第40話 7番目の操りし使者

【西暦20××年4月17日0時11分】

 ソフィアが去った後、サンクトペテルブルグのリアクターで頑張ったパシキロフのミッションは終わり、南アフリカのテーブルマウンテンにいるラッキーへと受け継がれた。

「パシキロフさん、ご苦労様。クールダウンをお願いします」

パシキロフは、大河の言うとおり操作する。

「後は頼みましたよ、大河さん。神が味方をしています」

パシキロフがそう言うと、パネルの画面は南アフリカへと移った。

大河は、ラッキーに発射の命令を指示した。

「ラッキーさん、打ち合わせ通りお願いします!」

「了解だ、大河。ファイヤー!」

ラッキーのリアクターが、怒濤の音を立て月へと青い光りの矢を放つ。

ミッションは、ラッキーの時も順調に進んだ。

NASAの観測では、月の自転の速度、軌道共に変化が顕著になり地球から徐々に離れていくのが目視でも確認された。

最悪、このまま遠心力で永遠に地球から去っても良かったのだが、異星人の説明ではこのミッション後、月は元の位置に戻るという。

しかし、それもミッションが成功したらの話だ。

失敗すれば、月は落下し地球の一部となる。

大河は、南アフリカのミッションが落ち着くのを確認し考えた。

いや、ただ考えるだけでなく、全身全霊、渾身の力を込めて考えた。

「このミッションには、我々がまだどこか見落としている何かがあるはずだ。考えろ、大河。考えるんだ・・・」

火事場の馬鹿力とは、その人の能力以上のものを引き出せた時に使う言葉だ。

まさに、大河は頭の至る所にアドレナリンを放出し、その馬鹿力を出そうとしていた。

しかし、その努力むなしく時間は刻々と過ぎていく。

大河の不安とは裏腹に、ミッション自体、ラッキーも順調に進み終わりを告げようとしていた。

「ラッキーさん、予定通りクールダウンをお願いします。続いて、ダスティン、用意はいいかい?」

大河の問いかけに、待っていましたとばかりダスティンが答える。

「長らく待ったぜ、大河。さあ、とっととやっつけてしまおうぜ!」

大河は、ラッキーのリアクターが完全にクールダウンする前にダスティンに合図した。

「今だ、ダスティン。発射だ!」

「ファイヤー!」

ダスティンは、大河の指示通りボタンを押す。

ラッキーの時と同様、完璧な引き継ぎである。

「ダスティン、その調子だ」

大河がそう言うと、ダスティンは自慢げに答えた。

「もうこのまま、一気に片付けようぜ!」


 アリゾナのリアクターが稼働し始めてすぐ、真っ青な顔をしてソフィアが大河の元に戻ってきた。

「大河・・・ もうお手上げだわ。どうしても見つからないの、7人目の使者が・・・」

その言葉を聞いて、大河ははっとし目の前が開けたような思いがした。

「7人目? もしかすると、オーストラリアのケビンさんが使者として発見された時、7人の使者は既に揃っていたのではないのか?」

この突拍子もない大河の言葉に、ソフィアは驚いた。

「それどういう事、大河?」

「そうだ、そうだよ、ソフィア! 頼む、俺は手を離せないから行けないが、君は隣のシミュレーション室へ行って君自身、例の穴に手を入れてくれないか!」

ソフィアは、それを聞いてきょとんとしている。

「わからないのか、ソフィア。君は、『伝えし使者』の役目が終わったと同時に『操りし使者』へとなったんだよ。ずっと思っていたんだ、君の役目の事を。さあ、早く俺の疑問を証明してくれ!」

ソフィアは、大河から言われた事をまだ理解できずにいる。

しかし、大河のただごとではない凄みのある言葉に、半ば引きずり込まれるようにシミュレーション室へと行き、パネル下にある人の手形をした窪みに左手を入れた。

すると、今まで消えていたパネルがともり、ミッションのシミュレーションが出来る状態となった。

6人の使者が、これまで行ってきたリアクターの操作を出来る状態となったのである。

これは、使者がまた一人誕生した証であった。

ソフィアは、それを確認すると大河の元へと戻った。

「大河、私操りし使者なの?」

大河が、嬉しそうに答えた。

「そうだ、ソフィア。ここに来たとき、君の今後のミッションへの関わり方について話をした事、覚えているかい?」

「ええ、私はこの沖縄、国連、そして祖国アメリカのためミッションを成功させるマネジメントをするのが使命だと思ってきた」

「俺も今までそう思ってきた。だけど、それだけじゃなかった。初めから終わりまで君は、このミッションに携わるよう異星人はプログラムしていた。君が思っているマネジメントは、ある意味ジョンでも使命を与えられ、やろうと思えば出来たはずだ。だけど、使者としてこのミッションに関わる事は、君でなくては出来ない。だから、沖縄の操りし使者は君だ、ソフィア!」

ソフィアは、大きく頷きながら頭を振った。

「なんだか、もう訳がわからない! けど、道が開けたのも事実だわ、大河。ところで、私はこれからどうすればいいの?」

それに対し、早口で大河は叫んだ。

「シミュレーターが反応したという事は、リアクターが反応したという事だ! この沖縄のどこかにリアクターが出現しているはずだ。まず、その場所を確認するんだ、ソフィア! たぶん、この状況だ。調べればすぐわかるだろう。後は、君がそこに行き最後のミッションを行うだけだ!」

ソフィアは、大河の手を握り言う。

「わかった、大河! すぐ確認する。リアクターの操作は、6人分見ているから大体わかるけど、私でも大丈夫かしら?」

大河は、ソフィアの手を強く握りしめ言う。

「君なら出来る。必ずやり遂げられる。安心してここから見ているよ。さあ行くんだ、ソフィア!」

ソフィアは、目を細めながら大河に言う。

「大河、フォローよろしく。ここの連絡役は、今から長澤にお願いする。それじゃ、行ってくるわ、大河。現地に着いたらすぐ連絡する!」

「了解だ。急ぐんだ!」

大河の言葉を聞くや、ソフィアはまた息絶え絶えに走り出し塔を後にした。

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