第29話 中国の操りし使者
【西暦20××年4月9日9時27分】
凋村民は、広西自治区にある桂平蒙圩空軍基地の搭乗控え室にいた。
「これから、私どうなるのかしら?」
村民は、女性用に用意された空軍戦闘機用軍服に着替えようとしていた。
服はつなぎになっており、又、迷彩色のため、いかにも中国らしい、いかつい軍服である。
「なんで、私がこんなごつい服着なくちゃなんないのよ」
凋村民、年齢25歳。
出身は桂林で、仕事は中華航空のキャビンアテンダントをしている。
年の割に優秀で、それにもましてチワン族末裔の美人であったため国際線のパーサーを任されていた。
村民が今空軍基地にいる事の始まりは、丁度1週間前の4月2日、東京成田国際空港発桂林両江国際空港へのフライトをこなしている時だった。
飛行中、特にトラブルもなく、村民の乗るボーイング787機は、何事もなくいつものように着陸態勢に入った。
日はとっくに暮れていたが、空港付近の風速も穏やかで特段問題なかった、着陸直前までは・・・
着陸寸前の一瞬、事が起こった。
突風が真正面から吹き、機は十分な推進力があったにもかかわらず何を考えたのか機長はとっさに機首を上げてしまったのだ。
ひょっとすると多少オーバーランするかもしれないが、そのまま突っ込んでいれば787の性能を持ってすれば安全に着陸できたかもしれない。
しかし、機長判断で機首を上げた。
しかも、突風は尋常の風でなかった。
機は体勢を立て直す間もなく風にあおられ垂直になった。
そして、無惨にも後尾から地面へと真っ逆さまに落ちていったのだ。
その後、ものすごい轟音と共に、機は爆発し燃え上がった。
すぐさま、消防車が駆けつけ消火作業が開始された。
しかし、炎はあっという間機全体に広がり、もう、誰もなすすべがない状態となった。
それは、見るも無惨な恐ろしい惨事だった。
火を完全に消し去ったのは、それから半日もかかった。
当然の事ながら、暫くして乗務員、乗客すべての死亡が伝えられた。
その後、これも当然の事だが搭乗者の家族対応で騒然となり、空港の機能はストップした。
事故現場から回収された死体は、近くの小学校の体育館に並べられた。
直ぐさま、身元確認が始まったが、皆遺体の損傷が激しく捜索は困難を極めた、1人を除いては・・・
空港では、中国警察がある対応に戸惑っていた。
あの事故の中、1人生き残っている人物がいたからだ。
村民である。
本来なら、この惨事の中、一筋の光りとして報道される所だ。
しかし、炎の中どうしても人が生き残れる状況ではなかった事から発表しようにもその説明がつかないでいた。
「とにかく、今は搭乗リストからはずし、詳細がわかるまで極秘にしよう」
担当の警官が言った。
中国の旧態依然とした悪い体質である。
自分達の都合が悪くなるとすぐ隠したがる。
ただ、今回相当アンビリーバブルな事件であり、ひょっとすると誰もがそうしたかもしれない。
その無事だった一人である村民は、発見されたとき気を失っていた。
しかし、その様子は事故などなかったかのように怪我一つしていなかった。
彼女は、犯罪者のように人目を避け地元警察署に連れていかれ事情徴収された。
「着陸の瞬間、機が傾き宙に浮いた所までは覚えています。その後、すぐ白いかすみが広がり始めたのです。そして、何かが入ってくるような感触がありました。その時、たぶん私死んだと思いました。そして、気づいたのは空港の部屋です。後は、何も覚えていません」
その後村民は、軍の研究所に送られ色々な身体検査をさせられた。
しかし、体は健康そのもので何も特別な事はわからなかった。
研究所は困った。
彼女が、なぜ生き残る事が出来たのかを調査し報告しなければならなかったからである。
そんな折り、中国当局に国連から依頼があった。
それは、不死身の体を持った人物を捜索せよだった。
言われた内容の人物は、まさに彼女だった。
当局は、秘密裏にその情報を聞きつけ調査結果を判断し研究所に飛んだ。
「凋村民、君は国家元首の命で今から日本の沖縄に飛んで貰う」
あの日以来、世間の事から全く隔離されていた村民は、あの後飛行機がどうなったのか教えられていなかった。
聞いても良かったのだが、怖くて聞けなかった。
「国家元首が、私直々に命令ですか? そして、沖縄? その地に行く理由はなんですか?」
軍服を着た、若い将兵が答えた。
「今、巷で問題なっている自然現象の驚異を回避する役目が君にはあるそうだ。詳しくはわからないが、その驚異とは月が地球に向かっている事だ。あり得ない話だが、マジらしい。現に、沿岸部は潮汐の影響で我が国でもかなり被害が出ている。確かに、最近の月を見ると大きくなっているような気がするな。何をするかわからないが、まずは現地に飛んでエージェントに会い話を聞いてくれ」
村民は、その後事故にあった飛行機の顛末を知らされた。
予想通りであったが、今は地球を救うというミッションでこのトラウマになりそうな出来事を忘れようとした。
「よくわかんないけど、どの道この国で当局からの依頼拒否なんて出来ないわね。どうせ、一度は死んだ身。どうにでもしてくれって感じよ」
その後、彼女は空軍基地に連れて行かれ沖縄に行く準備に入った。
服を着替え、着の身着のままで部屋のドアを開けた。
外には、将兵が待っており村民は聞いた。
「ところで、沖縄ってどこでしたっけ?」
将校が答えた。
「台湾の隣ですよ」
「結構かかるでしょう。どのくらいの時間飛ぶの?」
そう彼女が問うと、将兵は答えた。
「たぶん、2時間くらいでしょう」
村民は、不思議に思った。
桂林から東京まで少なくとも7時間以上はかかるのに・・・
「ずいぶん早いのね。何かの間違いでしょう」
将兵は、村民を連れ車で滑走路に向かった。
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