第27話 リアクター

【西暦20××年4月8日22時07分】

 「あんた達、いつからできているのよ?」

ソフィアが嫌みっぽく言うと、ダスティンはそっぽを向いた。

「まあいいや、ちょっとがっかりだけど今それどころじゃないわね。さあ、ダスティンが『操りし使者』だという証拠をつかみに行きましょう!」

そう言って、ソフィアは自分に言い聞かせるように左奥の扉へと向かった。

そこは、『リアクター』の操縦室と思われる部屋が用意されているはずだった。

中に入ると部屋は明るかった。

中央にパイロットチェアーとおぼしき椅子があり、それには両脇に左右レバーがついていた。

それで、操縦するのだろうか? 

また、前面にパネルがあるのだが、そこにはまだ何も写っていなかった。

そして、パネル下にはエスタナトレーヒが言っていた手形様の穴が開いていた。

「たぶん、この穴に左手を入れると何か起こるんだよな」

そう言って、ダスティンは操縦席に座った。

そして、その前にある手形をした穴に左手を落とした。

すると、パネルが光り出し、そして月が映し出された。

と同時に、ダスティンは、座った椅子から体に合わせ出てきた柔らかい素材の物質でホールドされていった。

又、頭に覆い被さるようにヘルメット様の帽子が被さり、丁度、目の辺りサングラスのようなバイザーが下りてきた。

ソフィアと大河が、びっくりしながら見ているとダスティンが大河に語りかけた。

「大河、メインルームにスタンバイするようパネルから指示が出ている。隣の部屋に行って俺に指示してくれ」

後ろで見ていた大河は、ダスティンにそう言われメインコントロールルームに向かいパネル前の椅子に座った。

やはり、ダスティンと同じように大河の体にホールドが始まった。

頭部には、ヘルメットが被さりバイザーが下りてきた。

すると、大河の頭の中にメインパネルやサイドパネル、上部パネルそれぞれの意味や使い方の説明が例のごとく意識として頭の中に入ってくるではないか。

「大河、スタンバイオーケー?」

ダスティンの言葉が、大河の頭の中に入ってきた。

明らかに、隣の部屋からの声ではない。

どうやら、この椅子のシステムでダスティンとはタイムリーに意志が繋がるようだ。

「オールクリアーだ、ダスティン。それじゃあ、ダミーのリアクターをシミュレーションしてくれ!」

大河にそう言われたダスティンは、両手でそれぞれ椅子の左右に付いている操縦レバーを握り左右前後に動かしていった。

パネルには、ターゲットスコープらしき赤の枠があり、月が写った場所まで操縦レバーで枠を持っていくと枠の色が青色に変わった。

「ファイヤー!」

ダスティンは、操縦レバーについている発射スイッチを押した。

すると、激しい音と振動が伝わり月に向かって何かが発射されたような感じになった。

たぶん、実際はエスタナトレーヒが言っていたエネルギー波がリアクターから発射されるのであろう。

「ダスティン、少しずつ右に舵を取っていってくれ。そうだ、少しずつ・・・ その調子だ!」

自分の眼前にある上部パネルを見ながら、大河はそう言った。

大河は、ダスティンが動いている月を捉えるシミュレーションをパネルで見ながら行っているのだが、動く情報を的確にダスティンに伝え操作させているのだった。

この一連の操作は、2人にとってそう難しい事ではなかった。

月がターゲットスコープから外れると、すぐアラームが鳴り教えてくれるし、その修正はお互い意思疎通が取れているので割合簡単だった。

シミュレーションは、30分程で終わった。

「シミュレーション、無事終わったわね、お二人さん」

側で見ていたソフィアが、2人をねぎらった。

2人とも操縦レバーから手を離し上体を起こすと体を拘束していた椅子から解放された。

そして、メインコントロール室に集まった。

「ところで、大河。このコントロールパネルに表示されている意味をそれぞれ説明してくれるかしら。たぶん、伝授されているのでしょう?」

ソフィアが質問すると、大河は深刻な顔をして答えるのだった。


・タイムリミット

 「パネルの説明をする前に、エスタナトレーヒがメッセージを発信した時のスケジュールを思い出して欲しい。彼は、今から世界各地にあるリアクターを操縦する使者を捜しだし、そしてここに連れてくるように指示していた。次に、自分とダスティンとが行ったようなシミュレーションをした後、又、すぐ現地に連れて帰らねばならないと言っていた。サンドラが今、その段取りを手際よくやってくれていると思う。問題は、それをどのくらいでやってしまわなければならないかだ!」

大河はそう言うと、メインパネル右側にあるサイドパネルを指さした。

そこには、縦にグラフが3本示されていた。

右側の1本は緑の線が70%くらい埋まっており、真ん中のグラフは半分ほど埋まっている。

また、左側のグラフはまだ何も埋まっていなかった。

「この右側のグラフは、月が地球に近づくに従って緑の線が減っていくらしい。0%が、地球と衝突する時だ。それから推測すると月と地球との距離は、現在通常の7割の位置に接近していると推測できる。また、一番左側のグラフは、ミッションが達成されていくに従って緑の線が埋まっていくらしい。全部埋まれば、嬉しいミッション達成だ。問題なのは、真ん中のグラフだ。リアクターが、月の軌道を修正できるタイムリミットを示しているらしい。今、5割ぐらいを示しているね。エスタナトレーヒの説明では、月が地球との通常距離より半分以下になると、リアクターは月を押し戻せなくなると言っていた。このグラフは、時間にして約2週間でカウントダウンを始めるらしい。見ると、線がもう既に半分無くなっているのがわかるだろう。このまま行くと、あと1週間足らずで0%になってしまう。つまり、考えたくもないが、このミッションのタイムリミットはあと1週間ぐらいしか無いって事だ。リミットの時間が来て、ミッションを開始できないとその時点でゲームオーバーになる」

それを聞いたダスティンが叫んだ。

「オーマイガット! 後、残り1週間かよ。なってこったい! もううかうかしてられないじゃないか!」

それを聞いたソフィアは冷静な口調で言った。

「エスタナトレーヒが、申し訳ないと言っていたはずだわ。それにしても、あまりにも時間がなさ過ぎるわね。まあ、今は彼の言う事を信じましょう。私達に、このミッションを達成できる能力があると言う事を。ただ、一歩間違えるとアウト。やはり、肝は各地の使者をいかに効率よく探し出せるかだわ。一旦、ここを出て指示を急がせましょう。ダスティン、あなたは本国にこのまま帰って、どこかに出現しているリアクターの操作準備をしてくれるかしら」

すかさず、ダスティンが答えた。

「了解した、ソフィー。サンディーも一緒でいいだろう?」

無茶振りするダスティンを横目で見ながら、ソフィアがぶっきらぼうに答えた。

「もうサンディーは、用無しだからどこでも連れてっていいわよ。どうぞ後勝手に!」

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