第41話 与那国島の海底遺跡

【西暦20××年4月17日3時15分】

 ソフィアが大学に戻ると、長澤が駆け寄ってきた。

「ソフィアさん、今自衛隊から与那国島という島にリアクターが出現したと連絡が入っています。なにか、心当たりがありますか?」

ソフィアは、長澤が持ってきたタブレットに写っている現地の自衛隊が写した映像を見ながら言った。

「長澤、あれは私のリアクターよ! 私を、現地に連れて行く段取りを準備して!」

「えっ? 今、なんと?」

長澤と一緒にいたジョセフは、お互い顔を見合わせ驚いた。


「そうなの。私が7人目の操りし使者だったのよ。大河が教えてくれた。エスタナトレーヒは、最初から、私に伝えし使者の役目が終わった後、引き続き操りし使者としての役目を負わせるよう仕組んでいたの。この事は、どこかにヒントがあったのかも。今となっては、大河が気づくまでわからなかったけど」

それを聞きながら長澤は間髪入れず、嘉手納基地のアイゼンハワーに至急連絡を取る。

長澤も、時間が無い事は嫌と言うほどわかっているのだ。

次の一手は、抜かりなかった。

連絡を受けたアイゼンハワーは、首里にオスプレイを向かわせる。

目的の与那国島までF18ホーネットを飛ばす手もあったが、現地から届いた空港からリアクターまで離れているとの情報から考えると、それからわざわざヘリに乗り換えて行くのは時間の無駄であった。

そうであれば、直接リアクターまで行けるオスプレイの機動性が有利とアイゼンハワーは考えた。

ミッションは、ハワイのマウアに移りつつあり一刻の猶予も無い状況となっている。オスプレイであれば、そのままリアクターで現地に行けた。

しかも、今度のリアクターは海の上にそびえたっているらしい。

なおさらである。

20分ほどすると、首里城の広間にMV22オスプレイが爆音を立てながら降りてきた。

アイゼンハワーが、後尾の入り口から手招きをしている。

「ソフィア、さあ行くぞ! 早く乗り込め」

後の段取りと、大河への連絡を密にする事を長澤とジョセフに伝え、ソフィアはオスプレイに乗り込んだ。

「話は大体聞いている、ソフィア。今回、いつまで経っても一筋縄ではいかないな。異星人よ、これで最後にしてくれよ!」

そう言いながら、アイゼンハワーはパイロットに離陸するよう命令した。

ヘリモードで飛び立ったオスプレイは、そのまま飛行モードに切り替え全速力で与那国島へと向かった。


【西暦20××年4月17日4時55分】

 与那国島は、日本の最西端に位置し、世界最大の蛾である『ヨナグニサン』が生息し、ハンマーシャークが群れをなす事で有名なダイビングスポット等がある自然豊かな島である。

そこの南にある新川鼻(あらかわばな) という断崖の岬からわずか100メートル沖合海底に、『与那国島の海底遺跡』と呼ばれる神秘の遺跡が眠っている。

海底遺跡の全長は、東西方向に約250メートル、南北方向に約150メートル、高さは26メートルあり、普段頂上部の約1メートルは海面から出ている。

ダイビングスポットにもなっており、人々が見るその外観は、まるで巨大な山城かピラミッドのようである。

その横に出現したリアクターは、あたかも遺跡の一部のようにそびえ立っていた。

かつてここ一帯は、島の一部であったが沈降により海に沈んだと考えられている。

リアクターの横にある海底遺跡には、諸説があった。

そこに文明があったとする説と、自然に出来たものであるとする説があり、学者の間でも意見が分かれた。

諸説はどうであれ、国も自然遺産に登録しようとする動きがあるぐらい立派なものである。

世界各地、このような不思議な遺跡はいくつもあるが、沖縄には本島付近や本島に近い離島にもこれに似たストーンサークルのような遺跡がある事はあまり知られていない。

ともあれ、今はこの『遺跡』が異星人と関係があるなどという検証を行うような時間もなければ余裕もなかった。

とにかく、ソフィアはミッションを引き継がなければならない。

それだけである。

さもないと、地球、いや人類は間違いなく滅んでしまうのである。

あれだけ栄華を誇っていた恐竜が滅んだように、月が地球の一部となりそれに伴ってたとえ人類が滅んでも、地球の長い歴史を1冊の本にたとえるなら人類の歴史などほんの1ページにもならない。

でも、恐竜には無かった、絶え間ない危機を回避するという知恵や勇気、そして、マネジメントを含む行動力を人類は兼ね備えている。

だからこそ、異星人も人類とその文化、文明を絶やす事に気が引けたのであろう。

自衛隊の報告では、リアクターの底部は海につかっていた。

という事は、リアクターに入るには海に潜るしかない。

ソフィアは、アイゼンハワーからその事を聞き愕然となった。

ソフィアは、金槌であった。

泳げないのである。

それを聞いたアイゼンハワーが、初めてまじめな顔で言った。

「ソフィア、大丈夫だ。俺が連れて行ってやる。任せておけ。おい、言っておいたダイビングスーツは用意できたか?」

部下にダイビングセット一式を用意させ、ソフィアに言った。

「さあ、準備だ。着替えろ、ソフィア!」

アイゼンハワーは、リアクターが海に浸かっていることを聞き準備に抜かりなかった。

ダイビング一式を前に臨時のカーテンが引かれた。

その中にソフィアは入れられ、着替えさせられた。

ソフィアに与えられたダイビングセットは、初心者用のマスクとマウスピースが一体型となっているものである。

これなら、素人でも何とか潜れる。

ソフィアは、学生時代は勿論プールで泳げなかったし、成人になってからも水着すら着た事がなかった。

慣れない様子でダイビングスーツを身につけながら、ソフィアはアイゼンハワーに愚痴った。

「司令官、私泳げないのよ。異星人は、そこまでわかって私を選んだのかしら? もうほんと最悪!」

アイゼンハワーが、またまじめ顔で言った。

「たぶん、そこまでできると思って選んだのだよ、きっと。大丈夫だ、ソフィア。やはり、最初から最後まで君がターニングポインターになっているのだな。さあ、しっかり最後を締めようぜ、お嬢さん! たぶん、20mは潜らなければ入り口までたどり着けないだろう。そこまで、俺が連れて行ってやる!」

ソフィアは、アイゼンハワーの言葉に頼もしさを感じた。

「司令官、これが成功したらブルーシールのマンゴーソフトおごってくれる?」

ソフィアの無茶ぶりに、アイゼンハワーはその場の空気を読み快諾した。

「おいおい、そんなの朝飯前だ。帰ってきたら、基地にある売店に並んだアイスは全部君のものだ。勘定は、まかせておけ!」

そんな会話をしているうち、オスプレイは与那国島上空へと到着した。

島の南に、青白い炎のような光りを放っているリアクターが見えてきた。

一行のオスプレイは、飛行モードからヘリモードに切り替えた。

そして、リアクターの近くまで行き上空で待機した。

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