第38話 絶望からの帰還
【西暦20××年4月16日15時13分】
16日15時過ぎキャンベラ国際空港に着いたケビンは、ヘリを飛ばしやっとの思いでエアーズロックに向かった。
現地に近くなると、エアーズロックの中心にそびえ立つ青白い炎のような光りを放つ巨大オブジェを確認できる。
「あれが、異星人の作ったリアクターか・・・」
もう既にミッション開始予定時間まで3時間を切った今、不思議とケビンに妙な焦りはない。
光を放つリアクターの近くにヘリで降ろして貰ったケビンは、大河に言われたとおりリアクターの基部に手をかざした。
すると、青い炎のような光りが赤い光りに変わり、そこに人が入れるくらいの穴が開いていく。
中は廊下になっており、中心部まで行くと首里のタワーでシミュレートした操作室と同じ部屋があった。
部屋は明るかったが、ケビンがメインパネル前のコントロールチェアーに座ると暗くなり、メインパネルに外の風景が映し出された。
椅子に座ると、体に合わせるように柔らかい素材の物質で包み込まれる。
左右にある操作レバーをつかんだケビンは、ゆっくりと上に引いた。
するとパネルに映し出された風景が地面より上に持ち上がっていく。
「ケビンさん、スタンバイオーケーですか?」
首里のコントロールタワーにいる大河から連絡が来た。
ケビンがリアクターに入ると、その情報がすぐ首里のコントロールタワーメインパネルに表示された。
コントロールタワーと各リアクターは、どういうネットワークでつながっているかわからないが、7人がそれぞれに連絡が取り合えるようになっている。
首里のコントロールタワーが中継地点になっている事は明らかで、大河と6人それぞれダイレクトに連絡を取り合えるようになっていた。
「大河、今リアクターに入った。そちらで、シミュレートした事を確認している所だ。それにしても、全くもってびっくりしているよ。これが、2千年もの間ここにあったとは。30分ほど時間をくれ。操作確認が取れ、準備ができたら連絡する」
大河は、6人の中でシミュレーションに時間をかけられなかったケビンが少々不安だったが、この言葉を聞いて安心した。
「それでは、戦いの開始時間をそちらのパネルに送ります。開始は私が指示します。後は、段取り通りよろしくお願いします」
ケビンが、力強く答える。
「了解だ。月がパネル上に見えてきた。いよいよ決戦の時だな」
【西暦20××年4月16日16時58分】
大河は、最終確認の連絡を、残り5人の使者にそれぞれ取っていった。
戦いは、最初オーストラリアから始まり、次に2時間ほどして中国、やはり同じタイミングでロシア、南アフリカ、アリゾナ、そして最後ハワイで締めくくる予定である。
全体の行程は、約半日ほどと本来月が地球を一周する時間より短い。
月が本来の地球との距離の半分近くまで接近している事によって、時間が縮まっているためだ。
このミッションで最も重要なのは、それぞれのリアクターが出す月の自転に影響を与えるエネルギー波を次のリアクターに引き継ぐ時である。
タイミングを誤ると、月へ及ぼしている力が削がれる可能性があるのだと言う。
従って、特にこのタイミングは、大河の腕の見せ所となる。
5人の使者とスケジュール等の最終確認が終わった頃、オーストラリアのケビンから連絡があった。
「大河、大体リアクターの操作方法が実感できた。いつでも始めて良いよ」
「ケビンさん、了解しました。あと1時間もすると、そちらの月がほぼ所定の位置に上がるはずです。開始5分前に連絡しますので、それまで待機していて下さい」
大河はそう言うと、ケビンの態度を心強く思った。
リアクター、いや、異星人が選んだ人選は間違っていなかったと改めて思う。
この一連の会話を、大河の後ろで聞いていたソフィアが話しかけた。
「準備が整ったようね。もう少し時間があるようなので、私、国連と大統領にミッション開始予定の報告をしてくるわ。開始前、また戻ってくるわね」
「ソフィア、了解した。必ずミッションは、成功させると伝えてきてくれ」
大河がそう言うと、ソフィアは報告のため一端タワーを出て行った。
メインパネルの右に映し出されているミッション開始リミットを示すバロメーターは、ほぼ0%を示している。
「頼むぞ、間に合ってくれよ!」
大河は、神に祈るような気持ちでミッションの最終準備に取りかかった。
10.絶望からの帰還(西暦20××年4月16日)
【西暦20××年4月16日18時5分】
コントロールタワーから大学に戻ったソフィアは、すぐさま国連とホワイトハウスに連絡を取った。
