第26話 インディアンの神様

 「起きてよ、みんな、起きて!」

真っ青な顔をしたサンドラが、涙ながらにダスティンの体をさすっている。

「痛いよ、サンディー・・・」

ダスティンは、サンドラの手を握りながら呟いた。

ソフィアが、サンドラに聞いた。

「私達、どのくらいこうしていたの?」

顔に赤みが戻ったサンドラが答えた。

「心配したよ。パネルの光りを見たとたん、みんな倒れ込むのだもの。でも、意識が無かったのは時間的に5分あったかどうかよ。本当に戻ってきてくれて良かった!」

3人は、驚愕した。

3人の感覚では、今の体験はどう見ても半日は経っているように思えたからだ。

おもむろにソフィアが言った。

「なんだったけぇ、あの異星人の名。エス・・・ エスタト・・・」

思わず、ダスティンが答えた。

「エスタナトレーヒだ。インディアンの神様だよ。ソフィーは、学識高いけど自分のルーツには疎いんだな」

「そう、ダスティン、アリゾナ出身よね。伝説の話は幼い頃聞いた事あったけど、中身や名前なんて覚えてもいなかったわ。この異星人が伝説まで引き継いだとも思えないし、最初異星人の言葉は、私達それぞれの意識の中で理解されるものと言っていた。私達が、この5分足らずの内に脳に入ってきた信号を自分の言葉で理解したって事だよね。驚きだわ! 私とダスティンは、同じ国だし生まれた環境も似通っているけど、大河は日本人。大河、エスタナトレーヒって言葉があなたの中に出てきた?」

ソフィアの問いに一瞬戸惑った大河だったが、すぐ思い直し答えた。

「はっきり覚えていないけど、そのような名前だった。たぶん、ソフィアが言っている信号ってすべて共通のものだと思う。あいつらが、2千年前仕組んだ事は、脈々とその地で語り継がれていった。あいつらの目的を、確実に達成させるためにね。それにしても、納得できないな。奴らの尻ぬぐいを、なんで自分達がやらなければならないって事だよ。合点がいかない・・・」

ソフィアは言った。

「それでもやらなくっちゃ。このままだと、人類を含むこの地球上の生き物は絶滅してしまうわ。大河、気持ちはわかるけど私達に選択の余地は無いのよ。そうでしょう、ダスティン!」

ダスティンが答えた。

「そのようだな。大河、頑張ろう!」

それに対し大河が答える。

「さすが、アメリカ人。気持ちがポジティブだな。いずれにしても、やらなければ自分だけでなく家族も死ぬのだし、確かに選択肢はない。頑張るか! さあ、ミッションの続きだ。まず、あいつは最初にパネルを見ろと言っていたっけ」

そう言われて見ると、この部屋のパネルに世界地図が全面映し出されている。

そして、エスタナトレーヒが言っていた『リアクター』の出現場所であろう所が丸く浮き出ていた。

ここ沖縄は別として、南半球のオーストラリア付近、東南アジアの中国付近、北欧あたり、明らかに南アフリカ付近、そしてアメリカのアリゾナ付近、最後はたぶんハワイ島であろう6カ所が示されている。

これからのミッション第1段階は、月を元の状態に戻すため、月を修正できる各地に仕込まれたリアクターが選んだ操りし使者を捜し出す事である。

アメリカのリアクターが、ダスティンを選択している事は間違いなかった。

これから先、後5カ所については、早急に不死身の体をキーポイントとして世界の全精力を駆使し捜索しなければならなかった。

サンドラは、大河との会話が全くわからない。

また、3人が体験した異星人の説明も聞いていない中で、彼らが話す会話についていけなかった。

ソフィアは、困惑しているサンドラに言った。

「サンディー、たぶん私達が今ホワイトアウトによって体験した事を話し出すと半日以上かかってしまうの。かいつまんで言うと、この物語を作ったのは、約2千年前に当時の地球に飛来した異星人よ。今の地球を救う為に、このミッションを仕組んだ事は確か。今から、その仕組みを解明していくのだけど、あなたはこれからここにいても意味がわからないと思う。そこで一旦、外にいるジョン達にこの状況を知らせてくれるかしら。時間はあまりないけど、ミッションを達成できれば、確実にこの地球は救われるとホワイトハウスに伝えて欲しい。そして、この5カ所の地域でダスティンみたいに不死身の体を持った人物を、国連にお願いし捜し出して欲しいのよ。見つかったら、ここへの移送も含め、ジョン達に説明し早急に動くよう指示して! それと、難しいと思うけど混乱させたくないので私が戻って説明するまで異星人の事は伏せておいて。できる?」

サンドラは、びっくりしながらも頷き言った。

「わかったわ、ソフィー。みんなが倒れたとき、正直言って血の気が引いたわ。お願いだから、無理しないでね。伝言や指示については、任せて。ある事無い事言って、ホワイトハウスだけじゃなく、世界を安心させるわ。だから、頑張って頂戴!」

そう言って、つかつかとダスティンの元に行きハグした。

どうやら、いつのまにか2人はできているらしい。

「不思議よね、2回も殺されかけたのに・・・」

そう呟くソフィアに対し、あきれ顔で大河が答えた。

「状況はよくわからないが、たぶん、窮地の恋だ・・・」

長いハグの後、サンドラはジョン達の元へ戻っていった。

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