第35話 ハワイの操りし使者(マウア=キャサリン)

【西暦20××年4月10日10時10分】

 10日の朝、嘉手納基地に2機のF18ホーネット戦闘機が着陸した。

その内の1機、後部座席に乗っていたのは、かわいらしいまだ年端もいかない目のくりくりした女の子だった。

彼女の名は、マウア=キャサリン、19歳。

ハワイ大学の学生である。

その目鼻立ちはくっきりし、スタイルの良さは地元民族であるメネフネ族の子孫ゆえか容姿がすこぶる端麗であった。

「ここが沖縄なの? ハワイより蒸し暑いけど綺麗な所ね」

F18のキャノピーをパイロットに開けて貰ったマウアは、タラップを降りながら呟いた。

下で待っていたアイゼンハワーが、待っていたとばかりマウアを迎える。

「ようこそ、ミズ・マウア=キャサリン。やっと、アメリカ人を迎える事が出来たぜ。しかも、べっぴんさんときている」

すると、マウアがきゃぴ声で答える。

「こんにちは、アイゼンハワー司令官。来るとき大統領から、私自身に直接連絡がありました。あなたの活躍を期待しているですって! もうびっくりするやら感激するやらで、お父さんやお母さんにも報告したのだけどとても喜んでいたわ。私、頑張りますので応援よろしくお願いします!」

それを聞いたアイゼンハワーは、目を細めた。

やはり、アメリカ女子はそうこなくてはという感じである。

アイゼンハワーは、調子に乗りマウアに言った。

「おお、そうか、そうか! 頑張ってくれよ、祖国のために。いや、世界のために。おじさんも応援するからな!」

それを聞いて、すかさずマウアがアイゼンハワーに言った。

「応援第一弾として司令官にお願い。私、おなかぺこぺこなんです!」

「おおそうか、そうか。そいじゃ、今からブランチといこうか。おい、準備しろ、ボビー!」

アイゼンハワーは、更に調子に乗り、横にいた少尉に向かって命令する。

「司令官。お言葉ですが、とんでもないです。さっさと、向こうに止めてあるヘリにこの子を乗せて首里に向かって下さい! ブランチとはいきませんが、軽食を用意しますので!」