「頼んだぞ、ソフィア。プレッシャーをかけるつもりはないが、正直、君等の肩に全世界の運命が託されている。しっかり頑張ってくれ!」
大統領はそう言い残すと、手短に言葉を残し通信を切った。
もう、彼女等にすべてをかけるしかないのだ。
後は神のみぞ知る、固唾を飲んで見守るしかない。
ウイルソンは、ホワイトハウスの執務室でNASAやNSAのスタッフ等とミッションの成功を祈った。
ソフィアが、コントロールタワーに戻るため大学の外に出ると、通常の3倍以上になった月が昇り始めている。
その姿は、不気味そのものだった。
まるで、獲物に襲いかかるハイエナを間近に見るような雰囲気である。
ソフィアは、月をにらみながら呟いた。
「日頃、あんなに美しい姿をしているのに。今は魔物ね・・・」
時間は18時を回り、ミッション開始の時間となった。
沖縄は、丁度梅雨前で気温や湿度共に心地良く、またこの日特に気持ち良い風が吹いている。
ソフィアが、タワーに戻ると早速大河は行動を開始した。
「お帰り、ソフィア。時間だ、始めるよ」
「了解、大河。頑張って」
そう言うと、大河が座るコントロールチェアー後ろに置いた椅子に腰掛けた。
それを確認した大河は、メインパネルに映し出されているターゲットスコープの枠をレバー操作しながらオーストラリアに合わせた。
すると画面が、オーストラリアのエアーズロック上空にある月を映し出した。
いよいよ、決戦の始まりである。
大河は、ケビンに声をかけた。
「ケビンさん、今から始めます。用意は良いですか?」
「オーケーだ、大河。こちらの月の照準は、もう既に合わしてあるはずだ。そちらで、確認してくれ。大丈夫なら、発射の合図をくれ」
落ち着いた調子でそうケビンが言うと、大河はパネルに映し出された月がターゲットスコープの中央に合っているか確認し言った。
「ケビンさん、ばっちりです。それでは、今から5つ数えますのでそれと同時に発射してください」
大河は、すべての操作を確認し一呼吸置いてから言った。
「行きますよ・・・ 5,4,3,2,1、発射!」
大河の合図と同時にケビンは、操作レバーについている発射ボタンを押した。
すると、聞いた事の無い巨大な音と振動がケビンを襲った。
そして、リアクター上部のL字型になっている筒から月に向かって青い光り、たとえるならやはり矢のような閃光が見た事の無いものすごいスピードで放たれた。
それは発射後、絶え間なく連続し放ち続けられる。
明らかに月へと向かった光りは、月を青い光りで包み込みながら力を加えているように見えた。
絶えず微調整を行いながら、ケビンは大河に言った。
「この振動と音は、相当きついな、大河。月はどんな状況だい!」
ケビンは、相当振動が激しい状況であるためか少し窮屈そうな声だった。
「ケビンさん、少し右に操作してください。そうです、オーケーです。順調だと思いますが、まだ月が動き出したかどうかわかりません。そのうち、情報が得られたら報告します。あと1時間ほどです。頑張ってください!」
リアクターのスコープは、コントロールタワーのスコープと比べ位置の精度がなぜか少し落ちた。
そのため、絶えず大河の指示で修正が必要だった。
大河から上下左右にリアクターを動かすよう指示が出る度、ケビンは操作レバーを使ってリアクターを操作した。
また、月に照射しているエネルギーの出所はどこか定かで無かったが、L字の照射側と反対の方から何やらエネルギーが取り込まれるように青い光点の固まりが吸い込まれるのが見えた。
月を動かす程のエネルギーを、異星人がどのようにして手に入れたのか皆目見当もつかない。
だが、そのエネルギーの出所にいる使者の体には相当の負担があった。
異星人は、その事があらかじめわかっていたのであろう。
そのため、使者は不死身の体が必要だったのだ。
ただ、各リアクターを首里のコントロールタワーから操作せず、なぜわざわざ使者を使って現地のリアクターで操作する必要があったのか理由はわからなかった。
その後ミッションは、順調に進んでいった。
1時間ほど経ち、NASAが測量した結果、止まりそうだった月の自転が回転を始めていると確認された。
わずかであるが、結果も出てきている。
異星人が、この地球を救うため壮大な計画を企てた事が真実である事が証明された。
NASAの報告が発表された後、地球上の誰もがそう思った。
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