第25話 与えし使者

【西暦20××年4月8日20時16分】

 穴は、人一人余裕で入れそうな大きさだった。

まず、最初にダスティンが中へと入っていった。

穴は、なだらかな坂となっており、真っ暗だったので自衛隊に貸してもらったごつい懐中電灯を照らしてみた。

壁の材質は、金属ともプラスチックともいえない柔らかい不思議な感触がした。

ダスティンが入っていくと、ソフィア、サンドラ、大河と続く。

10m程進むと、塔に到達するのではないかと思われた。

暫く進むと、例の青白い光りが見えてきた。

よく見ると、その先が広がっている。

まさに、この塔の入り口であった。

「さあ、心して入るぞ!」

ダスティンが、先頭切って中に入った。

後の連中は、躊躇している。

すると、中からダスティンの大声が聞こえた。

「みんな、中に入ってきても大丈夫だ」

それを確認し、3人は順番に入っていった。

入り口は、広間となっており奥の方へと廊下が続いている。

中は明るく、白壁となっていた。

ダスティンが入ると、センサーが働いたのか明かりがついたようである。

直径30mくらいのスペースなので、そこまで奥行きは無い。

連中は、廊下を進んでいった。

すると、また入り口があった。

4人は、その入り口へと向かった。

中にはいると、正面と左右、そしてその上部にパネルが見える。

下の方には、コントロール装置のようなデスクがあった。

そして、明らかにそれを操るためのものとおぼしき椅子がこちらを向いている。

「この場所は、間違いなく物語が進むために使われるコントロールルームのようね」

サンドラが、辺りを見渡し言った。

「瓦が反応している! 赤く点滅してる!」

ソフィアが叫んだ。

それを見た大河は、机の前部フロントに丁度瓦ぐらいが入りそうな穴があるのに気づいた。

「その椅子の前、そこの穴に瓦を突っ込むのではないのか?」

ソフィアは、そう大河から言われ瓦をその穴に落とした。

その瞬間、ソフィア、ダスティン、そして大河にまたホワイトアウトが始まった。

そして3人は、その場に立ちすくんだ・・・

ホワイトアウトの先に何かいる。

だけど、うっすらとした影があるだけで何かがわからない。

3人は、皆そう思った。

「私達、どうなったの? サンドラは?」

ソフィアが、ダスティンと大河に聞いた。

どうやら、サンドラは使者ではないのでこの空間にいない。

「今まで、ホワイトアウトを経験した時、その感触だけで終わったけど、今回はなぜみんなと一緒なんだろう?」

更に、ソフィアは2人に問いかけたが2人とも首をひねった。

すると、先にあるうっすらとしたものが見えはじめ、それが喋った。

というか、3人の頭の中に言葉が入ってきたという方が正しいだろう。

そんな感じで、この塔の主がそぞろ語り始めた。

3人は、びっくりして影を追うがやはりはっきりしない。

「ようこそ、我が物語の使者諸君。私は、物語に出てくる『与えし使者』エスタナトレーヒ。最初に言っておくが、君達が聞いている声は、私の思いを形にしているだけで、実は君達の脳に信号を送っているだけだ。目的の信号を君達は君達自身の意識、あるいは言語で理解しているだけと考えてくれ。だから、私は今存在していないし、この物語を成就させるための意志を伝えるだけなので、君達の質問あるいは疑問には答えられない。そこを理解して聞いて欲しい」

そう言うと、影は黙った。

暫くして3人の目の前に、いや頭の中に風景が現れ始めた。

やがて、3人は満天の星空の中にいた。

ただ、足は地に着いていない。

そう、この状況はどう見ても宇宙に漂っているとしか表現のしようがない風景だった。

「私達、ここどこにいるの?」

ソフィアが言った。

「たぶん、我々は、あいつによってバーチャル体験をしているだけだ。そう考えると、この塔の主が我々の脳にこの風景をインプットしているのだろう」

大河が答えた。

それを聞いたダスティンは、周りを見渡しながら呟いた。

「じゃあ、ここはどこなんだ?」

すると、3人の中央に球状をした光りが近づいてきた。

それは、よく見ると地球だった。

3人はそれを確認したとたん、その地球に吸い込まれていった。

気がつくと、そこはエジプトのピラミッドが建立されている場面だった。

その後、すぐ風景が変わり、イタリアのローマらしき所で戦争が始まっているのが見える。

また、一時すると風景が変わり、そこは中国の城の広間で当時の王であろう者の即位式らしき儀式が執り行われていた。

更に、又めまぐるしく風景は変わり、今度は荒れた険しい土地でインディアン同士が馬に乗り戦争を始めている。

まるで、3Dの走馬燈を見ているかのような風景が暫く続いた。

やがて、それは次第にホワイトアウトしていった。

その先に、またうっすらと影が見えてきた。

エスタナトレーヒである。

「私、いや我々はこの時代、君らの時間感覚で約2千年前ここ地球に訪れた異星人である。君達の銀河系の隣にある、アンドロメダ星雲にある星から飛来した。この銀河に来た目的は、星図のマップ作成のためである。その最中、太陽系の中にあるこの地球を発見し、一帯の調査のベースとして一時の間滞在した。当時の君らの文明、文化は我々と違い非常に興味深いものがあったが、基本、他の星について介在する事は我々のルールで禁止されたので観察するだけとしていた。