少尉は、やれやれという口調でアイゼンハワーを諭した。

それを聞いたアイゼンハワーは、少し残念そうな振りを見せマウアに言った。

「うちの部下は気が利かなくて、ごめんよ。時間が無いそうだ」

「いいんです、司令官。軽食2人前もあれば」

2人は、軽食を3人分用意させ至急出発した。

首里城大広間に到着したマウアは、長澤に付き添われ大学へと向かった。

大学の玄関口で待っていたソフィアと大河に会うと、マウアはホワイトアウトに遭った。

この現象について、マウアは事前に聞いていたのでなんら抵抗はなかった。

また、他の使者と違って、マウアが遭遇した事故についてのトラウマも影響しなかった。

しかし、マウアが使者として目覚めた事故は、今までの使者が経験したものとそう変わらないくらい凄惨であった。

いや、むしろマウアの経験は、今までの使者が体験したものと比べ一番酷かったかもしれない。

ただ、マウアにとって幸せだったのは、その事故について発生した時から全く何も覚えていないという事だった。


事故は、今から1週間前の4月3日お昼過ぎ、ハワイ大学の2年生であるマウアのキラウエア火山での研究調査中に起きた。

マウアが大学で取っていたゼミの元に、キラウエアに新しい噴火口が発見されたことからハワイ州より調査依頼が来た。

そのため、現地でマウアも調査に入る事となった。

調査当日、地震計等計器は噴火しそうな測定値ではなかったが、マウア以下教授等

10人の一行は油断するような危険な位置で測量はしていなかった。

しかし、ありえない事に、マウア達の測量しているすぐ近くで巨大な噴火がいきなり起こりはじめた。

当初、一行はびっくりしたが、そこまで深刻とは思わなかった。

キラウエアの噴火は、広範囲に及ばない溶岩を流出するタイプの火山であるので、仮に噴火が起こり始めても逃げる時間は十分あると思われたからだ。

だが、このときは違った。

火山ガスを含む火砕流が、マウア達の元に一瞬にして襲ってきたのだ。

一行は、なすすべがなかった。

たぶん、マウア等は何が起こったかわからないまま1000度を超す噴石に襲われたのだった。

皆、即死状態であっただろう。

事態を察知した州当局は、10人の消息についてすぐさま捜索を始めたが、噴火はしばらくの間続き捜索は勿論現地に入る事すら一時ままならなかった。

やっと、4日目に噴火が小康状態になった。

それでも、1日様子が見られ、5日目にしてやっと捜索が開始された。

現場の状況から10人全員の安否は絶望的であった、1人を除いては・・・ 

9人の遺体は、火山灰に覆われ全身やけ焦がれて見るも無惨な状態で発見された。

しかし、マウアの周りは、まるでマウアを避けるように溶岩が円を描いて固まっていた。

そして、彼女は火山灰の中にぽっかり浮かんだ姿で無傷のまま発見されたのだ。

5日間、気を失った状態で病院に運ばれ、6日目に目を覚ました。

何事も無かったように。

この奇跡の出来事に、ハワイ中、いや、アメリカ中が歓喜に沸いた。

まるで、女神が降臨してきたようにもてはやされた。

時を同じく使者の捜索が始まり、この件についてすぐ調査が入った。

当然のごとく、彼女が使者である事が判明した。


「こんにちは、マウイ。あなたは、今や国中の人気者ね。私は、ソフィア」

ソフィアは、大河とジョセフを紹介し直ぐさま本題に入った。

「マウア、良く聞いてね。このミッションのタイムリミットは、あとわずか5日しかない。あなたは、勇気があって頭が良いと報告書にあるわ。大河の言う事をよく聞いて、この大役うまくこなしてちょうだいね」

マウアは、長い髪をすかしながら、やはりきゃぴ声で答えた。

「了解しました、ソフィアさん。大河さん、ジョセフさん、よろしくお願いします」

ジョセフが、嬉しそうに言った。

「このミッションが成功したら、君は名実共にアメリカ合衆国の女神になるぞ!」

その後、ジョセフは、大河等と一緒に塔のメインパネルにあるタイムリミットを示すグラフの確認をしたいと言って同行した。

一緒に、長澤もめずらしく同行した。

この2人の魂胆は、マウアがお目当てである事は見え見えである。

「ジョン、長澤君、頼むからじゃましないでくれよ」

大河は、やれやれといった風でこの2人に言う。

「邪魔しません。見ているだけです」

大河も、マウアを見ているとまんざらでもなかった。

それだけ、裾が短めの水色のワンピース姿がよく似合うマウアは、とても魅力的な女性に写った。


「ふん、なによ。小娘ごときに鼻の下伸ばしちゃって・・・」

ソフィアはそう呟き、オーストラリアの使者捜索の状況を確認しに通信室へと消えた。

国連からの情報では、オーストラリアの使者捜索状況はやはり芳しくない。

国が違うので思ったように口出しは出来なかったが、ソフィアとしてはすぐにでも現地に行って何とかしたい気持ちでいっぱいだ。

とにかく、もうミッションを実行するまで、沖縄との往復を考えると4日も無いのである。

「いよいよ、やばい」

ソフィアが頭を抱えていると、ハワイのダイアモンドヘッドにリアクターが出現したと国連より連絡が入った。

3時間ほどして、タワーより戻ってきたマウアがソフィアに向かって言った。

「ソフィアさん、必ず成功してみせるので応援してね」

この子、性格は良いのだけど、天然過ぎて年上の女子から嫌がられるタイプよね 

そう思いつつ、ソフィアはマウアをハワイへと送り出した。

その横では、いつまでも手を振っているジョセフと長澤がいた。

時は、10日の14時を過ぎていた。

それから、最後の使者が見つかるまでまさか4日もかかるとはソフィア等は夢にも思わない。

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