「なんか、そういう言い訳で作者の都合バリバリですよ……ヒドイ!」

「ともかく、みんなでホームに降りましょう」

「その前に」

 総裁が前に立った。

「家に帰るまでが鉄研旅行なのである!」

「遠足のときの校長先生の定番……」

「そして、ゼロ災で行こう!」

 総裁のその掛け声に、みんなはきょとんとしたが、すぐに理解し、手を合わせた。

「ゼロ災で行こう、よし!」

 みんなの声が揃い、コーラスになった。

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