第28話 捜索開始
【西暦20××年4月9日1時06分】
3人は、コントロールタワーを一旦引き上げた。
廊下を渡り外に出ると、ジョセフ、サンドラがいつ出てくるかわからない3人を弁財天堂の袂に座って待っていた。
時間は、タワーに入った時から5時間ほど経っており、もう夜の1時を過ぎている。
「おかえり、みんな」
ジョセフは、心配そうに3人を見渡した。
「サンディー、おなかすいたぁー。何か食い物が無いかい」
ダスティンは、恋仲であるサンドラに物乞いをしている。
すると、ジョセフがどこで手に入れたのか、保冷バックを取り出し具の入っていない稲荷寿司とニンニクがあり得ないぐらいきいているフライドチキンが入ったパック、そして炭酸飲料のルートビアを3人に振る舞った。
「かぁー、五臓六腑に染み渡るなあ、この組み合わせ。ありがとう、ジョン」
ダスティンがそう言うと、ジョセフが嬉しそうに答えた。
「長澤の計らいだ。でも彼って沖縄出身でないのに、なんでこうも沖縄のソウルフードを知っているのだろう?」
「どうも、私が聞いた所によると沖縄が大好きみたいよ」
サンドラが答えた。
その長澤は、この地が当分の間ベースになると考え、通信手段確保及び皆が待機する場所を捜していた。
この首里城は、先の戦争によって多くが破壊された。
やがてこの地に国立大学が設立され、その大学も手狭となるのと同時に首里城復興のため移転する事になった。
その後、首里城の再建が始まり、長い時間をかけて全容がほぼ復興することになる。
龍譚池畔の北側に、かつて大学の男子寮があった。
それも移転と共に取り壊され、今は県立芸術大学となっている。
緊急事態との理由で、政府を通し沖縄県の許可を取り、通信設備や待機場所として都合が良いこの大学を米軍は仮設の拠点として整備する事にした。
その整備に、長澤は奔走していた。
また、サンドラは塔から戻ると、約束通りホワイトハウスを通じ全世界に『操りし使者』の捜索について発信した。
首里城にそびえ立つコントロールタワーをバックに、物語が現実のものであると吹きまくり、ホワイトハウスを信じ込ませ国連を焚きつけた。
不死身の体を持つ使者捜索が、今まさに全世界に渡り繰り広げられようとしていた。5カ所の地域は限定されたが、情報に関して有力なものは、この際何でも集められた。
暫くすると、長澤が戻ってきた。
大学の仮司令室としての整備は、自衛隊の協力により即席であるが早々に終わったそうだ。
アイゼンハワーはというと、世界からこの沖縄に来る使者を迎える準備のため一足先に嘉手納基地へと戻った。
そしてソフィア達は、通信設備が整備された池の北側にある大学へと向かった。
時間は、既に夜中の2時を過ぎている。
大学の校舎の中には、通信設備の外に待機場所として各部屋に仮眠室が用意されている。
一行は、全神経を研ぎ澄ますような事ばかり次々起こったため、精神的、肉体的にほとほと疲れていた。
特に、大河の消耗は激しかった。
それを案じたソフィアは、長澤に依頼しそれぞれの面々に休息する部屋を用意してもらった。
そして、4時間と時間を決め仮眠する事にした。
「大河、今日はいろんな事がありすぎて、戸惑い疲れたでしょう。あまり時間はないけど、一時休んでね」
そう言うソフィアに、大河は答えた。
「気持ちは未だ整理出来ないけど、もうそうも言ってられないくらい疲れたようだ。申し訳ない、少し休むよ」
そう言って、与えられた部屋へと向かった。
ダスティン、サンドラ、ジョセフの3人も、それぞれ与えられた部屋へと向かった。それを見届けたソフィアは、長澤に言った。
「長澤、お願い。ホワイトハウスのウイルソン大統領とアーネスト副長官にテレビ電話をつないで欲しいの。できる?」
長澤は、心配そうに言った。
「分析官、休まなくていいのですか? 向こうは、今お昼前なので、たぶんすぐ連絡を取る事は出来ると思いますが」
そんな長澤の気遣いにお構いなく、ソフィアは言った。
「どうしても、ここで得た物語の全容を伝えなければならないの。準備して貰っていい?」
「了解しました。少し時間を下さい」
「どのくらい?」
「10分ほどお待ち下さい」
「わかったわ。準備できるまで、少しソファーで休んでいるので呼びに来てね」
そうソフィアから命令された長澤は、テレビ電話用の部屋に詰めている技術員にホワイトハウスへの連絡を指示するため向かった。
ソフィアは、大統領や叔父に今までの出来事を的確に伝えるため、近くのソファーに座り頭の中を整理し始めた。
たぶん、5分くらい考えただろうか。
その後、記憶が無くなった。
暫くして、長澤に起こされ時間を確認すると3時を過ぎていた。
8.操りし使者達(西暦20××年4月9日~16日)
【西暦20××年4月9日3時32分】
「起こしてって言ったのに!!!」
ソフィアは、長澤に向かっていきなり喚いた。
目は、ひどくつり上がっている。
「申し訳ありません。大統領と副長官に連絡が取れ、すぐ分析官を呼んだのですが、眠っておられたものですから。あまりにも眠りが深く、お二人にその状況を話したところ、今暫くそっとしてやれという事だったので・・・」
