第30話 中国機到来

【西暦20××年4月9日6時37分】

 しばし休憩のため、仮眠を取っていたダスティン以下大河、サンドラ、ジョセフ等がNSC職員に起こされた。

同じ頃、ソフィアも大統領と副長官との話を終え通信室から出てきた。

ソフィアが、起きてきたダスティンに言った。

「ダスティン、至急アリゾナに戻って。グランドキャニオンにエスタナトレーヒが言っていた『リアクター』が出現したそうよ。丁度、あなたがシミュレーションを始めた頃らしい。今、現地では軍が包囲し様子を見ているわ。現地に行ってリアクターに入り、コントロールタワーでシミュレーションした通り本当にできるのか確認してくれる?」

「了解、ソフィー。早速、嘉手納基地からアメリカに戻るよ。現地で、その『リアクター』とやらを拝んでくる。シミュレーションの通り、うまくいったらすぐ連絡しよう」

そうダスティンが言うと、すかさずサンドラが口を挟んだ。

「私も行く!」

ソフィアは、やれやれといった風でサンドラに言った。

「勝手にしなさい、サンディー。全くあんたって人は・・・ 本当、あなた人が変わったみたいよ。お願いだから、これから先ダスティンを支えてね。帰りは、VC25を使っていいから」

2人は、顔を見合わせて叫んだ。

「ありがとう、ソフィー!」

「ヒャッホー、恩に着るよ、ソフィー!」

2人はそう言うと、早速首里城に待機していたヘリで嘉手納基地へと向かった。

基地では、アイゼンハワーがダスティンとサンドラを迎えた。

「待っていたぜ、ベイビー」

本当、このアメリカ人は喋り方や雰囲気からアメリカのよき古き時代の化石と思わせる陽気者である。

「ソフィアから、君達アメリカ行きの連絡は届いている。政府専用機は、いつでも飛び立てるよう準備できているぜ。ハネムーン気分を味わってきな、ベイビー」

「ありがとう、アイゼンハワー司令官!」

サンドラが、嬉しそうに答えた。

もう噂は、すっかりこのお調子者にも伝わっており茶化すネタになっている。

そんな事をおくびにも出さない2人は、VC25のタラップを調子よく駆け上がりアリゾナへと旅立っていった。


【西暦20××年4月9日13時10分】

 その姿を見送ったアイゼンハワーに、管制塔より緊急連絡が入った。

「アイゼンハワー司令官、中国当局より連絡が入っています。内容を読み上げます。『これより貴基地に、我が軍の戦闘機が飛来する予定。許可されたし』との事です。以上。指示をお願いします」

それを聞いたアイゼンハワーは、直ぐさま答えた。

「おいでなすったぜ! 1人目は、お隣の中国さんだ。オーケー、『許可する』と伝えろ。くれぐれも、派手な演出無しでお願いすると付け加えろ!」

「了解しました!」

管制官は、そう答えると機影の確認をレーダーで追った。

だが、管制塔のレーダーになかなか中国機の機影は写らない。

暫くして、もうレーダーに写っておかしくない時間になった。

アイゼンハワーは、時間をもてあまし滑走路で待機していた。

「まだ、こんのか!」

すると、西の空に、黒い機影が海上すれすれ3機基地に向かってくるのが肉眼で確認された。

そして、その機影は爆音と共にアイゼンハワーの頭上を素通りしていった。


「我々は、中国軍である。基地への着陸を許可されたし!」

管制塔に、少々なまりのある英語で着陸許可を求める通信が流れた。

その後、機影は中国機であると確認が取れ、着陸の許可を出すと3機はUターンし順次、第1滑走路、そして第2滑走路に着陸してきた。

それは、アジアの防衛の生命線を担っている嘉手納基地にとって、未来永劫恐らく起こりえない光景だった。

ここに、共産圏の中国戦闘機が降りて来るなんて考えられなかったのである。

緊急事態とはいえ、この事を世界中誰が想像しえたであろう。

「くそー、わざわざご丁寧にステルス機で来やがった!」

アイゼンハワーは、やれやれといった風で着陸した機までジープで向かった。

1機は、ロシア製スホイT50である。

後の護衛機と見られる2機は、未完成と言われている中国国産機のJ20に見えた。スホイから、中年のパイロットとそして同じく軍服を着た若い女性が降りてきた。

と同時にタラップには、アイゼンハワーの乗った車が到着した。

中国のパイロットは、アイゼンハワーが基地司令官だと察し握手を求め言った。

「私は中国軍所属中佐、王といいます。貴基地に、着陸許可下さりありがとうございます。あなた方が欲している人物を、ここに連れてきております。中国は、この危機の回避を切に望んでいます。よって、最大限協力するつもりである事を、我が軍の将軍より伝えるよう言われています。この者についても、よしなに扱い下さい」

この中佐の言葉を聞き、会ったら不届きなパイロットを怒鳴ろうかと思っていたアイゼンハワーの気持ちが萎えた。

ここまで、下手に出られては文句も言えない。

「この嘉手納基地にようこそ、王中佐。たぶん、共産国でこの基地に来たのは君達が最初だろう。光栄に思っていいぞ。連れてきた女性については、この危機を回避できる貴重な存在だ。丁寧に扱わせて貰うよ。ところで、おたくらが乗ってきたJ20らしきやつはもう完成していたのかね?」

アイゼンハワーの余計とも思われるこの質問に対し、中佐は耳元で神妙に答えた。

「ここだけの話ですが、我が中国軍を見くびってはなりません。もう既に、実戦配備されています。なんなら、あそこにある貴殿のF35とドッグファイトしてみますか?」

そういって、格納庫に入っているF35ステルス機を指さし王はにやりと笑った。

「おいおい、冗談ではない!」

そう言いアイゼンハワーは、中佐以下を基地に待機させ、用意したヘリで村民を首里城へと連れて行った。

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