第4話 レベルF

1 女の、戦い(前編)

「まあ、そりゃ、出来立てのほやほやのこの鉄研に、貴重な部室がまるっと1つもらえるとは思わなかったけどさー」

 部室は薄暗い部屋。ロッカーが2つ並び、部屋は真ん中でパーディションで区切られていてさらに暗い。窓は奥側に小さなスイング式の窓が一つ、開閉できない窓が一つあるだけ。ちょっと配管すればトイレになってしまいそうな作りだが、実は噂によればそのとおりだったらしい。ちょっとジメッとして、外の最近の暖かさに比べてちょっと薄ら寒い。

「でも、自分で建てたりしなくてすむだけマシよ。『究極超人あ~る』の光画部は部室を建てなおしてたもん」

「とは言え…」

 皆が、その真中の机の上の、リバーシの盤に注目している。

 片方は半ベソの御波、そして片方は……。

「まさか、1年生にして早くも『王子』と呼ばれる美形女子が、こんな囲碁将棋部にいるとは」

「王子はともかく、囲碁将棋部をそう言われるのはボクとしては大変心外ですよ」

 その美声に詩音は気を失いそうになっている。

 鉄研と囲碁将棋部はこうして相部屋にされてしまったのだ。

「つまりはそういうことだ。うむ、『カオル王子』とやら、格好のやおいネタである」

 と総裁が華子と彼を見ていう。

 確かにふたりとも、背が高くボーイッシュである。

「やおいっていうなー!!」

 華子が真っ赤になって怒る。

「これで華子がバカでなければ最強ペア、ツインタワーだったのになあ」

「勝手にカップリング組まないでくださいよ。それに対局時計、ボクだけハンデあり、って、ひどくありません?」

「よいではないかよいではないか、世にプロボクサーと素人が喧嘩になった場合、ボクサーは公判において問答無用でその体が凶器あつかいされるとも聞く。キミの頭脳はすでに十分な凶器であると思うのだが。そうは思わないかね。カヲルくん」

「カオルです。「kaworu」ではなく「kaoru」です」

「キミも親にその名を付けられて生まれた時からその名を後悔したであろうの」

「そのマワリクドスギ攻撃は通じませんよ」

「さすがである。期待通り、いや、もはや測定不能のパターン青、最後の仕組まれた子ども、シックス・チルドレンなのだな」

「エヴァネタもボクには通じません。TV版全24話で『ボクのエヴァ』は終わっているんです」

 何歳なんだこの子は。

「うむ、さすが最強の使徒だ。かくなる上は決戦女子高生形描画兵器ツバメ初号機を」

「でも、私のイラストでは勝てません! というか、どう戦ったらいいかわかんないし! ヒドイ!」

「ペンは剣よりも強いとも言うではないか」

「剣とは心外です。ボクはリバーシと将棋と囲碁と数学と物理と化学とプログラミングに強いだけですよ」

「カオルくん、それだけ強いものがあれば、十分私達には脅威よ……」

「さすが最後の使徒。『ロンギヌスの槍』が必要と思われ」

「あれ、総裁、今日は艦これネタあんまり使わないんですね」

「そうね。第3話のアレに総裁閣下はお怒りのようです」

「おっぱいプルンプルン!」

「それはYouTubeの『総統閣下MAD』ネタですよ」

「だいたいあの子が轟沈した後に、『てへ、轟沈しちゃった……。みんなは轟沈しちゃダメだよ』ぐらいにしておけばよかったんだ! チキショーメー! 今すぐルーデルを呼べ!」

「なんか、ガルパンMADネタまで混ざってきてる」

「うむ、魔改造は日本と皇軍の伝統芸能なのだな」

「芸能なんですか……芸じゃなくて」

「それより!」

 総裁がポーズをキメる。

「この最後の使徒を仕留めねば、我々ジオフロント鉄研本部は破壊され、セントラルドグマに侵入を許し、サードインパクトを導いてしまうのだ! マルボロジレ全層緊急閉鎖、目標の侵入絶対阻止を」

「侵入してきたのはあなた達ですよ。囲碁将棋部は昔からここにあったんですから」

「でも部員は一人よね」

「まあ、でも先生方はここに囲碁将棋部を置いておきたいでしょう」

「そうだよなあ。ここだったら先生たちが昼休みに将棋指しにきても、誰も文句言わないもんなあ」

「『紳士の社交場・鉄研』!」

 総裁がそう叫ぶ。

「そろそろゆうきまさみ先生が怒るわよ」

「それは大丈夫なのだよ。こんな場末のこんなドグサレた小説にまで、お忙しい先生が目を通されるわけが絶対にないのだな」

「パトレイバーの話聞きたいなあ」

「ああ、それはたぶん無理だと思う」

「そういうこと言わないの!」

 (著者)どうなんでしょうね。

「で、戦況は」

「だからこういうの苦手だって言ったじゃないですかー!!!」

 のけぞった御波が目にいっぱいの涙を浮かべている。

「マッシロ……完敗」

「リバーシにも解法がありますからね。そこは幼い頃から研究検討してますので」

「ぐぬぬ、なんという分厚い強力なATフィールド。では初号機の前に弐号機・詩音をしてこの使徒を撃滅せしむものなるが」

 振り返ると、詩音はすでに顔をすっかり赤らめて気絶しかかっている。

「うむ、弐号機・詩音はこういうのに弱いのか」

「たまりませんわ……。もう、あまりにも完璧なカップリングすぎて、妄想が捗りすぎて止まりません……。もう、どちらが受け攻めでもじつにステキで……」

「えー! なんでオレが入ってんの! 勝手にいれないでー」

 華子が抗議する。

「まあ、ほんとツインタワーよね」

「うむ、弐号機はすでに使徒の精神汚染によって無力化されておる」

「あとあたってないのは、総裁とツバメちゃんね」

「斬られた使徒の体液がどばーっ! しかしゲンドウ司令動かず!」

「だからエヴァネタがしつこすぎます。しかもキラは司令ではなく部長でもなく鉄研総裁」

「さふであるな」

 総裁は、そう受けるとすっくと立ち上がった。

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