長澤は、罰が悪そうに釈明した。
ソフィアは、長澤に向かって言った。
「心遣いとっても嬉しい。だけど、これから先、一刻も猶予がないのよ。私の事も含めて、心を鬼にして行動するのよ!」
それを聞いて、長澤ははっとした。
確かに、ソフィアが言うようにもう時間が無いのだ。
それが、痛いほどわかっているソフィアの言葉だけに重みがあった。
長澤は、ソフィアに謝った。
「アルベルト分析官、了解しました。今後、気をつけます」
「気を使ってもらってごめんなさい。タワーに行ってますます時間がない事が判明し、私自身が非常に焦っているのよ。タイムリミットまで、あとわずか1週間しかないの」
ソフィアからその事を聞いて、長澤は慌てた。
「分析官。す、す、すぐホワイトハウスとNSAに連絡します!」
長澤は、通信室に走り去った。
その後を、ソフィアもついて行く。
通信室は、大学の講義室だった所に整備してある。
黒板には大型ディスプレイが設置され、そこに10名ぐらいの面々によってテレビ会議が出来るよう準備が進められていた。
正面傍らにはネット関係の機器が並び、8人の米軍、大使館職員、NSCの技術員が忙しそうにホワイトハウスや国連と連絡を取り合っている。
沖縄は夜中だが、アメリカは今お昼過ぎである。
大統領はホワイトハウスに、副長官はNSA本部にそれぞれ待機しておりすぐ連絡がついた。
まず、最初にウイルソンがソフィアに声をかけた。
「やあ、ソフィア。だいぶ疲れているようだね、大丈夫か?」
スクリーンに、ウイルソン大統領とアーネスト副長官の顔がそれぞれ写った。
そう言いながら、大統領の顔も少し疲れ気味だった。
ソフィアは、講義室の生徒用座席に立ち挨拶した。
用意されたカメラが、ソフィアの顔を写した。
「ええ、大統領、ありがとうございます。少し仮眠が取れ、だいぶ元気になりました。沖縄での出来事、大体の所サンドラから聞いていると思います。それに加え、これからここ首里城に出現したタワーの中で体験した事を、重ねて今からお話ししたいと思いますがよろしいでしょうか?」
すると、アーネストが2人に割って入った。
「元気か、ソフィー・・・」
「おじさん、いや副長官。なんとか生きています」
ソフィアは、叔父の言葉を聞き、なんだか急に心強くなった
「そうか、大変だが祖国のため頑張ってくれよ。ところでソフィー、アリゾナのグランドキャニオンに5時間くらい前、巨大な建造物が地中から出現した。あの瓦と同じような、青白い光りを放った非常に大きなものだ。それは、物語に関係しているものだろう?」
ソフィアは、直ぐさま答えた。
「副長官、それは物語に出てきた月に光りの矢を放つ装置です。彼らは、『リアクター』と呼んでいました」
「彼ら?・・・」
ウイルソンもアーネストも、同時に驚き叫んだ。
ソフィアは、2人のリアクションを当然だと思い続けた。
「ええ。今からそれも含め、ここにあるコントロールタワーでの話をしたいと思います」
2人とも、神妙な面持ちで頷いた。
ソフィアは、コントロールタワーで知り得た事を包み隠さず2人に話した。
2千年前の事、エスタナトレーヒの事、これからしなければならない事、そして残された時間がわずかしかない事、これは特に強調した。
それを聞いた2人は、愕然とした。
大方2人共、インディアンがこの仕組みやそして首里城、グランドキャニオンに出現した桁はずれた装置を作ったとは思っていなかった。
だが、それにしても2千年も昔にそんな事があったなんて・・・
しかも、恐ろしい驚異を残し、我々子孫にそれを回避させようとしている。
全く理解できない・・・
おまけに、この驚異を回避するため行動しなければならない残された時間は、わずか1週間だときている。
ウイルソンは、気を取り直し言った。
「頭が混乱して今すぐ理解できる状態ではないが、とにかく時間が無い事だけはわかった。早速、行動しよう。国連には、特に情報収集を急がせるつもりだ。また、再度緊急安保理を招集し、少なくとも理事国には今聞いた事を話すとしよう。確認だが、『リアクター』が出現するであろう6カ所の場所をもう一回教えてくれ。まずオーストラリア、そして中国、北ヨーロッパ、南アフリカ、それとアリゾナ、ハワイだったな。アリゾナは別として、現地の我々の諜報機関にもはっぱをかけよう。アーネスト、君の方の情報はどうだ?」
アーネストは、資料を見ながら答えた。
「グランドキャニオンに出現したその『リアクター』は、軍が包囲し見張っています。今の所、目立った動きはないようです。また、各地の情報が少しずつ入ってきており、その国の諜報機関が使者かどうかの確定に入っている所です。使者と断定した所で、現地の軍に頼み、至急その人物を嘉手納基地に運んで貰う手はずとなっています」
アーネストがそう答えると、ウイルソンがすかさず聞いた。
「抜かりないな、副長官! 今のところ、使者についての有力な情報がある場所はどこだ?」
アーネストは、ゆっくりと答えた。
「中国です!」
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