第2話 駅撮りは午後のお茶の後で
1 高校の階段
「とりあえず鉄研を本当に作っちゃった以上、部員をふやさないといけないわね」
ツバメと御波は、冷ややかなクラスをこっちからもガン無視することにして、休み時間はすぐに廊下に出て、キラと階段のところで落ち合う。
「かと言っても『バイオ
「なんで先の大戦中にインパール作戦って旧軍のめちゃめちゃな大失敗やった人のアンサイクロペディアネタなんですか! ヒドイっ!」
「ツバメちゃん、つまり、それは『下手に
「おおおー、御波くん、ワタクシはまさしくそれが言いたかったのだ!」
「あの、なんで御波ちゃんがキラの通訳してるの? というか、御波ちゃん、毎回そんな力技使わなくていいのに。私も通訳しなくてもそれぐらいは分かるから。……疲れるけど」
ツバメはため息を吐いた。
3人は階段の一番上の踊り場から足を下の段におろしてお弁当を食べている。
「部室ほしいー。私達の溜まり場にできる部室ほしいー」
「ただの同好会に部室なんて贅沢は無理よ」
「早く部員ふやさないとなー」
ツバメがまた口を尖らせる。
「キラの口調に疲れた体を休められるソファーとかあればいいなー」
「あ、そうだ、部室できたら電子レンジ置いちゃいましょうよ。お弁当温められる!」
「冷蔵庫も! おやつ冷やせる!」
「テレビも設置するがよかろうの。情報収集に役立って大変ヨイぞ」
そこでふーっ、と3人は溜め息を付いた。
「言うだけならタダだもんね。そんなのどうやって揃える? 無理無理」
「無理よね。すでに部室どころかキラの口調にも疲れちゃってるし」
「あー、疲れるのかー。かもしれぬ。これは大変恐縮であるが、ちょっとしたキラ式言葉エクセサイズと思ってくれたまえ、だなー。頭脳が活性化されて、健康に大変よろしいのである」
そんなわけがないよね。
「なお以降、わが鉄研は鉄道研究公団であるのでそのトップは総裁であるからの。ワタクシを鉄研総裁、御波くんを鉄研副総裁と呼ぶがヨイのだ」
「え、じゃあ私は?」
ツバメが口を尖らせる。
「うむ、ここは鉄研取締相談役と呼ぶべきか」
「なんでそんなのに」
「『それなら
「総裁も何『金融腐蝕列島・呪縛』の仲代達矢さんの真似してるんですか。それ言いたいだけだったんじゃないんですか」
「……御波ちゃん、よくそんなのわかるわね」
ツバメが驚いている。
「中学の頃、学校行かないで昔の映画のDVDばっかり見てたから」
「そうなんだ」
一瞬、御波の中学生活の辛さを想像して悲しくなったツバメだが、総裁はそれにかまわないのか、それともそれをさらに深く気遣ったのか、また口を開いた。
「それはともあれ、部員を増やすのも喫緊の課題ではあるが、ここは3人のこの少数が精鋭であるかどうか、さっそく実地試験をしたいところなんだな。『少数であるが精鋭ではない』という由々しき事態は避けたいぞよ」
「実地試験?」
「まずわが『乙女のたしなみ・テツ道』は、往年の名優・勝新太郎曰くの『飲む! 打つ! 買う!』ではない。もっと多岐にわたるのだ。
すなわち『乗る! 撮る! 聴く! 読む! 作る! 買う!』の道であるのだな」
「なんですかそれ。要素多すぎ。ヒドイなあ」
「つまり、乗り鉄、撮り鉄、音鉄、時刻表鉄、模型鉄、コレクション鉄?」
またさらりと変換する御波である。
「さふであるのだ。そのうち、ワタクシが思うに、我々の目下の使命は、ミッション1、このわが根拠地かつ艦隊鎮守府周辺の海域にはびこる不埒なる敵潜水艦を撃滅せよ! 作戦への出撃にあるのだ。
出撃はいいね。新しい
でも夜戦は? もっと~好きー!
そう思わないかい? ツバメ君」
「なんか、『艦これ』ネタにいろいろ混ざって……ヒドイ!」
「ははは。たとえば、かようなボーキサイト」
総裁は高校の購買部で買った一番安い昆布おにぎりを見せた。昼ごはんらしい。
「これを安逸に消費するに甘んじていては何も成せない。この田んぼの真中の鎮守府で大型艦建造を待つだけでは高校生活の3年があっというまに
そういう総裁の体は、今こうして見るとやたら筋肉をともなってむっちりとしたいい体である。そしてその形の良い胸を見てツバメが一瞬目を他にやる。ツバメは自身の胸の小ささにコンプレックスを持っているのだ。
「え、ツバメちゃん?」
「気にしてない!」
ツバメは否定にかかる。
「うむ、斯様なコンプレックスは無理に解決するよりも他の関心事で忘れるがヨイぞ」
「総裁何言ってるんですか。ヒドイっ」
ツバメは真っ赤になっている。
「うむ、よって、直ちに艦隊を編成し、出撃せんとす! 本日天気明朗なれども波高しなのだ!」
「それは、『放課後、近所の駅に行って撮り鉄しながら迷惑鉄がいないかパトロールし、なおかつそこで見つけたいい子をうまくいけば部員に勧誘』ですね」
「なぜにムダな艦これネタ、しかも御波ちゃん細かい総裁専属通訳ご苦労様です……ヒドイ!」
といいつつ、3人はやたらと笑っていた。
クラスはどうでも良いとして、早くも3人はこの新高校生活をすっかりこうして満喫し始めていたのだった。
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