第23話 導きし使者

 「室長、どうしました? 大丈夫ですか?」

ひとみは、心配そうにしゃがみ込んでいる大河をのぞき込んだ。

「なんだろう、この感覚は・・・」

大河はそう言って立ち上がると、ドアの前にアメリカ人女性が立っていた。

そして、その女性は大河を見るなりいきなり抱きついた。

美人のアメリカ人女性に抱きつかれた大河は、悪い気はしなかった。

しかし、何も出来ず訳のわからない抱擁に対し、ただただ呆然とするだけだった。


「良かった、会えた、会えたのね。本当に奇跡だわ! ありがとう!」

ソフィアは、そう言いながら涙を流した。

もし、この地で、導きし使者に会えなければ万事休すであり、地球の未来も無い。

そんなプレッシャーから、ソフィアはつい感情的になってしまった。

その後、長澤は現地で用意してくれた通訳を連れてきた。

使者が日本人の場合、会話が出来ない可能性があるからだ。

ダスティンは、まだ大河に抱きついているソフィアを無理矢理引き離した。

ソフィアは、我に返り大河に言った。

「初めまして。アメリカ政府は、あなたをはるばる探しに来ました。詳細は後で話すとして、あなたにはこれから我々と行動を共にし、地球の危機を救う手助けをしてもらわなければなりません。日本政府には、すべての了解を取っています。あなたをこれから、言葉は悪いですが拘束します」

それを聞いた大河は、びっくりするのと同時に不思議に思う。

このアメリカ人は、やけに日本語が上手だな。

それなのになぜ、通訳とおぼしき人が又同じ事を言うのか? 

大河は、この人達は日本語が通じるのだと思い日本語で話した。

「私は、麓大河と言います。この状況について、非常にびっくりしているのですが緊急事態である事は感じます。それはさておき、単純な質問して良いですか?」

ソフィアもダスティンもホワイトアウト後、今自分達の前で喋っている日本人に何か違和感があった

「どうぞ、ミスターフモト」

ソフィアは言った。

「なんで、お二人とも日本語が上手なのに、わざわざ通訳を使うのですか?」

「???」

ソフィアとダスティンは、アイゼンハワーやサンドラ、ジョセフに大河が喋っている事が理解できるか確認した。

すると、皆日本語は喋れないので首をそれぞれ振った。

ソフィアは叫んだ。

「もしかすると、私達、この人と言語を超えて理解し合えているのかしら?」

ダスティンが、ソフィアに答えた。

「俺は、NSAでソフィーに初めて会ってホワイトアウトした後、多少話す言葉に違和感があった。ただ、その時は、方言か何かの違いぐらいに思っていたけど、実は我々あのとき既に言葉では話していなかったのかもしれない」

それを聞いた大河が言った。

「君らが来た時から何が起きているのか全く訳がわからない。しかし、我々3人が出会った時、ホワイトアウトを体験してからお互いの言語を超えて通じ合えるようになったのはわかった。申し訳ない、もう少し詳しい説明を聞かせてくれないか?」

通訳を通し、それを聞いたサンドラはやれやれややこしい事になっている、そう感じた。

しかし、この地球を救う最後の砦に一歩進んだ事は事実であり、皆内心ほっとした。アイゼンハワーは、相も変わらずこの状況に「ワンダフル!」を連発している。

とにかく、ソフィアは伝えし使者の使命である導きし使者を確保出来た事に胸をなで下ろしていた。


その時、ソフィア達の後ろで事の成り行きを見守っていた長澤のスマホに沖縄駐屯の自衛隊から緊急の連絡が入った。

用件を聞いた長澤は、大河に事の説明を始めようとしていたソフィア達の間に立ち流ちょうな英語で割って入った。

「皆さん、今自衛隊から緊急連絡が入りました。首里城の麓に龍潭池という場所があります。そこに、高さ40mを超す巨大な塔が出現したそうです。その塔は、瓦のような青白い光りを放っているそうです!」

皆、それを聞いて驚愕した。

「たぶん、瓦が導きし使者と接触した事が引き金になり、物語の次のステップが始まったのではないですかね!」

ジョセフが、興奮気味に喋った。

「こうしちゃいられねえ。みんな、次は首里城だ。さあ、ここを引き上げて出発するぞ!」

アイゼンハワーが、号令をかけた。

「そうですね、行きましょう!」

ソフィアは、大河の手を引いた。

もう、大河は全く訳がわからないままついて行くしかなかった。

そこに、比嘉院長の姿があった。

「院長先生、どうなっているのかわかりませんが、ちょっと仕事を抜けます。す、す、すいません!」

比嘉は、大河に向かって言った。

「麓君、病院は君がいなくても回る。よくわからんが、君は今、日本いや地球を背負っているのだ。しっかり頑張ってきてくれたまえ! 『まくとぅそーけー、なんくるないさー』(正しい事をしていれば、世の中なんとかなるものだ)『ゆたさるぐとぅ、うにげーさびらー』(よろしく頼んだぞ)!」

大河は、院長の方言を交えた黄金(くがに)言葉に頷き、複雑な気持ちでソフィア達についていった。

「俺って、いつも仕事であんまり必要とされてないからな・・・」

グランドでは、オスプレイが既にローターを回している。

兵士を数名残し、大河を加えた一行は突如現れた巨大塔がある首里城へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る