第31話 凋村民
「あんた、名前は?」
アイゼンハワーは、ヘリの中で村民に向かって聞いた。
「凋村民というね」
村民は、流ちょうな英語で答えた。
「お嬢ちゃん、英語が得意だね。職業は?」
アイゼンハワーが質問すると、村民はたまらず答えた。
「おじさん、ドンだけ偉いか知りませんが、これじゃ職務質問よ。もっとましな会話できないの?」
アイゼンハワーは、思わず引いた。
美しい物にはトゲがある、なんて1世紀前の格言を思い黙り込んだ。
そのうち、首里城とその前にそびえ立つ青白い炎のような光りを放つ塔が見えてきた。
首里城に着いた村民は、早速アイゼンハワーに連れられソフィア達の元へ向かった。あらかじめ連絡を受けていたソフィア達は、仮の司令室となっている大学のロビーでアイゼンハワーと村民を出迎えた。
そして、アイゼンハワーは次の使者を出迎えるため折り返し嘉手納基地へと戻っていった。
村民がロビーに到着すると、ソフィア、大河、そして村民に例のホワイトアウトが始まった。
「いつもの事ね」
ソフィアは、使者と会うたびに訪れるこの『出来事』にすっかり慣れたようで、当たり前のように体で受け入れる。
大河は2回目だったが、頭で受け入れた。
問題は、村民だった。
ホワイトアウトが起こると、あの事故のトラウマが襲ったのだ。
そのまま気を失ってしまった。
村民が不死身の体である証拠は、中国当局からソフィア達に情報として既に届いている。
皆、不幸な事故の後だった事によるショックが、ホワイトアウトにより記憶として蘇ったため気を失ったのであろうと想像した。
「大変だったんだね。時間は無いけど、少しここで休ませたらどうだろう、ソフィア」
大河が、訪問者に気を遣った。
「わかったわ。気がつくまで、休ませましょう」
そうソフィアが言うと、村民がおもむろに目を覚ます。
「ごめんなさい、気を失ったのね。また、あの時の現象が起こったわ。怖いけど、でも今そんな事言っている場合ではないのよね。旅の途中で聞いたけど、あまり時間がないのでしょう?」
村民がそう言うと、ソフィアは自分、大河、ジョセフの自己紹介をして事の本題に入った
「村民、あなたが言うように時間がないの。悪いのだけど、状況が状況なだけにかいつまんで説明させてね」
ソフィアは、村民に自分が故郷で体験した事、外にそびえたっているコントロールタワーでの出来事を手短に話した。
それを聞いた村民は多少驚いたが、自身の存命が今回の事に繋がっていると思うとすんなり受け入れる事が出来た。
村民は、ソフィアに向かって言った。
「ソフィア、大体理解できたわ。それじゃあ、早速そのコントロールタワーに行ってレッスンをはじめましょう」
「了解、村民。自分は導きし使者として君にリアクターの操作を教えなきゃならない。よろしく」
大河がそう言うと、村民が答える。
「わかったわ、急ぎましょう。それにしても大河は、日本人のようだけど英語が上手ね」
「僕は、日本語しか喋れないよ」
村民は、大河の説明で使者と意思疎通する場合、言語が必要ない事を知りそれについてはえらくびっくりした。
「便利な世の中? になったわね。私も中国語で喋ろうっと」
大河とソフィアは、村民を連れコントロールタワーに入っていった。
シミュレーションルームのフロントにある穴に村民が左手を入れると、メインルームパネルに映し出されている地図の丁度中国の桂林辺りにアリゾナで示された物と同じ棒状の光りがせり上がってきた。
「よし、準備オーケーだ。村民、言われたとおりリアクターを操作してくれ」
大河がそう言うと、村民はコントロールチェアーに座り操作レバーを掴んだ。
そして、ダミーの月にスコープの照準を合わせ手元のスイッチを押した。
「発射!」
村民の飲み込みが早いせいか、シミュレーションは順調に終了した。
1時間ほどして、ソフィア達は塔から出てきた。
「村民、もしわからない事があったら中国当局を通して連絡して頂戴。すぐ連絡がつくようにしておくわ。でも、たぶん出現したリアクターで大河とはお互い意思疎通が出来るかも」
ソフィアがそう言うと、ジョセフが長澤を通し嘉手納基地への連絡を頼んだ。
アイゼンハワーに、迎えに来てもらうためである。
「村民、祖国に帰ったら早速リアクターに行ってね。月への行動開始は、これから1週間以内に行う予定よ。そうでないと、このミッションを持ってしても月の落下は避けられなくなる。それまでの間、ここで学んだ事を実際リアクターに入り確認して欲しいの。絶対に、失敗は許されない。現地では、国を挙げてあなたをバックアップしてくれるはずよ。頼んだわね」
ソフィアの依頼を聞いた村民は、力強く言った。
「私、出来るだけの事はするわ。話を聞いていると、リアクターを操作する人間って一度死んでもおかしくない状況に置かれたわけでしょう。生かされた分、お返ししなくちゃね。とやかく言いたい事は山ほどあるけど、それはさておきとにかく頑張る。それじゃ、事が終わったら又会いましょう」
そうしているうち、アイゼンハワーが迎えに来た。
アイゼンハワーは、嘉手納基地の司令官という地位にありながらなかなか義理堅く、自ら先頭に立ってこの送迎を仕切っている。
「お嬢ちゃん、迎えに来たよ。祖国を背負った軍人さんが、首を長くして待ってらっしゃるから早く戻った方がいいぜ」
相変わらず憎めないのであるが、ゲスな言い方である。
「おじさん、祖国を背負っていないの?」
村民の痛い一言にアイゼンハワーは、さも罰が悪そうに言った。
「昔ほどでないさ・・・」
村民は、中国へと戻っていった。
長澤によると、桂林にリアクターが出現したと国連より報告があったそうだ。
時間的に、村民がシミュレーション室に入ったタイミングと合っている。
出現場所が桂林の渓谷であったため足場が悪かったが、中国軍は早速リアクター近くに司令室を設置した。
・タイムリミット
【4月9日16時15分】
村民が旅立った後、時間は既に16時となっていた。
3人目の使者の連絡はまだ入っておらず、一時暇が出来た。
大河は、月にアクションを起こすタイムリミットの時間が気になっていた。
「ソフィア、リアクターを動かさなければならないタイムリミットの正確な時間が気にならないか?」
ソフィアは、神妙な面持ちで答えた。
「それは、私も気になっているのよ。1週間という時間を大河が示めしてくれたのだけど、そうだとすると16日がリミットよね」
それを聞いていたジョセフが言った。
「一度、メインパネルにあるグラフを専門家に分析させ、タイムリミットまでの正確な時間を割り出してみてはどうだろう?」
その後、ジョセフの提言により、自衛隊とNSCの分析官が塔に入りパネルの写真やビデオを撮影した。
そのデーターを、早速NASAに送り分析して貰った。
すると、タイムリミットは、4月16日沖縄での月の出17時くらいである事が判明した。
「あと、正味6日かよ!」
それを聞いた長澤がうなった。
そして、皆に言った。
「正確なタイムリミットについて残された時間は、国連に再度報告し使者捜索を急がせるよう言います。何としてでも、残り4人の使者を早急に発見せねば!」
ジョセフが、自分の首に手をかけ言った。
「そうでなければ、ジエンド・・・」
そこへ、長澤のスマホが鳴った。
「国連から連絡です。ロシアの使者らしき人物が見つかったそうです。今、既に向かっており、沖縄にはこれから2時間程で着くそうです」
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