ところで我々は、当時2隻の宇宙船を持っていた。それぞれに調査する十分な機材が揃っていたが、そのテクノロジーは今の君らの文明ですらたぶん想像を超えるものであろう。しかし、そのテクノロジーは正直言って残念ながら我々が作ったものでなく、遙か彼方の祖先が残した遺産を使ったものだ。我々は、太陽系にあるこの地球から、運良く銀河の色々な情報や地図を短期間で作成する事が出来た。やがて調査も概ね終了し、目的を達成しかけたある日事故が起こった。木星の情報を調査するため発射されたエネルギーが、あろう事か銀河の端を調査するぐらいの規模で発射され、しかもそれは地球の衛星である月の中心部へと当たってしまった。間違いに気づいた我々は、すぐ月に行き修復を計った。その結果、大きな被害が出ず修復する事が出来た・・・ つもりだった。見た目は、以前の通り元に戻ったのだが、修復できない小さなダメージによって長い時間経つと月の中心部の核が溶け出し、それが偏り自転と逆方向に動き出し、ついには自転が止まってしまう事が詳細な調査により判明したのだ。調査の結果、その時は約2千年後、つまり今まさに月に起こっている出来事なのである。その、情報を解析した我々は、我々が起こしたルール違反をなんとか回避しようとした。しかし、どんな努力をしても修復叶わず、結果、月が地球に衝突するのを回避するためには、2千年の時を待つしか方法がない事がわかった。さあどうしたものか? 我々は知識と知恵を絞り、時間をかけ考えた。唯一の方法は、我々がその時までこの地に残り、月が動き出した時修復すれば良いのである。しかし、それは所詮出来ない事だった。我々は、どうしても我が星に帰還する使命があり、その時まで待てなかったのである。その為、別の方法を考えた。そして、最良の方法は、この星の人類に託すしかないという結論に至った。宇宙船の1隻を使い、祖先のテクノロジーが詰まったエンジン部分を月の軌道修正を実行する『リアクター』として改造した。また、併せて約2千年の時が経っても、月衝突回避方法について人類に伝え続ける仕組みを作った。リアクターは、すばらしい力を持っており、この地球に存在する限り偉大な力を発揮する事が出来る。しかし、その力を使うためには、我々の遺伝子が必要であった。申し訳ないと思ったが、2千年後にこのミッションを達成してもらう人類の子孫、すなわち君達に我々の遺伝子を受け継いでもらうようターゲットとなった各地の人類に対しDNA操作をせざるをえなかった。必ず、彼らの子孫に受け継がれる方法によってだ。それは、もう君らは知っているはずだ。そして、その遺伝子を目覚めさせる手段として、月の異常な動きと連動させ、直系で遺伝子を受け継ぐ『伝えし使者』となりうる者に我々が作ったリアクターを操作する板を用意した。また、代々受け継いでもらえるよう、『物語』を作りそれを語り継いでくれる人類を選んだ。我々の選択が間違っていなかった事は、ここに君達が来てくれている事からわかるはずだ。そして、更にこの島で『導きし使者』を見つけ、一緒に来ている事からもわかると思う。また、我々は当時の文明から2千年の時が経つ事により、現在の君らの交通手段や意思疎通のための手段は発達していき、我々のミッションを達成できるだけの条件が整っていると予想し信じた。それも、君達がここに来て我々の説明を聞いてくれている事で証明できた。たぶん、これで大方準備は整った。さて、今から破滅の現状を回避する新たな物語を進めるミッションがスタートする。我々は、ルールを犯した事のせめてもの罪滅ぼしに、知恵を絞りに絞ってハードとソフトの面からこのシステムを当時完成させた。君達が住むこの地球を、そして人類を含むたぐいまれな生物を営む自然を絶やさないため、是非このミッションを成功させて欲しい。君達のミッションは、ここに来た時点で既に約65%達成されている。後の35%は、各地にある月の軌道を修正するリアクターを操作できる『操りし使者』を見つけ出す事だ。君達が目覚めた時、このコントロールルーム正面パネルにリアクターが存在する地が示されている。さあ、君達世界の英知を絞って、今から操りし使者を捜し出すのだ。我々の遺伝子を受け継いだ使者は、もう既に月が動き出した時から、現地のリアクターが選び出しているはずである。捜し出すポイントは、『不死身の体』を持っているという事だ。捜し出した各地の使者は、次のミッションとしてこの部屋の隣にあるトレーニングルームにてリアクターの操作を導きし使者と共に覚えてもらう事になっている。その操作方法について、両者が各パネルの前に座ったときに伝授されよう。また、操りし使者かどうかは、その者がトレーニングルームにある手形に左手を差し込めばわかる。メインパネルに、その地のリアクター出現が表示されるはずだ。リアクターの操作方法がトレーニングされたら、早速操りし使者はその地のリアクターに戻って操作室に入り『その時』を待ってもらう。申し訳ないが、たぶん、現在君らに残された時間はそうそう無いはずだ。そのタイムリミットは、メインパネル右のバロメーターグラフによって示されている。あらためて確認するが、この先ミッションを完成させる鍵は、確実に操りし使者を捜し出す事だ。それが出来れば、この物語はほぼ100%達成する事が出来よう。しかし、逆に1台でもリアクターを稼働させられなかったら、間違いなく月の軌道を元の状態に戻す事は出来ない。しかも、リアクターが使えるのは1回限りだ。途中までうまくいっても、必ず月の衝突は避けられない状況に再びなってしまう。このミッションを成功させるも否も、後は、君らの勇気と知恵に頼るしかない。我々が、この地球を救うために力を貸せるのはここまでだ。この先は、もう幸運を祈るしかない。我々は、地球が、この銀河の中の唯一のオアシスであり続ける事を願ってやまない・・・」

一時、沈黙が続いた。

たぶんほんの一時だった思う。

しかし、ソフィア等には随分長い時間に感じた。

そして、又目の前がホワイトアウトしていき現実に引き戻された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る