第34話 ラッキー=デューペ

【西暦20××年4月9日23時21分】

 ラッキーを乗せたタイフーンは、嘉手納基地の誘導灯を目印に第1滑走路へと着陸した。

「ラッキーさん、もう到着しましたよ。起きてください!」

パイロットは、戦闘機のキャノピーを開けながらラッキーを起こす。

飛行中、静かなので気を失っているのかと思いきや、無線で連絡してもいびきしか聞こえてこなかった。

パイロットは、それを見て思った。

「ひょっとすると、この人大物かも・・・」

タラップ越しに、パイロットとラッキーがやりとりをしていると、アイゼンハワーがジープで迎えに来た。

「ハイサイ、沖縄へようこそ。アフリカの使者よ! 名前は・・・」

「ラッキー・デューペといいます、司令官」

タラップを降りきったラッキーは、英語で答えた。

「そりゃ最高の名前だ、ラッキー! 頼むぞ、あの迫り来る月を何とかしてくれ」

天空に一段と巨大となっていく月を指しながら、アイゼンハワーは言った。

パイロットを残し、ラッキーはアイゼンハワーと共に首里城へと向かった。

ヘリで10分ほど飛び、首里城の大広間に着陸すると長澤が出迎えた。

そして、その足で大学へと向かう。

「はるばる、遠くから来ていただきありがとうございます。これから、あなたと同じ仲間の使者と会いますが、その時事件で感じたホワイトアウトにまた遭遇すると思います。お互いのファーストコンタクト時、必ず起こる現象のようなので心配されなくて結構ですよ」

そう長澤から説明を受けている最中、もう既にラッキーにホワイトアウトが始まっていた。

「もう少し早く言ってくれ!」

ソフィアと大河にとっては、お決まりのご挨拶代わりとなったこの現象について、大河はふと疑問に思う事があった。

「ソフィア、我々次々来る使者とコンタクトを取っているけど、各地の使者同士はお互い会っていないよね。我々が、というかこの塔で指揮する自分が会えば事足りるのだろうか?」

ソフィアも、その疑問は感じていた。

ただ、その疑問の先にもう一つ不安があった。

これから先の、自分の存在意義についてである。

ソフィアは、このミッションを遂行する大役を大統領から仰せつかっている。

しかし、そもそも伝えし使者としての役目は、このミッションの意義からして終わっているはずである。

「大河、たぶんあなたが思っているように、操りし使者はあなたと個人的にコンタクトを取れれば大丈夫なのよ。ただ・・・」

ソフィアは、言葉を濁した。

「ただ、なんだよ、ソフィア」

大河が言葉を発したと同時に、陽気なアイゼンハワーが大声を上げながら大学のロビーに入ってきた。

「幸福な男のご到着だぜ。入り口のドアの高さが日本人向きなので気をつけな、ラッキー」

確かに大男であるラッキーは、そのまま入ってこられなかった。

ソフィアが、ラッキーに向かって言った。

「デューペさん、初めまして。長旅で疲れているでしょうけど、ごめんなさい。時間が無いので、早速タワーに向かいましょう」

それに対しラッキーは、陽気に答える。

「了解だ。家族のためにも世界のためにも俺は頑張るぞー!」

時間は、もう夜中の0時を過ぎている。

ソフィアは、シミュレーションについてすっかり大河に任せていた。

ミッションのタイムリミットは、後残りどう見ても5日しかない。

16日には、どうしても最初のリアクターを稼働させ月の軌道を変えていかなければならない。

長澤の報告では、国連がつかんでいる情報によると、ハワイの使者は何とか目処がつき明日にでもこちらに来る手配がついているようである。

しかし、オーストラリアの使者については、全く情報がつかめていないらしい。

国連では、5人の使者があまり苦労せず見つけられたため、オーストラリアもそのうち情報が入ってくるだろうと高をくくっていた。

しかし、現地ではそれらしき事件も事故も起きていなかった。

そのため、使者らしい人物も見つけられずにいた。

この事態を憂慮した国連は、安保理国に依頼し、出来うる限りの諜報機関に協力を要請した。

ソフィアに、逐一状況報告していた長澤が困った顔で言った。

「恐らくこれだけ世間を騒がしている事なので、そのうち見つかるとは思うのですが心配です」

ソフィアも、心配しながら長澤に聞いた。

「そうね、絶対見つけなくちゃならないわね。捜索は引き続き任せたわ、長澤。ハワイの子は、明日何時頃着くの?」

長澤は、資料を見ながら報告を続けた。

「今、現地で身体チェックを行っている所です。あの事故に巻き込まれて生存しているなら、使者であるのは間違いないと思われますので、明日一番でハワイを出発するはずです」

「そう、この子もあり得ない状況からの生還なのね」

そう言うとソフィアは、大統領との定期報告のため通信室に向かった。

2時間ほどして、ラッキーが大河によるミッションの説明とリアクターのシミュレーションを一通り終え、タワーより大学に戻ってきた。

「デューペさん、頼みますよ。このミッションは、使者の1人1人が目的を達成しないと成功しないのです」

大学のフロアーで待っていたジョセフは、繰り返しラッキーを諭す。

そこにソフィアが、通信室から出てきた。

「デューペさんのレクチャーが済んだのね。大河、ご苦労様。申し訳ないけど、デューペさん。少なくとも、ここの時間で16日にはミッションを開始しなければなりません。至急、国に帰ってテーブルマウンテンに現れたリアクターの操作について確認して下さい」

ジョセフがそれを聞き、なるほどと言った。

「南アフリカのリアクターは、テーブルマウンテンに出現したんだ。やつら、本当全世界に展開していたんだな」

その後、夜中の3時を過ぎていたが、アイゼンハワーに来てもらいラッキーは闇の中嘉手納基地から南アフリカへと帰って行った。


【西暦20××年4月10日3時24分】

 「ソフィア、深刻な顔をしているな。世の中の状況はかなり悪い、そんなところだろう?」

大河の問いかけに、ソフィアが答えた。

「ええ、ここにいるとあまりわからないけど、ホワイトハウスの情報では世界至るところ沿岸部がほぼ麻痺しているようね。天候にも、影響が出始めているらしいわ。通常、あり得ないような嵐が発生しているようなの。被害の割に、あらかじめ危険を予測していたのが功を奏してか死者は少ないようだけど。それでもこの先、月の接近に伴って予期せぬ非常事態にならないとも限らないわ。もう既に、家を失った人達が各地で暴動を頻繁に起こしている・・・」

それを聞いて、大河は力強く言った。

「ソフィア、少なくとも我々はこの事態を回避するため頑張っているよね。予想外はあるだろうけど、月が接近していることを考えると、ある意味、何が起こっても想定内だよ。今は、自分らが出来る事を精一杯やろう!」

ソフィアは、大河の言葉に元気づけられた。

「そうね、あなたの言うとおり。ただ、少しでもミッション開始を早められればと思って。オーストラリアの使者捜索が、思うようにはかどっていないのよ。でも、頑張りましょう。朝には、ハワイからぴちぴちのかわいい女子大生が到着予定よ。それまで、少し休みましょう」

それを聞いたジョセフと長澤の目が煌めいた。


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