第24話 首里城

7.古代の過ち(西暦20××年4月8日~9日)


【西暦20××年4月8日17時51分】

 那覇市の小高い丘に、14世紀末、琉球王朝の時代建てられた首里城という山城がある。

当時の城は、太平洋戦争の沖縄戦で戦火に遭い破壊されたため今ある城は数少ない資料を元に復元された。

しかし、その復元もむなしく完成後すぐに漏電事故によりまたもや焼失してしまう。だが、設計図があったのと材質にこだわらず景観そのままにわずか5年という短時間で今まで以上に貫禄のある城が復元された。

そのほとりに、龍潭池と呼ばれる人工池がある。

これは、琉球王朝が当時中国からの使者をもてなすため造成したものだ。

この池の合間から、丁度ソフィアらと大河が病院で出会った直後、地響きをたてながら巨大な円錐型の塔が現れた。

その大きさは、直径30メートル高さ40メートルになろうかという巨大なものである。

外壁は、真っ黒であるのだが、表面は瓦と同じように青白い炎のような不気味な光りを放っている。

ソフィア一行は、オスプレイでグランドを飛び立ち10分ほどで首里城上空に到達した。

報告通り、巨大な塔が首里城のほとりに見える。

それを確認した一行は、着陸場所を捜した。

首里城には大広間があり、そこに着陸するのが適当と思われたので、既に到着している現地の警察に誘導を頼み着陸した。

一行はオスプレイから降りると、城の下に当たる龍潭池にそびえる塔まで歩いていった。

塔をよく見ると、なだらかな円錐形になっており、てっぺんは少しふくらんでいた。そして、なぜかその部分がくるくると回転している。

池の周りは、既に沖縄駐屯陸上自衛隊の武装した隊員達が1個中隊分周りを囲み待機していた。

長澤は、隊の長である中尉の所に行き状況を聞いた。

確認が取れたのは、今の所近づいても危険は無さそうという事だけだった。

他は、調査中で何もわかっていない。

また、この塔には入り口らしきものが見あたらないとの事であった。

それを聞いたソフィア達は、塔の近くまで行ってみた。

ソフィアは、塔を見上げながら言った。

「でかいね。サンドラ、この物体どう思う?」

サンドラは、塔の様子を見ながらおもむろに答えた。

「導きし使者と遭遇し、その後出てきたものよ。きっと、物語の鍵を解くキーステーションだわ。とにかく、どこか入り口があるはず。みんな捜して!」

そう言われ、一行は周りを見渡すが、やはり見た目それらしきものは無い。

というか、外壁自体継ぎ目さえ無いのだ。

しかも、池の中にあるので近寄ろうにもボートが必要である。

しょうがないので、長澤は自衛隊にボートを用意するよう命じた。

時は、夕方も過ぎ、日もとっぷりと暮れた。

今まで黙っていたアイゼンハワーが、しびれを切らし言った。

「ボートが来るまで、少し休憩しようぜ。長澤、申し訳ないがみんなに飲み物でも用意してくれないか?」

「イエス、サー」

そう言うと、長澤は近くの自動販売機に行き、よせばいいのに三品茶(沖縄風ジャスミンティー)やルートビアといった沖縄独特の飲料水を大量に買ってきた。

大河には不評であったが、緊張と疲れから背に腹は変えられないといった風で他のみんなは喜んで飲んだ。

ソフィアは、たぶんこの何時間か訳のわからない状況に出くわし頭が混乱している大河のために、今まで起こった出来事をかいつまんで説明していった。

大河は、NSA職員であるソフィアに向き合い、ただただ聞くしかなかった。

そして、事実を知り驚いた。

「君の説明を聞いて、今、この地球が危機的状況に置かれている事は何となく理解できた。でも、なぜ危機回避する方法を我々に託したのか、そしてわざわざこのストーリーを考え仕組んだのか。そして、何よりわからないのは誰が? この、手の込んだ作戦を練ったんだ? 謎だらけだな、こりゃあ」

そう言い大河は、350ml缶のルートビアをごくごくと飲み干した。

ソフィアは、大河に大まかな事を説明した後、少々足が疲れたので座って休める場所を捜した。

辺りを見渡すと、池の奥の方に橋があり赤瓦の堂が見えたのでそこに行ってみた。

入り口に『弁財天堂』と書かれている。

その前に立つと、いきなり持っていた瓦が点滅し始め、堂の前の地面が崩れ落ちぽっかり穴が開いた。

「ええっ、何でこの建物にこんな仕掛けがあんの!」

ソフィアは、大声を上げた。

それを聞きつけ、皆寄ってきた。

堂の前の穴は明らかに作られた物であり、人1人入れるほどの空洞ができている。

それが、なだらかな斜面上に塔の方へと続いているように見えた。

駆けつけたダスティンが、中を覗きながら言った。

「ここが作られた時期は、この建物が先か、空洞が先かわからんが、物語を演出したやつは相当手が込んでやがる。俺等が、本当にここまでこられると思ってやがったのか不思議だよ。そうだろう、みんな!」

それを聞いたジョセフが答えた。

「たぶん、今、この物語を作ったやつの思惑通りに事は進んでいるのだろう! でも少なくとも、やつらがこの地球を救おうとしているのは確かなんじゃないか。そうであれば、今となってはもうとやかく言わず、余談無く突き進むしかないな!」

「おう、そうだ、その通りだ。そうと決まれば、もうここを行くしかない。行くぞ、みんな!」

かけ声だけは、調子のいいアイゼンハワーである。

一応、中から何が出てくるかわからないので武装する事も考えた。

しかし、この物語の趣旨を考えるとそれは無縁のように思えたので、一行は懐中電灯のみ無防備で入る事にした。

中に入るのは、ソフィア、ダスティン、サンドラ、そして、大河の4人である。

アイゼンハワー、ジョセフ、長澤らは、緊急事態のために備え外で待機となった。今、起こっている地球の危機、そして今後どうなるのか? 

そして、危機を脱するためにどう物語が進んでいくのか? 

またその方法は? 

これらの疑問を、この塔は教えてくれるのだろうか? 

まさに、その答えをもらうため、洞穴の奥の中に潜む何か? に一心を託すソフィア等であった。

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