第43話 成就
【西暦20××年4月17日8時8分】
「ソフィア、聞こえるか。もうそろそろクールダウンだ。よく頑張った。少しずつ、中央のレバーを降ろすんだ。出来るか、ソフィア」
大河は、語りかけるようにソフィアに言った。
それを聞いたソフィアは、渾身の力を振り絞りゆっくりとレバーを戻す。
明らかに、酸素の供給が足りないのであろう、ソフィアの動作は重かった。
やがて、リアクターの爆音はゆっくり静かになっていく。
すぐさま、大河はパネルのバロメーターを確認した。
見ると、グリーンの色がマックスに達しており、それはミッションが成功した事を示していた。
遂に2千年前に作られた『月物語』は、異星人の思惑通り成し遂げられ、また、それによって人類は救われた。
「ソフィア、聞こえるか? ソフィア! 成功だ、成功した、君のおかげで地球は救われた!!!」
大河は、大声で叫んだ。
パネルには、ソフィアの頭が揺れていた。
もう、ぴくりともしない。
大河は頭の中が真っ白になった。
最悪のシナリオである。
「なんて事だ、これじゃ意味がない。君が生きていないと意味がないんだよ、ソフィア。返事をしてくれソフィア・・・」
パネル奥のソフィアの姿は、それでも静止したまま動かない。
マウスピースから空気が漏れている様子もなく、ソフィアの生死は絶望的であった。3人は、その姿を見つめるしかなかった。
やがて、パネルの画面は次第に消えていき、タワーの照明も少しずつ消えていった。
ぎりぎりの所で、人類は生き残った。
ソフィアという、このミッションの立役者の犠牲によって・・・
やがて、3人は、タワーの外に出た。
タワーの青白い炎のような光りが、表面から消滅しようとしている。
そして、すべての通信をまかなっていたと思われる頂上部分の回転も、次第に止まっていった。
それは、すべてのミッションが終了した事を意味していた。
辺りは、すがすがしい新緑の中、小鳥がさえずり気持ち良い朝を迎えていた。
【西暦20××年4月17日8時22分】
大学に戻った長澤は、ソフィアに代わって国連にミッションが成功した事を連絡した。
その情報は、瞬く間に世界へと発信された。
また、ジョセフは、ホワイトハウスにミッションの成功を報告した。
ホワイトハウスでは、大統領とNSA副長官が沖縄からの連絡を首長くして待っていた。
「よかった、ありがとう、ジョン。君達は、アメリカ合衆国の誇りだ。本当に感謝するぞ。ところで、ソフィアの方はどうだ。まだ、リアクターから出てこないのか?」
ウイルソンは、ほっとため息をつき言った。
それから、ウイルソン、ソフィアの叔父のアーネスト副長官は、与那国島に行ったソフィアを心配した。
「実は・・・」
ジョセフは、事の次第を声からし説明した。
それを聞いた2人は、絶句する。
そして、暫くし頭を抱えるウイルソンを尻目に、アーネストがジョセフに言った。
「ジョン、本当にご苦労だった。ソフィアは、この地球のためによく頑張ったと思う。残念な結果に終わったが、ソフィアの仕事は合衆国、いや、全世界にその功績が称えられるだろう。きっと、彼女も天国よりこの地球が救われた事を喜んでくれていると思う。つらいが彼女の両親には、私の方から連絡する」
アーネストは、更に一呼吸し続けてジョセフに言った。
「ジョン、申し訳ない。疲れているのは重々わかっての事だ。あえて君に頼みがあるのだが・・・」
ジョセフは、すぐさま答えた。
「なんでも、言ってください」
アーネストは、目頭を押さえながら言った。
「今からすぐ与那国島に行って、ソフィアの亡骸を回収してくれないか? そして、少しでも早くこの国に連れ戻して欲しいのだ」
「了解しました、副長官! すぐ行ってきます!」
ジョセフは、ホワイトハウスとの連絡が終わってすぐ長澤に頼み、与那国島行きを手配して貰った。
現地では、アイゼンハワーがソフィア回収を必死に試みていたが、肝心のリアクター入り口が開かずどうにも出来ない状況だとの連絡が入っている。
大河は操りし使者ではないが、恐らくリアクターを開けられるだろうとの事で同行した。
それでなくとも、現地には行くつもりであったが、念のため大河でリアクターの入り口が開かなかったら困るので、ハワイのマウアにも至急声がかかった。
与那国島は、人口1500人ほどの小さな島であるが、ジェット機が着陸できる滑走路があるので、マウアの移動には直接F18ホーネットを使って向かってもらった。また、沖縄からは今回もオスプレイが準備された。
日はもう既に上がり、気持ちよい風が吹く晴天の中、時間は10時を過ぎようとしている。
大河達3人は、陽光の中ソフィアが眠る与那国島のリアクターに行くため首里城を出発した。
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